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INTERVIEW

トップインタビュー【復刻インタビュー】榎本くるみ(2008年1月号)- ありふれた日常で見つけた小さなきっかけ それがあなたにとっての『未来記念日』

ありふれた日常で見つけた小さなきっかけ それがあなたにとっての『未来記念日』

2008.01.01

たくさんの痛みを知って、たくさんの悲しみを知って、たくさんの笑顔に出会う。もがき続け、過去を消化し、今を生きることに精一杯だった榎本くるみが見つけた小さな出来事。それは誰かのことを大切に思えるようになった気持ちに気付いたこと。そのちょっとした気持ちの変化が、彼女に笑顔を与えてくれた。長いスタンスで付き合える作品になったと言っていた彼女は、とても自信に満ちていた。 伸びやかな歌声は健在で、榎本くるみの魅力を最大限に詰め込んだシングル『未来記念日』。これまでの作品に比べると、より「未来」がフィーチャーされた作品と言える。あなたの"未来記念日"と重ねながら聴いてもらいたい1枚。この作品を聴き、お話を伺い、強さと弱さを持った彼女と出会い、とても温かいものに触ったような気持ちになった。(interview:やまだともこ)

誰かのことを考えられるようになった記念日

── Rooftopは初登場となりますので、最初に音楽を始めたきっかけを聞かせて下さい。

榎本:父親がバンドをやっていたり、母親は毎週お店でピアノと歌の弾き語りをやっていたり、生活の中に音楽がある環境で育ったんです。私も昔から歌うことが好きだったので、20歳の時に本格的に歌ってみようと思い東京に出てきました。特にひとつのジャンルでずっと好きなものというのはなくて、ちょっとした瞬間で聴いた曲に感動していましたね。人生で悩んでいる時に聴いた曲が、自分の中で突き刺さるものを感じていながらも信用できないところもあるんです。でも、自分がやっていく音楽というのは信用したいと思っているんです。自分の気持ちがどんな状況にあっても、良い曲だと思える曲でありたいというのはすごくあって、それを気をつけながら作るようにしています。

── 人生の悩みというと、音楽活動も含めてですか?

榎本:プライベートがほとんどですけど、曲が生み出せないとか歌が上手く歌えないということにも繋がっている部分はあります。人との繋がりだったり疑問に思うことだったり、うまくいかなかったりすることってありますよね。そういう時に音楽を聴くと気持ちを上げてくれるじゃないですか。今まで自分が感動していた曲はその場その場で違うんですけど、かっこいいものとか、聴いていてテクニックがあるものとか、どこかで人の心を動かすものを作りたいんですよ。

── テクニック的なことで言うと『未来記念日』はアレンジがすごくいいなと思ったんです。これはサウンドプロデューサーの根岸孝旨さん(Dr.StrangeLove)と意見を出し合いながら作っていったんですか?

榎本:はい。サウンド面は根岸さんとプロデューサーと一緒に作っていくという感じですが、歌を歌うことでこの曲が見えてくることもあるし、その感覚っていうのは楽器を弾いている人からしたらわからない部分もあると思うんです。その部分をうまく伝えられるように、話し合いながらやってます。

── では、7枚シングルをリリースしてレコーディングのノウハウはわかってきたと思いますけど、今回特に考えて作ったのはどんなところですか?

榎本:曲にする時は相手に伝わった時にどう思うかというのは、1行1行チェックしながら考えてやってます。自分のことばかり言うのはあまり好きではないし、だからといって自分のことをちゃんと話さないと相手は他人事だと思うし、言葉の部分では自分のことを出しながらも相手と共通するものを探しています。『未来記念日』は自分の本音を正直に。話している感じで伝えるというところを意識してます。この曲を聴いてる人が温かい気持ちになって、自分のことだと思えるようになるかというのは話し言葉で伝えるのが良いのかなと思ったんです。

── 聴いてる人が頷きながら聴けるような?

