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トップインタビュー【復刻インタビュー】リリー・フランキー(2005年9月号)- とにかくギターのボリュームをマックスにして弾いたぜ! みたいな事を一回やりたかったんだと思う

とにかくギターのボリュームをマックスにして弾いたぜ! みたいな事を一回やりたかったんだと思う

2005.09.01

文章家、小説家、コラムニスト、絵本作家、イラストレーター、アートディレクター、デザイナー、作詞・作曲家、構成・演出家、ラジオナビゲーター、フォトグラファー......と、ホント、何をやってるのかわからないほど数々の肩書きを持ち、プラスワン屈指の長寿&大人気イベント「スナック・リリー」でもお馴染みのリリー・フランキー。スナック・リリーではいつもお客さんの悩み......主にセックスの悩みにズバズバ答えて会場を沸かせまくっているリリーさんですが、そんなリリーさん初の長編小説となる「東京タワーオカンとボクと、時々、オトン」が出版された。亡くなった母親と自らの半生を生々しく綴ったこの本は、今までのリリーさんの本からは想像も出来ないが、誰に聞いても「コレは泣ける」という感想が帰ってくる。ある意味、今までで最も問題作ともいえる「東京タワー」について聞いた。(interview : 北村ヂン)

オレがその時感じた事をただ書いた

──初の長編小説となる「東京タワー」ですけど、これを書こうと思ったのはまず「母親」っていうテーマありきだったんですか、それとも長編小説を書こうという計画が先にあったんですか。
 
リリー:別に長編小説を書きたいって思ってたわけでもないし、これに関しては全く仕事だと思って書いてなかったからね。お袋の事を書きたかったんだよ。もう、それだけだよね。最初はまだお袋が生きてる頃だったんだけど、入院してた病院でちょっとずつ書き出して。病院で付き添ってても別に何もする事はないし、してあげられる事なんて何もないからさ。だから、初めはそれを本にするとかそういう事は全然考えてなかった。それが2年前に「en-taXi」っていう同人誌が始まった時に連載になって、実質書いてたのは2年ちょっとかな。書き始めてからは4年くらい。……まあ、法要みたいなもんだよね。
 
──読む前に、色んな書評なんかでやたらと「泣ける」とか「親子愛が……」とか書かれていたので、ちょっと抵抗あったんですよ。「リリーさんが泣ける本を!?」っていうのもあったし、変に「泣ける」とか言われてる本ってロクなのないっていうイメージがあったんで。でも実際読んでみたら、いわゆる「泣ける本」っていうのとは全く違いましたけど。
 
リリー:まあ、オレは別に泣いてもらおうとも思ってないし、笑ってもらおうとも思ってないからね、結果的に他人がそう言ってるというだけで。CDを出す時って「リリースする」って言うけど、本に関しても同じで一回手放したらそこから先は何を言われても仕方がないと思ってるから。だから、そういう一つの情報っていうのにはあまり意味が無くて、「泣けるんだったら買おう」って思う人も、「そんなに泣けるって言われたら泣けねぇよ」って思う人も踊らされてる事には変わりはないと思うよ。
 
──今、こういう本を出すことによって自分のイメージが変わるんじゃ……というような思いはなかったんですか。
 
リリー:オレが何を書いたらしっくり来るかっていうのは、多分読者の人たちそれぞれにあるんだろうけど、「こういうのを書いて欲しいな」って思われている物に合わせて書いてても自分では楽しくないからね。そういうサービス精神っていらないと思うから。でも、自分としては今回が特別すごく変わったとも思わないんだけどね。「変わったな」って思ってる人は、周りの反応を見ているからじゃない? オレの本が一般的な評論を受けている事に違和感を感じているんだと思うよ。
 
──確かにそこに対する違和感かもしれないですね。リリーさんの中ではこの「東京タワー」も今までの流れの一貫として書いた物だという感覚なんですか。
 
リリー:そうだね、特に変わった事をしたとは思わないけどね。まあ、今まではすごくアンダーグラウンドな物だったり、小さな一点にテーマを絞り込んでいた所を、今回はテーマ的にすごい大風呂敷を広げて、普遍的というかベタな事を書いてはいるけど。でも、例えば同じパンクのアルバムの中に、すごい怒ってる曲と一緒にメチャクチャベタなラブソングが入っててもそれはそれで正常でしょ。逆に一辺倒に怒り続けてる人の方が絶対どこかに嘘があると思うし。まあ、こういうのを書いて、「アイツもヤキが回ったな」なんて言われるかもしれないけどね。……確かにオレも20代の時に自分がこういう物を書くなんて思ってもなかったから。でも、ミュージシャンの人でも年とってから母親の歌を歌う人って多いけど、今はそういう気持ちが良くわかるね。
 
──どういう気持ちなんですか?
 
リリー:女と別れる時って、その相手によってすごく後悔を残す相手と、スッキリ別れられる相手っているんだけど、後悔を残して、今でもまだもう一回会いたいなって思う人って、あれやってあげれば良かった、これやってあげれば良かったとか思い残しがある人なんだよ。逆に、あいつにはもうしてあげられる事なんて一つもないなって思えば結構スッキリ別れられるし。で、親との関係性っていうのは、どんな人でも思い残しが出てくるものなんだよね。親って完全にこっちが与えられる側で始まって、与える事が出来るようになった頃に大体死ぬように出来てるんだよ。だから、ミュージシャンの人が母親の歌を歌うのも、別に年とって人間が丸くなって母親を思いやってる訳じゃなくて、年とってから取り返しが付かない事に気がついて歌ってるんだよね。逆に、年とってからも思い残しがある恋愛の歌を延々歌ってる人って、まだそんな事をしてるのか……って事でしょ。オレも今まで何冊も本を出してきたけど、その中でどの作品が一番アナーキーであり、パンキッシュなのかって言ったら、実はそれは今回のなんじゃないかと思うよ。周りから「何でこんなものを……」って言われるような物こそパンクでしょ。本当にパンクな事って、自分のみっともない所、恥ずかしいなって思っている事をどんだけ大声で叫べるかっていう事なんだと思うんだよ。「オレはチンポが小せえんだ!」ってどんだけ大きい声で言えるかっていう。だから今回は、ゴリゴリのアホみたいなサウンドでみっともないけど、とにかくギターのボリュームをマックスにして弾いたぜ! みたいな事を一回やりたかったんだと思う。
 
