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INTERVIEW

トップインタビュー【復刻インタビュー】 漢 (MSC) (2005年2月号)- "病む街"東京に放たれる"昭和53年製"の"新宿ラップマシーン"

“病む街”東京に放たれる“昭和53年製”の“新宿ラップマシーン”

2005.02.01

聴く者をストリートの真実へと"導く"衝撃の問題作が今、ここに完成!  新宿という地に根を下ろすヒップホップ・クルー=MSCが描き出すのは、街とそれを見つめる彼らのドキュメントだ。同時に、それは音楽そのものに対して誠実で嘘がない彼らの精神の記録でもある。クルーのリーダーとも言うべきMCの漢がこのほど完成させた初のソロ・アルバム『導~みちしるべ』は、彼にとって一つの到達点であっても決してゴールではない。あくまでもそれは個人としての新たなスタートである。音楽と真っ向から対峙する心に果 てはなく、戦いは続く。(interview:一ノ木 裕之)

俺たちのヒップホップ意識は新宿の地に根付いている

──そもそもラップに目が向いていったのはどうして?
 
漢:俺の場合は結果、なんか運の悪いタイプだし。
 
──え? 運が悪い?
 
漢:いや、よく捕まるから、悪さをすると。その限界が来たっていうのもあるし、意味がないっていうのもある。要は半端者。そういうことで本気にやりたかったらそういう道のプロを目指せばいいけど、俺はそれを選ぶ勇気も根性もなかったのかもしれない。普通 にイキがってたくなくて、周りにもたまたまそういう奴が多かったから、そうなると自分らでなんかやるしかねえって。
 
──MSクルー(現・MSC)として音源の上でも動き出し始めた頃は、世の中の居場所がここ(クルー)にしかないっていう疎外感を口にしてたよね。
 
漢:それを選んで来た奴もいたし、自然にそうなってる奴もいた。クルーには俺に偏見を持たなかった奴らが集まってきたんだと思う。だから(メンバーが)集まってきた時期もいろいろで。タブー(クルーのメンバー)なんて高校の頃、俺を早稲田通 りで見かけたら見ないフリしてたとか言ってたし(笑)。俺はそういうシカトもされたし偏見も持たれたし、昔から。
 
──どういう偏見?
 
漢:それはまず俺の人柄に(笑)。誤解されやすいっていうのと、あとは捕まりすぎたり。そういう中でも少なからず遊んでた奴がいて、チーマーみたいに他の街で溜まるんじゃなく地元も地元、自分んちの裏とかで溜まったりしたから、なにかあったら速攻で噂広まっちゃう。それで噂が噂を呼んでとか。
 
──地元とのつながりが深いだけに。
 
漢:ただ、俺はそこで自分を変えたくなかったし、それでいろんな勉強ができた。だからそういうことに対する恨みは一切ない。おかげで人より早く、もう小学校の頃にはハングリーに、精神力強くいれたし。
 
──周りがあったからこそ今があるわけか。ラップに対するモチヴェーションも当然それで上がったでしょ?
 
漢:でも、音楽を共有できない奴がハタから見たら俺なんか馬鹿にして終わりで、実際。近所にいた奴でも『ラップやってんだ』みたいな。ただ、実際にラップして見せると『かっけえ』とか『もっとやってくれ』とかなるし。だからラップは俺にとって唯一の説得力、ホントの意味で武器。CDのおかげで昔、偏見持ってた奴とも付き合えて見返せてもいるだろうし、CDが自分を広めてくれる。
 
──「新宿代表」を叫ぶことは新宿の外に向けた意味もあれば、内に向けた意味もあるのか。
 
漢:そういうところが動かないとレペゼンする必要も意味もないし、それが究極のヒップホップだと思ってる。
 
──やっぱり他のヒップホップの人たちが地元を叫ぶのとは本質的に……。
 
漢:違う。その理由はそういう多くが二次元的っていうか上っ面だけだから。明治通 り挟んで北新宿の方に俺は住んでて、ライブラ(レーベル)の人間は南の方だったんだけど、中学生の頃から知ってる。それでバックアップしてもらいながら地元で固まってきたわけだから。
 
──多くの人たちのそういう物言いは往々にして出身地のラベルにすぎなくて、実際の動きとして土地に根付いてるわけでも還元されてもない。だからそこの違いは大きいな。
 
漢:俺が持ってる力とライブラが持ってる力でこの街(新宿)が今、動き始めてる。俺たちが持ってるヒップホップ意識っていうのは新宿っていう地に根付いてるから。もっと新宿の奴を動かしていきたいけど。
 
──そういう意識は音楽にも当然反映されてて。
 
漢:俺がこだわるのはより嘘味がないってこと。聴いてて嘘くさくないのは嘘を言わなきゃそうなるのかもしれないけど、変に無理して作ろうとしてない。それはヒップホップとして誰もが持ってるイメージだったりもするし、俺のイメージもそうだった、N.W.A.(Dr.ドレー、アイス・キューブらを擁した、'90年代に人気を得たUS西海岸のラップ・グループ)とか聴いてた頃からずっと。
 