榎本:そうです。M-2の『昨日の未来』はそれこそ記念日じゃないですけど、日常で無意識にやっていることってあるじゃないですか。その無意識にやっていることを忘れたくなかったんです。歌詞は、全体的に意味を持っているということではなくて、単純に普段の生活で起きること、目立ってはいないけれど輝いているもの、今まで忘れていたような物事というのを引っ張り出したくなってきて並べてみたんですよ。並べた中でこれだけいろんなことをやってきたんだなって思いました。日常生活の出来事をいかに覚えていられるか、日常の中で見落としていた小さなことも探しているという曲なんです。この曲は今までの中では珍しいです。

── 明日の目標を書き留めた日記を垣間見るような感じでした。

榎本:忙しいと忘れちゃうってことが多かったんですけど、この歌詞を書いたことによって、気付いたところがあったというか、あまり泣かなくなったし、つまらないことで怒ることも少しずつ減ったような気がします。そういう意味では女の人にこの曲を聴いてもらいたいです。読み返してみても、ハッとする部分がありますから。私は作れる歌と作れない歌があったんです。あと、サボってきたこともあったり、いろんな困難があったり、楽しいこともあったり、いろんな曲を作ってきたんだなって思います。『昨日の未来』もそうですけど、“未来記念日”という記念日を迎えてからの曲は、素直に長いスタンスで歌うことができる曲なのかなって思ってます。それと、たくさんの人と共有できるために、この曲を知ってもらい、たくさんの人たちに聴いてもらいたいです。

抱きしめてもらいたいという願望

── 今までの榎本さんが書く愛の曲は、感情移入しすぎて聴いていてすごく悲しくなった記憶があります。

榎本:今までの曲も未来っていうものがちゃんと入っている楽曲にはなっているんですよ。でも、そう言われる気持ちもわかるし、『夕陽が丘』(2007年12月リリースのシングル)もそうでしたけど、全部ひっくるめて「好き」という表現なんです。人をどれだけ好きでいられるか。と言っても、「好き」という形ってうまく見えて来ないじゃないですか。うまく見えていないけれど、一人の人を好きになるということが自分の中でどういうことだと思うのかが最後まで描いてあるんです。次のステップアップのためではあるし、大事な思いを歌っているんです。悲しい曲にとらわれがちですけど、悲しい曲ではないんですよ。人を好きなることは悲しいこともありますけど、そこで止まっていたくはない。それが『みんな元気』(『夕陽が丘』C/W)に繋がるんです。私は依存して相手が見えなくなるタイプだったんですけど、好きになった相手から離れることで、何をしているのかがよくわかってくるということが頭の中で理解できたんです。それを曲にしていく中で、依存からはちょっと脱出できたし、これからも依存に縛られて生きていくのは嫌だと思った部分もあったんです。あと、これはひとつのテーマにもなっているんですけど、抱きしめてもらいたいんです。小さい時から抱きしめてもらった記憶がなくて、その願望を追いかけているのかもしれません。だから愛される曲にしたいと思ったんです。

── ということは、今まで過去の記憶や思い出を歌っていると思っていたんですが、未来や求めている物事が詞になっているという感じなんですね。

榎本:『NOTEBOOK I ~未来の記憶~』(2007年5月リリースのアルバム)も「今」なんです。今、悲しいことや辛いことがあるのは未来があるからなんですよね。未来の先に何かあるかもしれないから、歌を歌っているんです。過去は材料にありますけど、未来のためにというものが全部のテーマなんですよ。

── 『未来記念日』は、より未来が明るく見えているように感じましたが、何かきっかけはあったんですか?

