Rooftop ルーフトップ

INTERVIEW

トップインタビューよしむらひらく

大器を予感させる気鋭のシンガー・ソングライター、
初の公式アルバムで比類なき音楽性を開花

2011.07.14

"満を持して"という言葉がこれほど相応しい作品も他にないのではないか。弱冠24歳のシンガー・ソングライター、よしむらひらくが放つ初の公式アルバム、その名も『はじめなかおわり』。日常生活の中で沸々と芽生える感情や心をふるわせる景色を一篇の歌に託す行為それ自体はオーソドックスなものだが、琴線に触れる流麗なメロディ・ライン、叙情性に溢れた詞の世界にはただならぬセンスを感じる。彼は独り善がりに心の痛みを吐露することもなければ、連帯感を強いるようなメッセージ・ソングを声高に唄うこともない。自身を取り巻く社会に対して毒突くことなどあるわけもない。奇を衒うことなく、ただひたむきに、誠実に、うつろいゆく情感を掬い上げて普遍性の高い歌に昇華させるだけだ。聴き手を選ばない大衆性の高さから口当たりの良いポップ・ソングとして享受することもできるだろうし、深読みしようと思えばいくらでもできる文学的な歌詞や随所に仕掛けられたトラップの如き緻密なアレンジには聴くたびに新たな発見があるだろう。いずれにせよ、耳の肥えたリスナーであれば彼が次世代の音楽シーンを牽引していく才能の持ち主であることが判るはず。既存の音楽勢力地図を塗り替えんとする大器の出現に僕は今打ち震えている。(interview:椎名宗之)

写真:冨田里美

歌も人生も独り善がりだった時代を経て

──初の公式アルバムということで、膨大なレパートリーの中から収録曲を決めた基準はどんなところにあったんですか。

ひらく:これまでは極めてパーソナルな世界観と言うか、自分の中でしか通用しないような歌ばかりを作り続けてきたんですけど、その中でも少し開けた感じの曲を選びました。スタッフと話し合いながら「あの曲よりもこっちの曲のほうがいいね」なんて言われて。俺にはその違いがよく判らなかったんだけど。でも、後から考えたらその判断が正しかったんだなと思いますね。

──今までは割と独り善がりな感じの曲が多かった?

ひらく:独り善がりな人生で、独り善がりな歌を唄ってきましたね(笑)。ただひたすらそれだけで。

──自身の歌を伝えることに意識的になったきっかけみたいな出来事が何かあったんですか。

ひらく:直接的なきっかけがあったと言うよりも徐々に変わってきた感じなんですけど、ライヴやCDの注文でお客さんが全然付かない状態が2、3年続いたんですよ。その中でも自分の音楽を気に入ってくれる人が同じミュージシャンでちょこちょこいて、そうやって評価されることが純粋に嬉しかった。それから第三者の目を凄く意識するようになったんですね。それがこの1年くらいの大きな意識の変化だったんじゃないかな。それまでは聴き手に歩み寄ることに対するアンチの感情があって、そんな子供じみた考えがだいぶ薄れてきたような気がする。

──“そう簡単に判ってたまるもんか!”みたいな意識が絶えずあったと。

ひらく:ホントにそうだった。“どうせお前らには判んねぇだろ!?”って気持ちだったし、“だったら人前で唄うなよ!”って感じですけどね、今から思えば(笑)。

──本作のリード・チューンである『春』のように、万人に受け入れられるような広がりのある楽曲を生み出したこともひとつのターニング・ポイントだったのでは?

ひらく:そうかもしれないですね。今まではだいぶ無意識にと言うか、いい加減に音楽活動をやってきたし、2年半前に『春』が出来てからの流れはポイントとしてあった気がします。

──演奏の布陣は通常のライヴと同じ顔触れですか。

ひらく:そうです。ギターだけレコーディングの前後に引退して就活を始めたから今は違うんですけど。リズム隊とコーラスはここ2年くらいずっと一緒にやっていて、ギターとキーボードは1年くらいになるのかな。

──ひらくさんによる多重録音も随所にあるんですよね?