──書く歌詞もその現われ、と。
 
漢:どうしてもそれが歌詞に出る。誰もが選ぶ権利のある自分のスタイルがそれで、いろんなことの結果 、自分で探し当てた。そういう意味で俺はまだ空想の歌を書いたことがない。俺なりのリアルをずっと歌ってるから。
 
──事の善悪や自分のいい面、悪い面、すべてひっくるめてね。
 
漢:俺なんてまともな学歴もないし、スポーツ一本で来てそのスポーツもやめて、今はラップ一本。そういうふうになるとバイトやりながらでも先が見えちゃうし、一人暮らしできるほど環境もよくない。だったらそういうとこもラップで見せなきゃ意味ないっていうのがある、俺の中では。
 

誰もが持つ現実的な夢が俺にとってはラップだった

──『導~みちしるべ~』もソロ作だから当然だけど、クルーの作品以上に漢くんの姿が投影されてて。
 
漢:アルバムとしては、言い訳できない、全ての奴に「うん」と言わせるものにしたくて。今までは音の取り方にしても限界に挑戦するラップ・スタイルだったけど、今回はそこを置いてよりオーソドックスにしようっていう。
 
──でも、音の幅はクルー作と比べると広がってるね。
 
漢:似たりよったりと思われがちだけど(クルー)一人一人の個性が全く違うし、俺らは。一人の方がある意味幅広いしなんでもできちゃう。
 
──歌詞で言うと、街を観察する視点が後退してより個人に向いた分、心のありようとか、自分史へと目が向けられて。
 
漢:今までだと街の遠写的な映像が見えるものが多かったけど、今回は内面的な視点が中心。あとは、CD出す夢が現実になった今、もっと上狙ってってなると自分の決意表明にもなった。勉強をいくらやろうと思っても集中力もないし、興味も持てなかったけど、ラップに関しては唯一曲げられないし、俺が認められるのはこれしかない。会社で勝ち上がる人にはそういう能力と努力があるけど、俺はそっちに努力できないから。くだらねえパシリの奴でも捕まった奴でも、これでもう一回復活できるんだよっていう説得力があるのがラップだっていうのを俺は知ってるし。要は、誰もが持つ現実的な夢が俺にとってはラップだったってことで。
 
──そういう、復活できるんだっていうところはリスナーが共感できる大きな要素かと。
 
漢:俺は逆に共感してもらえないとツライから(笑)。
 
──でも、MSCの世界観は、漢くんが昔聴いてたN.W.A.がそうだったように、普段の生活では目をそらすような影の部分も兼ね備えた都市ファンタジーとしても成立してたわけで。
 
漢:もうそこは聴き手の自由。実話かどうかは関係なくて、本もんだろうが作りもんだろうがすごいものに理由はいらない。伝わるか伝わらないかだから。ただ、より生のヒップホップが日本でもあることを俺は確信してる。
 
──ともかく、CDを発表したりライヴを重ねたりしていくことで明らかにMSCに対する評価や認知は高まって、クルーの状況も変わったし、かつて感じた疎外感はないでしょ? そうした変化にあって、漢くんのソロがどういう結果で現れるかにはすごい興味があった。
 
漢:あの頃はもう自分たち以外は全否定してたけど、今は『好きっす』って言って来てくれるアーティストもリスナーもいるから、受け入れることを覚えて。よくしてくれる奴にはよくしたいし、好きって言ってくれる奴にはいくら時間があっても喋りたいし。でも、いろんなところにまだ引け目はあるし、その辺はっきり言ってやるよっていうのもあったから。
 
──だから依然、追いつめられた部分が強くあるんだなっていうのは感じた。その点ではなんら変わってない、っていう。
 
漢:俺は切羽詰まってやっとラップ一小節を書くタイプ。まだ全然救われてない、満たされてないなっていうのが出てると思う。ホントにいろんな面 でまだまだ全然苦しいし。お金もそうだし、自分自身にも。だからやっぱリアルタイムだなっていうか。『帝都崩壊』とか『MATADOR』の頃のラップは今できないし、これも今だからできる。
 
──その意味で、“旋風”で露わにされてる10代の記憶も決して今から隔離された過去ではないんだね。まさに曲で言ってるけど“一体今の自分にどれだけ満足できてる/過去、現在照らし合わせ思い起こすmy life”。
 
漢:俺なんて21ぐらいまでそんな雰囲気で。それを曲にすることで自分にも周りにも意味が欲しいし。金のむごさとすごさを知るのはすげえ嫌な気分なんだけど、人が成功してるとこ見ると憧れもある。その差を俺はいろんなとこで覚えたから。ひどいときは学校の先生に授業料のこと言われたりとか、周りに家の家賃のこと言われたりとかもあったし。
 
──いずれにせよ、これもまた一つのスタートで。
 
漢:俺もまだまだだから。自分の持ってる考えとかスキルは間違いないっていう自信はあるしそれを100%出せれば一番だけど、まだそこには行ってない。だからもっと磨かないとっていう。もっとやりたいこともあるし、これで先は見えたとは思ってるけど。
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