Rooftop ルーフトップ

INTERVIEW

シンセな恋の物語

2010.10.06

「NINTENDO DSをシンセサイザーにしてしまう!」というコンセプトの元に開発され、大ヒットを記録したゲーム『KORG DS-10』。全国、いや全世界のクラブで数多くのユーザーがDSを片手にスーパープレイを披露したかと思えば、音楽教育に利用されたりと、その用途はもはやゲームのそれを大きくハミ出し、開発陣の予想を遥かに超えた広がりを見せている。今年12月には、名機の呼び声高いアナログシンセサイザー「KORG M-1」を再現した『KORG M01』の発売も控えているが、そんななか、本ゲームの開発者であり、過去には『鉄拳』シリーズや『リッジレーサー』シリーズの音楽などを手がけてきたミュージックメイカー、佐野電磁(信義)へのインタビューを敢行した。9月にはsanodog名義のオリジナルアルバム『Brightness』を発表し、新会社DETUNEの立ち上げに関わるなど積極的に活動を続ける彼は、今何を考えているのか......。ここには書ききれないほどのお話を訊いてきたぞ!!(interview:前川誠)

オジサンはガハハ!

──そもそも佐野さんが『KORG DS-10』を開発することになったきっかけは?

 当時プロデューサーの岡宮(DETUNE代表取締役社長)が酒の席で、「なんか良い企画ないの?」っていう漠然としたプロデューサートークを展開したのがきっかけですね。その流れでふと、僕が昔持ってたKORGのMS-10というシンセサイザーがNINTENDO DSを開けたときの形に似てるよなって話になって、「もしDSがシンセになったら買いますよね」って。まあウケるかどうかは分からないけど、少なくとも自分達とその周りくらいは買うよねって。

 で、その頃偶然KORGの方と名刺交換をした後だったから、次の日に恐る恐るメールしてみたんですよ。「DSでシンセサイザーを作る……なんて無理ですよね…?」みたいな弱気な姿勢で。そしたら速攻で「そのお話詳しく聞かせてください」って返事が来まして。

──少なくとも最初は、「作るぞ!」という熱意から始まった訳ではないんですね。
 熱意というより、ノリですね(笑)。酔っぱらい特有の「コレ、いけるよ!」っていう悪ノリ。その後KORGさんはもちろん、楽曲制作やゲームのミドルウェアなどを作っているプロキオンスタジオさんも関わってくれたんですけど、とにかくスタッフ全員が変なバイアスがかかった信念とか、マーケティング的にどうだとか、ライトユーザーに向けて云々とか、そういったことはまるで関係なく、「これが出来たら俺たちは嬉しいよね」っていうノリだけで突き進んでいった感じですね。

──ところが、ゲームは大ヒットしました。

 もうね、夢のようですよ。みんな喜んで遊んでくれているし、未だにユーザーの皆さんでDS-10をキッカケにイベントを開催したりCDをリリースしたり、あげくの果てにはDS-10抜きで飲みに行ったりしているらしく、もう訳が分からない(笑)。開発者冥利に尽きますね。普通のゲームの開発じゃまず味わえない感覚だと思います。

──DS-10開発のモチベーションとして、やはり佐野さんのシンセ偏愛は大きかったのでは?

 それはありますね。最近よく思うんですけど、僕が初めてアナログシンセを買ったのが中学校2年生の頃なんですね。で、当然音作りをして遊ぶんですけど、その面白さに共感してくれる人がほとんどいなかったんですよ。もちろん当時はインターネットなんてなかったですから、学校で1人しかシンセ好きがいなかったらそれで終わりなんですよ。で、楽しいといったって限界があるじゃないですか。その頃の「こんなに楽しいのに誰も理解してくれない」っていう気持ちが30年くらい溜まりに溜まっていて、それが今になってこんなにも沢山の人が分かってくれているという、なんと言うかスパークした感じはすごくありますね(笑)。

