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INTERVIEW

トップインタビュー【復刻インタビュー】凛として時雨(2007年9月号)- 歪んだ世界に響く刹那と情緒に刻まれた詩、 インスピレーションを突き刺す鋭角サウンドの渦潮

歪んだ世界に響く刹那と情緒に刻まれた詩、 インスピレーションを突き刺す鋭角サウンドの渦潮

2007.09.01

凛として時雨が放つ『Feeling your UFO』以来となる作品集『Inspiration is DEAD』で奏でられる音楽は、聴き手の感受性を激しく刺激すると同時に映像喚起力を著しく増幅させるものだ。憤りと悲鳴にも似た轟音と凍てついた静寂の狭間を自由に行き来するその鋭利なサウンドはまさに変幻自在、その詩とメロディを捕らえようとすると掌の隙間から瞬く間にすり抜けていく。それは彼らの発する肉声にも同じことが言えて、凛として時雨の音楽の本質を見極めようとすればするほどその本質から遠く懸け離れていくかのようだ。このインタビューが『Inspiration is DEAD』を聴く上で格好のサブテキストになれば幸いだが、結局のところ実際にあなたの耳で判断してもらうほかない。その折には、聴覚を際限まで研ぎ澄ませて一対一で彼らの音楽と対峙することをお勧めする。そのほうが、渇き切った喉を更に渇かせることも潤すこともできる音楽の魔法をきっと享受しやすいだろうから。(interview:椎名宗之)

未完成のまま突っ走るのが今の時雨のモード

──ファースト・アルバム『#4』('05年11月発表)、ミニ・アルバム『Feeling your UFO』('06年7月発表)を制作して得た経験が本作『Inspiration is DEAD』に活かされた部分はどんなところでしょうか。

TK(Toru Kitajima/vo, g):レコーディングの形態は前回の『~UFO』に割と近い形だったので、作業自体は凄くスムーズでしたね。ただ、今回はアルバムを作ることが決まってから曲作りに取り組んだので、スタジオの中ではかなりストイックな雰囲気にはなっていたんですけど。

──曲のストックがほとんどない状態で始まったわけですね。

TK:ここまで真新しい曲を一気に作ったのは今回が初めてで、そこは少し苦労しましたね。でも、そういうギリギリまで追い詰められる感覚を楽しめた部分もあったので、いい経験ができたと思います。

──でも、どの曲も急いで作ったとは思えぬ完成度の高さを誇っていると感じましたけど。

TK:まぁ、それほど急いで作った感じでもないんですけど、今はそういう曲の作り方が丁度いい気もするんです。時間的に余裕があるよりも、タイトな状況の中で曲作りに臨んだほうが今の音は出せるのかなとも思うし。

──345さんが単独ヴォーカルの「am3:45」、それに続く「赤い誘惑」というアルバム中盤の2曲は、バンド・アンサンブルが冴え渡った起伏に富んだ構成で、バンドの力量が格段に増したのがとりわけよく窺えますね。

TK:アルバムを通して聴いてみて、その2曲は違和感がありましたか?

──いや、全然。作品の良いアクセントになっていると感じましたよ。

TK:「am3:45」と「赤い誘惑」の2曲は割とすぐにできた曲なんです。「am3:45」のほうは先にドラムを録ってから作った曲で、曲の原型は昔からあったんですけど、なかなか形にできなかった。最初はもっと短くて、345がしっとりと唄い上げて終わるような曲だったんです。本当はこのアルバムにも入る予定ではなかったんですけど、何とかうまい具合に形にできたから入れてみました。曲の最終形を345とピエールが聴いたのはマスタリングの前日なんですけど(笑)。

──ははは。いつもレコーディングはそんな感じなんですか。

TK:ええ。割と直前に2人に聴かせる感じですね。「am3:45」に関して言うと、音的にも新しいアプローチをしてみたいと思ったんですよ。ただ、それを余り全面に出すと実験的なナンバーになりすぎるので、うまい具合に今の時雨に溶け合う形にしようと心懸けました。

──その、今の“時雨モード”を具体的に言うならどんな方向性なんでしょう。

TK:未完成のまま突っ走っている感じというか。このアルバムを作り終えて自分で感じたのはそこですね。今までは細部に渡って完璧なものを目指していたし、そんなイメージをしながら曲作りもしていたんですけど、今回はもっと余白を残した作り方を敢えてしてみたかったんですよ。それが今の自分達らしい音なのかなと思って。

──良い意味でのざっくり感は今回のアルバムの特性として挙げられますよね。1曲目の「nakano kill you」からして猛々しく性急なドラムが乱れ打つ激しいナンバーで、TKさんが意図するサウンドの質感がよく出ていると思いますよ。

