Rooftop ルーフトップ

INTERVIEW

トップインタビューsmokin' time, smoothin' time 大塚智昭 新宿LOFT店長('09年10月号)

新宿LOFTは人と人が自由に繋がれる場所なんです

2009.10.01

1976年10月のオープン以来"ライヴハウスの登竜門"と謳われ、全国のバンドマンにとって聖地として君臨し続ける新宿LOFT。そのスタッフとして10年、店長として2年以上LOFTの屋台骨を支えている大塚智昭は根っからの愛飲家であり愛煙家である。理想的な空間作りと他のライヴハウスには実現し得ない訴求力の高いブッキングに日々奔走している彼に、仕事に対する信念と深いこだわり、オンとオフの切り替えには欠かせない一服の効能についてを語ってもらった。(文・構成:椎名宗之)

マニュアル通りではなく真心の籠もった接客を

 新宿LOFTが小滝橋通りから歌舞伎町へ移転して3ヶ月経った頃に働き始めたんですよ。LOFTで働こうと思ったのは、ライヴハウスと言えばLOFTだと思っていたから...と言えば格好が付くんでしょうけど、実は凄くヨコシマな理由だったんです。当時、僕はHi-STANDARDの熱狂的なファンで、ハイスタをLOFTで見るにはどうしたらいいのか考えたんですね。『MAKING THE ROAD』のツアー初日がLOFTであって、チケットがどうしても取れなかったんです。それでどうしようか考えた末に、LOFTで働けば見られるんじゃないかと(笑)。ハイスタだけは本当に別格で、何と言うか、僕の中では仕事じゃないんですよね。この世界で働いている人なら誰しもそういうバンドがいると思うんですよ。自分の誕生日にハイスタとASSFORTのライヴがLOFTであったのも個人的に凄く嬉しかったですし(笑)。  最初はもちろん雑用全般で、ライヴハウスと言うよりも飲食店としての仕事のほうがメインでしたね。まだ18歳だったし、好きなバンドの近くで働けるだけで楽しかった。ライヴハウスと言えばブッキングが主な仕事と思われがちですけど、基本は接客業なんですよね。純粋なお客さんばかりではなく、出演するバンドもお客さんですから、お客さんにもバンドにも居心地の良い空間を提供してもてなしをしたいんです。マニュアル通りの接客ではなく、人として真心の籠もった接客が一番重要なので、そこはスタッフに徹底させています。お客さんには気持ち良くライヴを見て欲しいし、気持ち良く酒を呑んで欲しい。そのためにもスタッフには全力で働いて欲しいし、バンドには全力で演奏して欲しいし、お客さんには全力で見て欲しいんです。こう言うのも何ですけど、僕は人と接するのが余り得意なほうじゃないんですよ(笑)。でも、だからこそ自分から積極的に人に話し掛けて、ちゃんと話し合うのが重要だと思っています。その人のことを100%理解することはできないけれど、"こういう人なんだな"と知ることはできるじゃないですか。そんなふうにその人の人となりを知るのは純粋に楽しいですね。  まぁ、ブッキング面での課題は尽きないですけどね。LOFTでは毎日多種多様なバンドが出演しているし、皆全力を振り絞って演奏していますけど、彼らと向き合う自分のキャパシティの問題もあります。LOFTはオープンから33年を迎える老舗のライヴハウスだし、出演者の年齢層も音楽的なジャンルも凄く幅広いですから。あらゆる音楽が入り混じったオール・ジャンル対応の中で、どれだけ深いこだわりを持ったブッキングができるかを絶えず模索していますね。目端の利く小さなライヴハウスよりも手が行き届いて、キャパシティの大きいライヴハウスよりも幅広いことをやりたいんですよ。ウチは収容人数約500人という中規模のライヴハウスですけど、そこは人間力でカヴァーできると思うんです。