──随分時間がかかりましたね(笑)。
 かかりましたね〜(笑)。

──そういった佐野さんの偏愛の結果産まれたDS-10が、若いユーザーさんにも受け入れられたのは何故だと思いますか?
 なんででしょうね。特に狙った訳ではなかったんですけど、結局オジサンっていうのは、若手には分からないことを「ガハハ!」って言ってる方が良いんだと思います。その方が結果として、若手が近付いてきてくれる。
 あと、確かに僕は懐古主義的な立場からDS-10を開発したかもしれないけど、今の20代の子が全く同じモノを使っているとは思えないような音を出す。それこそ開発者が予想もしてなかったような使い方をする人まで出てくる。それを見ているとDS-10がゲームじゃなくて、ひとつのツールとしてしっかり昇華したのかなって実感します。喩えるなら、ハサミを発明した人がどれだけ用途を発想できたか、という話に近いのかな? 普通ゲームってひとつの“庭”を用意して、はいココで遊んでください、っていう作り方が多いじゃないですか。だけどDS-10の場合は庭を軽々飛び越して、どこまでも行っちゃう。言うなればゲームじゃなくて、“単なる道具”になってくれたのが本当に嬉しいですね。

モノづくりはイケイケ!

──さて、今回プロデューサーの岡宮さんを取締役としたDETUNEという会社が設立されました。そのDETUNE名義の最初のプロダクトがCD(『Brightness』)というのが、何とも面白いのですが。
 言われてみると確かにそうですね。しかも我が家からamazonさんへ納品するという、まさに家内制手工業の世界で。日々段ボールの山を見ながら「やっぱデータと違って、モノってすごいな」と実感させられてます(笑)。

──これはどういったコンセプトで作られたんですか?
 発端は岡宮の「作ってみなよ」という一言ですね。実は僕の立ち位置って、一旦プロジェクトが走り始めちゃうと意外とやることがないんですよ。それをね、遊ばせておくのは良くないということで(笑)。最初は「ええ〜アルバムかあ、大変だなあ」と思ったんですけど、ラフで作っていた音源を集めてみたらなんとなく形になってきて。そうこうしているうちに暗い曲はイヤだなと思うようになって、ちょっとくらいワンパターンになっても良いから、一枚通して聴いたら「なんだこの高揚感は!?」となるようなCDを目指しました。

──確かに盛り上がるというか、イケイケなアルバムですよね。
 良いですね、今の時代に敢えて「イケイケ」(笑)。世間では西野カナさんが「会いたい会いたい」って言ってますけど、『Brightness』は「会いにいけばいいじゃん」ってアルバムですから。これを聴いて気持ちだけでもアッパーになってもらって、会いに行っちゃいなよって(笑)。

──個人的には、音楽をデータとして扱うDETUNEという会社の第一弾リリースが配信ではなく、CDという“モノ”だった、というのがちょっと面白く感じたのですが。

 確かにデータはリリースする側も受け取る側も楽なんですけど、最近思うのが、一周巡って逆にモノって良いなってことなんですよ。今回もコレを作っていて「ジャケットどうしよう」とか「amazonさんにどうやって納品しよう」とか、そういうので悩むのが結構楽しかった。それこそ、アナログシンセもデジタルシンセが出来たときに「お前らいらない」みたいな風潮になったじゃないですか。デジタルはアナログを凌駕したって。だけど時代が進むにつれてアナログの良さが気付かれてきた訳ですけど、そういうのってあるのかなって思わされましたね。今は全部データにすれば良いじゃんってなってるけど、モノにはまだ気付かれてない良さがあるというか。だからDETUNEでCDという“現物”を出したのは、ちょっと面白いというか、意味はあるかなと。もちろん僕は配信を否定している訳じゃないですけど、でもモノ作りの醍醐味は確実にありますよ。

──ちなみに、そんな佐野さんが今企んでいることは?
 シンセサイザーとドット絵のムービーメイカーを、ひとつのシーケンサーで同時にコントロールして、動画と音を有機的にシンクロさせられるツールを作りたいんですよ。絵と音って普通別になっているけど、それをDS-10のように「何となく触っているうちに出来上がっちゃう」感覚で遊べるようにしたい。動画と音がシンクロしたときの気持ち良さって、ゲーム業界で散々味わって来たので、あの感覚を再現したいんですよね。

──それ、すごく面白そうです! では最後に、佐野さんが今気になっていることを教えてください。
 「勉強」ですね。勉強って「やれ」って言われるとこんなに辛いことはないのに、自分からやろうとするともの凄く楽しいんですよ。仕事ってある程度何かをやったからといってその分の見返りがあるとは限らないけど、勉強はやったらやっただけ確実にリターンがある。これってゲーム感覚……いや、ゲームよりカインドだったりする。話を聞くと、DS-10ユーザーさんもそういう感じだったりするんですよね。操作が分からなくて、いろいろ調べてだんだん方法を身につけていく楽しさというか。そういう意味で、勉強というフロウが今すごく面白いです。

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