TK:345もピエールも、「nakano kill you」と「COOL J」は最後まで仮タイトルだと思っていたみたいですけどね(笑)。

ピエール中野(Masatoshi Nakano/ds):「COOL J」は僕がヒップホップをやってる時のネーミングなんですけど(笑)。

──『#4』の頃と比べると、ドラムの音の抜けが随分と良くなった気がしますが。

ピエール:TKの録りが良くなったんじゃないですかね(笑)。まぁでも、手足が多少よく動くようにはなったのかな。根本的なものはドラムを叩き始めた頃と余り変わっていないと思いますけど、自分で意識したことはないですね。

TK:3人とも昔から出している音はそれほど変わってないんじゃないかな。345はベースを弾いたのがこのバンドを始めてからなんですけど。敢えて言えば、僕のヴォーカルはだいぶ変わってきたかもしれませんね。昔のCD-Rを聴くと、だいぶ……(笑)。

余り直接的すぎると物事の本質が見えにくくなる

──今度のアルバムもかなりパンチのあるヴォーカルだと思いますよ。悲痛な叫びにも似たヴォーカルの切迫感は過去随一じゃないかと感じたんですけど。「DISCO FLIGHT」でも曲のタイトルを大絶叫していますし(笑)。

TK:そこは余り意識していなかったですけど、言われてみれば確かに絶叫度は高いのかもしれませんね。自分自身に対するフラストレーションみたいなものが根底にあるのかもしれない。普段の生活の中で自分の思い通りにならないことのほうが多いけれど、それが時雨の音として昇華しているので、僕の中ではうまくバランスを取れていますね。そのフラストレーションがなければバンドもやっていないだろうし。

──「nakano kill you」から「knife vacation」まで一気に畳み掛ける最初の4曲は、ささくれっぷりの度合いも尋常ではないですよね。

TK:そうですか? 僕の中では、昔に比べるとJ-POP寄りになったイメージもあるんですけど。…いや、そんなこともないかな(笑)。

──ここまでメーターを振り切ったJ-POPは聴いたことがないですよ(笑)。敢えてJ-POPっぽいと言うならば、「DISCO FLIGHT」は一番キャッチーだからシングル向きな曲かもしれないですけど。

TK:それはよく言われますね。お陰様でPVにもなりましたし。やっぱり歌モノは好きですし、どれだけ音が激しかろうがメロディが綺麗な曲に惹かれますからね。どんな曲調であろうと、その部分は貫き通したいと思っていますね。

──サウンドが剥き出しで直情的である一方で、歌詞のほうはまるで水彩画のように淡く、視点と対象の間に薄い膜が張ってあるような印象を受けますね。聴き手の脳内映像を喚起する言葉が羅列されているというか。

TK:歌詞を書いていると、無意識のうちに膜が張っているような言葉を選ぶことが多いんですよ。曲によっては全く膜のないものもあるし、膜がないと成立しない曲も結構あったりするんです。そういう自分の志向が顕著に歌詞に表れているのかなと思いますね。

──直接的な表現は元から余り好まないほうですか。

TK:曲にもよるんですけど、直接的すぎることによって物事の本質が見えにくくなる気がするんです。時雨の曲にはそう感じることが多いんですよね。曲の中の一部分だけ膜を取ってあげることもたまにあるんですけど。ただ、今回は何回も書き直しをしたので、歌詞を仕上げるのに割と時間が掛かりましたね。何かのスイッチが入ると言葉が溢れてくるんですけど、今回は歌詞と向き合う時間が凄く多かった。「i not crazy am you are」みたいに、珍しく歌詞から先にできた曲もあったし。この曲は歌詞が一番長いんですけど、凄く早く書けたんですよ。

──本作に限らず、凛として時雨の歌詞の頻出単語ってありますよね。“鮮やか”“sadistic”“crazy”“夕景”というような。

TK:無意識のうちに出てしまうんでしょうね。出さないように心懸けても出てしまう時がある。今までのテイストと違うものを書こうと意識しても、その過程のどこかで大抵バランスが崩れるんですよ。自分でももっと歌詞の世界観を広げたいとは考えているし、以前に比べれば情景が浮かぶ歌詞を書けるようにはなってきたんじゃないかと思うんですけどね。人がどう感じるかは判らないけれど、昔のほうがもうちょっと感覚的な言葉を選んでいた気がします。

──TKさんの頭に浮かぶ景色と紡ぎ出す言葉が少しずつ一致するようになってきた、と。

TK:そうですね。膜は相変わらずありますけど。

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