ひらく:ギターが参加しているのが6曲中4曲で、残り2曲を自分で弾いていますね。そこでギターを3、4本重ねました。エンジニアの杉山オサムさんと「このフレーズはさすがにないでしょ!?」「いや、アリでしょ!」なんて爆笑しながら(笑)。「それ拾っちゃうんだ!?」みたいな感じで。そういうやり取りがとても楽しかったですね。何て言うか、オサムさんの精神性は凄くミュージシャン的で、力押しなところと緻密なところのバランスがいい塩梅だったんです。恐らく俺に合わせてくれていたんでしょうけど、レコーディングは凄く楽しかった。

──デモの段階で細部までアレンジを固めてからレコーディングに臨んだんですか。

ひらく:今まではドラム以外の楽器をほぼ自分でやっていたんですけど、録るのも好きなだけ時間があったし、気に入らなければ次の日に録り直すこともできたんです。でも今回は時間が凄くタイトで、初めてのことでバタバタしていたんですね。だからオサムさんがOKってことならOKにしようと思って。最初にオサムさんと会って話した時から“この人なら全幅の信頼が置けるな”と思えたので。

──敢えてまな板の上の鯉になろうと?

ひらく:まさにそんな感じでした。それにバンドのメンバー…特にリズム隊がちゃんと演奏できる人たちだったので、細かい部分は彼らに任せてみようと思って。自分の音楽が独り善がりであるってことに凄く意識的だった頃で、第三者の要素が加わったほうが他の人が聴いたらいいと感じるのかもしれないという半ば諦めみたいな気持ちもあったんですよ(笑)。

──少し前なら、当人以外は気に留めないような細かい部分まで自分の思い通りにやらなければ絶対にイヤだったんですよね?(笑)

ひらく:完全に駄々っ子でしたからね(笑)。まだそんなに時間が経ったわけじゃないですけど、そういう心境の変化は大きいんじゃなかと思います。人の言うことに耳を貸すようになりましたから。

メンバーやスタッフを含めて“よしむらひらく”

──我を貫き通すことも必要ですけど、アイデンティティを手放すことで得られるものや化学変化もありますよね。

ひらく:そうなんですよ。俺は“よしむらひらく”というソロ名義で音楽活動をしていますけど、自分ひとりでやっている気がしていないんです。メンバーやスタッフ、よくしてくれるライヴハウスの人たちを含めたプロジェクト・ネームとして“よしむらひらく”があるんじゃないかなって。メンバーはその都度流動的に変わっていくような感じで。それくらいのスタンスで今はラクにやらせてもらっています。「これやっといて」ってみんなに仕事を分担していったら、自分にはやることがなかったみたいな(笑)。でも、俺はそこにいるだけでいいんだ、くらいの気持ちでいますね。

──ひらくさんの人生において大きな意識改革だったと言えますよね。

ひらく:ホントに。何だろう、どうも最近フワフワしていて。これでCDが発売されて、いろんな反応が出てくるとまた変わってくるのかもしれないけど。今はエアポケットみたいな感覚で、割とゆったりとしています。

──せっかくの機会なので1曲ずつ伺わせて下さい。まず軽快なリズムとビートが昂揚感をいざなう『夜風に吹かれて』はアルバムの幕開けに相応しいナンバーですが、完膚無きまでのバンド・サウンドに仕上がっていますね。

ひらく:アレンジはデモの状態とほぼ同じで、丸々自分が考えた通りなんですよ。尺もリズム・パターンもデモの段階できっちり決めて、それをメンバー各自が演奏するとひとつひとつのパートの精度が上がる。宅録をメンバーに聴かせて、それを再現してもらうのが基本なんですけど、みんなちゃんと方向性を理解してくれているから話が早いんです。

──『夜風に吹かれて』も2曲目の『it's love!!!!』も、サビに入る前のパートがいずれも字余り気味に唄われていますよね。凄く情報量の多い歌詞と言うか。

ひらく:できるだけ押し付けがましくならないように意識はしているんですけど、日本語がひとつひとつ音符に乗っている違和感や不自然さを感じるんですよ。唄うことは普段言葉を話すことと同じじゃないかと考えるようになって、リズム的にはそういうふうに崩れていったのかな。あと、その2曲は詞先で書いたこともある気がします。曲先だったり詞先だったり、ケース・バイ・ケースなんですけど。