榎本:今回、母親のことを思って書いたんです。母親の存在ってすごく大きいんですよね。いろんなことを話し合ってきて、ずっと尊敬していた人でもあって、自分は母親のために何ができるんだろうって考えた時期があったんです。その時に、今までは自分のことばかり考えていたけれど、誰かのことを本気で考えられるようになったという記念日なんじゃないかと思ったんです。だから、そういう記念日を大切にしていけたらいいなと思って、『未来記念日』が出来上がったんです。

── なるほど。詞に「あなた」と出てきたので異性を想像していましたよ。

榎本:異性でも良いんですよ。私の場合は、この記念日をきっかけに考え方や感じ方が徐々に変わっていったんです。その気持ちが曲に繋がっているのかな。人に対して見返りを求めなくなったし、何も求めなくても話をしたいと思ったし、そういう気持ちが愛なのかなって感じたんです。母親に対して感じた思いは、周りにいる大切な人たちだったり、仕事の人だったりとの関係性と似てるような気がして、この気持ちを大切にしたいと思ったんです。

── 榎本さんは、悩みとか不安は曲にして消化することはあるんですか?

榎本:悩みっていうのは絶えないものなんですよね。だけど嫌なことや別れがあって、曲を書くとか歌にするつもりはないんです。そうなると不幸が楽しくなるというか(苦笑)、別れたら曲が書ける!ってなっちゃいそうで、そうやって生きていきたくないと思うんですよ。そういう意味では音楽に頼って生きたくないと思ってます。

リスナーそれぞれの“未来記念日”

── 今回『未来記念日』とありますけど、榎本さん自身は「記念日」は大事にするほうですか?

榎本:そうなんですけど、クリスマスなのにお金が全然なくてひとりぼっちで、携帯も止まっていたことがありましたね。その時はすごく寂しかったです(苦笑)。私の場合クリスマスに限って毎回寂しい思いをしているんですよ(笑)。昔は、記念日の重大さというのはあまり認識してなかったんです。でも、記念日について考えた時期があって、誕生日は自分が生まれた記念日でもあるし、大切なものだったんだなと。だから『未来記念日』は肌で感じられるような曲にしたいって思ったんです。こういう認識のしかたって今までしてこなかった分、考えさせられたし、どの記念日もすごく意味のあるものなんですよね。そういった日を充実して送りたいなと思いますね。

── でも、そう考えると毎日が記念日みたいなもので、今日私が榎本さんに会えたことも記念日だし、誕生日はもっと大きな記念日という感じなのかなって思いました。

榎本:今、ドキッとしました(笑)。それぞれの未来記念日をこの曲で感じてもらいたいですね。

── 榎本さんの曲は誰もが感じているんだけど言葉にしないもの、というのが詞になっていて、だから、共感できるのかなって思うんです。

榎本:人を傷つけたり、失恋の痛みもわからずに泣いていたこともあって、なぜ涙が出るのかを知りたかったんです。そういうことを考えながら曲を作っているので、共感してもらえると嬉しいです。

── こういう詞は女の子にしか書けないと思いますよ。『未来記念日』は、日常生活の中でずっと寄り添っていたいと思える1枚ですね。

榎本:ありがとうございます。これからも一人の人間として言えることを自分の中で謙虚な部分を持ちながら、自分が感じたことを伝えていきたいと思ってます。

── 最後に…『未来記念日』は、完成度が高いと思ったんですけど、ご自身が思う今後の課題点はどんなところですか?

榎本:本質がわかるシンプルさというものが楽曲で出てくると、もっと伝わりやすいのかなって思ったんです。『未来記念日』に関して言えば、この題名を聴いてどれだけの人がこの楽曲を感じてくれるのかっていうのは気になるところでもあるし、自分の中でのリアリティーを見せて行けたらと思っていて、1/18から『未来記念日』を題材にした携帯小説を配信しています。私が今まで育ってきた環境や背景をひとつの小説にしたので、それを見てもらいながらこの曲を自分自身のことと合わせて感じてもらえたらすごく嬉しいです。

── このシングルがリリースされる日には、2/20にアコースティックワンマンもありますね。

榎本:最近、アコースティックライブばかりですけど、ぜひ遊びに来てください。

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