自由で新しい価値観や発想が生まれる空間作り

 LOFTが掲げている"ROCKIN' COMMUNICATION"というモットーは、人と人の出会いを育む空間を創り出したいということなんです。LOFTを触媒として人と人が出会い、そこから自由で新しい価値観や発想が生まれていくという。ライヴ・スペースだけではなく、コミュニケーション・ラウンジ"THE LOFT"というバー・スペースが在るのはそのためなんですよ。手前味噌になりますけど、店内の環境は凄くいいと思いますね。ステージを間近で見たければ自由に前のほうへ行けるし、ちょっと休みたかったりご飯を食べたければバー・スペースがありますし。そして何より、LOFTには刺激的な音楽が常に在る。何処かしら"いいな"と感じられるものを持ったバンドが演奏していますからね。良質な音楽とも出会えるし、お客さん同士が触れ合うこともできて、アーティスト本人と直接対話ができることもあるかもしれない...つまり、LOFTは人と人が自由に繋がれる場所なんです。  そんなLOFTが歌舞伎町という日本一の歓楽街の一角に在ることも面白い。歌舞伎町のカオティックな雰囲気が個人的にも好きだし、そういったあらゆるものを呑み込んだごった煮的な感覚はウチのスケジュールにもよく表れているんじゃないですかね。純度の高いカウンター・カルチャーって、渋谷や池袋よりも新宿から生まれ続けていると思うんです。チンピラじゃない本物の不良って言うか(笑)。そんな意味合いで、本気で打ち込んでいる演歌歌手や本気でその道を往くオタクをブッキングしてみたいですね。LOFTには音楽以外のカウンター・カルチャーをも貪欲に呑み込む懐の深さがあるし、僕自身、かなりの雑食性なんですよ。そのルーツは何かと言えば、十代の頃に初めて付き合った彼女が作ってくれたお好みテープなんですね(笑)。そのテープの中にはハイスタを始め、L'Arc〜en〜Ciel、JUDY AND MARY、GUNS N' ROSES、RANCID、FIRE HOUSE、JEFF BECKとかのヒット曲が洋邦問わず入っていたんです。節操のなさにも程があるだろう、っていう(笑)。そのテープを擦り切れるくらいに何度も聴いて、そこから雑多に掘り下げていったんですよ。だからいい意味での雑食性と言うか柔軟な耳を持てるようになったのは、その当時の彼女のお陰ですね。もう名前は忘れちゃいましたけど(笑)。


作り手の深いこだわりがなければ淘汰される時代

 仕事のオンとオフの使い分けは凄く苦手なんです。打ち上げも完全なオフじゃないし、店で何かが起こった時でも対応できるように、寝る時でも携帯電話を頭の下に置いてますからね。ただ、オンとオフを切り替える有効な手段としてタバコは重宝しています。店長になるまでは現場で指示されたことを作業するのがメインでしたけど、今は空間作りやブッキングを含めたプランニングがメインなんですよ。短い時は10分、長い時は2時間考えあぐねて行き詰まってしまうんですが、そんな時は必ず一服しますね。その一服が必ずしもいいアイディアをもたらすわけではないですけど、行き詰まった時に発想の転換を図ることのできる一番簡単な方法なんです。まぁ、愛煙家には風当たりの強い時代になってきましたけどね。LOFTはライヴ・スペースを禁煙にして、バー・スペースには空気清浄機を設置することで店内を分煙しているんですが、自分は喫煙者なので分煙化を実行するにあたっては葛藤もありました。個人的にはタバコを吸いながらライヴを見たいほうですからね。でも、事前にアンケートを取ってお客さんの声を慎重に聞いた結果、非喫煙者の中にはタバコの煙でアレルギーが出たり、単純にタバコを嫌う人たちが自分の想像以上に存在するのを知ったんですよ。LOFTは誰しもが居心地の良さを感じられる空間であるべきことを考えた時に、分煙化はやっぱり避けられないことだと理解したんですね。  タバコは21歳の時から吸っていて、銘柄は最初からアメリカン・スピリットのメンソール・ライトでした。LOFTのバー・スペースにあるタバコの自販機にアメスピを入れたのも僕なんですよ。単純に、外へ買いに行くのが面倒くさくなったので(笑)。アメスピを吸うきっかけは、自分の好きなレゲエのミュージシャンが好んでアメスピを吸っていたからだったと思います。それと、無添加にこだわるブランドのイメージも好きだし、何より他のタバコを吸ってもしっくり来なかったんですよね。アメスピはちゃんとタバコを味わった気がするって言うか。アメスピって他のタバコに比べて3、40円割高じゃないですか。でも、安くて雑なものよりも、多少高くても美味しいものを僕は選びたいんですよ。コカ・コーラもそうで、普通の缶じゃなくて敢えて復刻の瓶ボトルを買ったりするんです。安ければ何でもいいってわけじゃなくて、作り手の深いこだわりを感じられるものが好きなんでしょうね。僕が愛用しているBiCのライターは100円ライターではあるけど、ちゃんと使う人のことを考えた機能性の高さがあるんです。同様に、熟練した職人が質の高い鞄を作り上げるルイ・ヴィトンの理念にも共感しますね。だから、自分の手掛ける店もライヴのブッキングもそう在りたいんです。そこで働くスタッフやイヴェントの企画者の顔が見える、こだわりの深い店なりブッキングなりを生み出していきたい。景気の底冷えが叫ばれて久しいですが、作り手や発信する側の深いこだわりがなければ淘汰される時代なんだと思いますよ。ガッツのある全力疾走のバンドしか残らないはずだし、自分もどれだけ一緒に全力疾走できるかが今一番の課題なんです。そこで行き詰まった時にはまた一服の力を借りるんでしょうね。

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