──『it's love!!!!』の重いギター・リフは妙なうねりがあって、一度聴くと耳に残りますね。

ひらく:どういうわけか気持ち悪くなっちゃうんですよね(笑)。自分でギターを弾くとどうにも垢抜けないし、粘着質な感じになってしまう。

──確かに(笑)。カラッと乾いた感じにはならないですよね。

ひらく:ホントはそういうふうに弾きたいんですけどね。30歳、40歳になったらそんな感じになるんじゃないかと思いますけど。

──『it's love!!!!』は本作の収録曲の中でもひらくさん独特の言葉遊びが楽しめる1曲ですよね。言葉の妙なところでブレイクを入れてみたり。

ひらく:単純に言葉遊びがやりたかったし、演奏も俺なりのユーモアなんです。イントロでギターとドラムが“ダッ、ダダッ…”って鳴らすところも、聴いている人が笑ってくれたらいいなくらいのノリで。でもやっぱり垢抜けないっていう(笑)。どうしても含みがあるように聴こえちゃうんですよね。

──それは何故なんでしょう?

ひらく:それが俺の人生そのものってことなんでしょうね。屈折したような部分は自分でもイヤなんですけど、こればかりはもうどうしようもない。それを面白がってくれる人もいるから、“まぁいいか”って感じですね。

──歌詞はひらくさんの頭に浮かぶ風景を言語化する感じなんですか。

ひらく:場合によりけりですね。4曲目の『夕闇』という曲はこの中で一番古くて、2008年頃に書いたんですけど、これは思い描いた映像から言葉を引っ張り出してきました。それに比べると『it's love!!!!』は単純に言葉遊びの感覚ですね。

──ナンセンスな言葉遊びでも意味深に聴こえるところが、よしむらひらくがよしむらひらくたる所以なのかなと思いましたが。

ひらく:言葉に対してこだわりがあるって言うか、日本語が凄く好きなんですよね。俺はずっと洋楽が聴けなくて、ここ2週間くらいでやっと聴けるようになったんですよ。

──つい最近じゃないですか(笑)。

ひらく:だから、めちゃめちゃ洋楽歴が浅いんです(笑)。昔から邦楽のポップスばかり聴いてきたし、日本語の歌が好きだったんですね。それは母親の教育もあったのかもしれない。

このアーティストの関連記事

1st Mini Album
はじめなかおわり

1. 夜風に吹かれて
2. it's love!!!!
3. 春
4. 夕闇
5. 夏はゆく
6. 狐の嫁入り
Song-CRUX RTSC-019/1,500円(税込)
発売中

amazonで購入

LIVE INFOライブ情報

2011.7.16(土)
"空中ループpresents「Live across the universe tour vol.1」"

[会場] 新栄CLUB ROCK'N'ROLL
[時間] 開場17:30 開演18:00
[料金] 前売2,300円 当日2,500円(1D別)
[プレイガイド] ローソン(Lコード:43200), e+
[出演] よしむらひらく(バンド編成) / 空中ループ / chori BAND / Turntable films
[問い合わせ] 新栄CLUB ROCK'N'ROL:052-262-5150

2011.7.23(土)
"よしむらひらく 1st mini album『はじめなかおわり』レコ発ツアー"

[会場] 京都Live House nano
[時間] 調整中
[料金] 調整中
[出演] よしむらひらく(バンド編成) / 蜜 ...and more
[問い合わせ] 京都Live House nano:075-254-1930

2011.7.24(日)
"よしむらひらく 1st mini album『はじめなかおわり』レコ発ツアー

『夏のあくび その24〜さよならテレビ〜』"
[会場] 梅田HARDRAIN
[時間] 開場18:00 開演18:30
[料金] 前売1,500円 当日2,000円(1D別)
[出演] よしむらひらく(バンド編成) / ヒトリトビオ / 加納良英 / ヘスペシャンカ DJ : DJなかぐち / 出店 : ピンポン食堂
[問い合わせ] 梅田HARDRAIN:06-6363-5557

松本ロフト
LOFTX Koenjoy
ロフトアーカイブス
復刻
lpo
lpo