──今までは、自分の恥ずかしい所を書いてても、それを「笑い」っていうオブラートに包んで表現してたのが、今回は思いっ切り直球で出してますからね。
 
リリー:そうだね。今までは何を書いたとしても最終的には何らかの作品というか、商品にしてたんだよ。そこにストレスを感じてた部分も多分あったと思うし、逆にそれでいいんだと思ってた部分もあるし。だから、いつもは本を出す前にしつこいくらいゲラのチェックして文字を直すんだけど、今回はほとんど直さなかったからね。書いている時にもうヨレヨレで、文法とかおかしくなってる部分とかあるんだけど、そのままでいいやって。そうじゃないと、その時に悲しがってたり、憤ってたりしてた感情のジェット感がなくなるような気がして。サンボマスターの山口が「一発録りじゃないとロックじゃない」って言ってたけどそれと同じ事なんじゃないかな。
 
──文体的には淡々と書いているんだけど、それが逆に非常に生々しくって、ガンガン伝わってくる感じがしましたね。
 
リリー:まあ、なるべく淡々と書くというのは心がけたね。そういう風にしないと読めたもんじゃないから。今までだと、1あった事をいかに10あるように書くかっていう手法だったんだけど、今回は10ある事をどう1にするっかっていう感じで書いてる。その作業って、すごくダサくしていく作業なんだと思うんだよ。脚色された部分だとか拡大された部分を削っていくとどんどんダサくなって行くから。ラブソングにしても、「その人の事が好きだ」っていう事を表現する時に、色んな形容詞だとか修飾語が入る事によってダサくなくするんだけど、今回はそういうのを全部取っ払っちゃって、オレがその時感じた事をただ書いた。これはすごく単純な作業なんだけど、書いててすごくしんどいよ。文章を書く楽しみが一切ないから。
 
──記録とかそういう物に近い。
 
リリー:しかも時間軸にすごく愚直な描き方をしているからね。
 
──そういう苦しんで書いてる感じも伝わってきましたね。だから、東京タワーを読んだ感じを「感動作!」とか「泣ける!」って言っちゃうのってちょっと違うような気がしてて。もっと深く、エグイ所も描かれてるし、読んでてすごくイヤだなっていう感情が沸いてくる所もあったりして。
 
リリー:読んでてイヤだなって思う感情ってすごく大切な事だからね。不快感を伴う物こそ、たとえ気に入らなかったとしても、それによって心揺らぐというか。一番良くないのは、「なんか面白かった」っていう事で、その人の中の判断基準で収まりがついちゃう事だから。不快になるっていう事と感動するっていうのは同じ感情だからね。
 
──そうですね、心を動かされているっていう事ですからね。
 
リリー:読んでて本当に不愉快だったっていう人がいても、それによってその人なりの感情で何か思ってくれてれば良いと思うし、「感動して泣いた」って言ってる人も、みんなが全く同じ読み方をしてる訳じゃないからね。
結局みんな、オレのお袋の話で泣いてるわけじゃなくって、自分の事にフィードバックして泣いてるんだよ。逆に自分の事にフィードバックするから不愉快にもなるんだし。だって100%他人事だと思ったら何も不快なところなんてないじゃない。
 
──ああ、確かに読み終わった後には自分と母親との関係性を見つめ直さずにはいられなかったですね。
 
リリー:男の人と女の人の反応は概ね違うんだけど、男はそういう反応が特に多いかな。自分がもし娘と母の関係だったら……とか想像しても良くわからないけど、「母親と息子」の関係って一番利害がないんじゃないの。
父親と娘ってなると、オレの友達にも「将来、アホみたいな男を連れてきたら……」とか言ってるヤツがいるけど、それは男としての感情が出て来てるし、息子と父親とか母親と娘っていう関係も、男同士、女同士の関係になってくるから。そういう組み合わせの中で一番利害がないのは母親と息子っていう関係なんじゃないかな。母親ってどんなにたくましかったとしても、いずれは衰えて社会的には弱者になって行き、逆に息子っていうのはある程度年を取ると、社会の中で金を稼ぐ術っていうのを身につけるようになって、母親との社会における関係性に落差が生じてくる。そうすると、お互いに時間を共有する事が少なくなってきて……だからしょっぱいんだと思うよ。
 
──ウチは母親との仲があんまり良くないんですけど、母親に対するイヤな感情もありつつ、いずれはどうにかしてあげなきゃみたいな気持ちもありつつ……。「東京タワー」を読み終わった後、そういうしょっぱい関係性を思い出しましたよ。
 
リリー:そういう風に読後感を得てくれれば、オレとしては一番良いことなんじゃないかな。読み終わって、「ああ面白かったね」っていうだけで忘れられちゃうよりも、例えばある人は読み終わった後に母親に電話してみたくなったり、ある人はモヤモヤした気分になったり……正の方向でも、負の方向でも、そのことを意識させられたらすごく嬉しい事だよね。
 
 
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