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INTERVIEW

トップインタビュー【復刻インタビュー】石橋凌(2002年5月号) - あきらめるんじゃなくて、とりあえず一つ一つを大事にやっていくしかない

【復刻インタビュー】石橋凌(2002年5月号) - あきらめるんじゃなくて、とりあえず一つ一つを大事にやっていくしかない

2002.05.03

9月11日のニューヨークのテロ事件から、自分自身に腹が立っている。自分は、こんなばかな時代にしてしまった一人だから。ぼくが生きてきた60数年、地球上のどこかでいつも戦争をしている。今年生まれた子供が20歳になった時、今よりいい時代になっているとは思えない。(黒田征太郎)

 世界が変わったと言われるWTCテロ事件は、世界中の人々の意識を根底から揺るがすほどの衝撃を与えた。とりわけ表現活動をする者にとっては、その後の作品に大きな影響を及ぼすものだったはずだ。1960年代からイラストレーターとして活躍し、現在はニューヨークに在住している黒田征太郎にとっても、この事件は自身の表現活動を大きく揺るがすものだった。

 一方、1977年にARBを結成した石橋凌は、一貫して社会の中の個人というテーマで作品を発表してきたが、個人を最も侵害するものの代表である戦争についても『ウィスキー&ウォッカ』『BAD NEWS』『War Is Over!』など多くの重要な曲が存在する。そんな石橋にとって今の状況は、今まで彼自身が歌ってきた事が現実に目の前で起こっているという感覚ではないのだろうか。

 そんな2人が、5月16日に、LIVE PAINTING『忘れてはイケナイ物語りVol.1』というコラボレーションを行う。簡単に言うと、黒田の絵と石橋の歌をライブという場で融合させる試みだ。戦前(Before '45)に生まれた黒田征太郎と戦後(After '45)生まれの石橋凌。世代は違えど、2人には共通する点が多く見られる。そもそもこの2人はどのように出会ったのだろう。[TEXT:加藤梅造]

音楽や絵で戦争を止めるのは難しいけど、一般の人達の意識をつつくということが必要

「黒田さんのことを知ったのは、僕がまだ中学生だった時、11PM(註:深夜のテレビ番組)でコメンテーターをやられていた時です。おもしろい人だなというのと同時に、自分の周りにいる大人とちょっと違う人だなと思いました。すごく本音で暴れてるという印象で。実際に初めてお会いしたのは黒田さんが司会をやっていた大阪の番組に、ARBが出た時です。その時は確か『ウィスキー&ウォッカ』を歌ったんじゃないかな。」

 ミュージシャンとイラストレーター。ジャンルは異なるが、既に黒田が近藤等則、優歌団、山下洋輔といったミュージシャン達と一緒にLIVE PAINTINGを行っていたこともあり、石橋凌はいつか黒田征太郎と共演したいという思いを抱いていた。そんな2人が急速に接近するのは、黒田が野坂昭如の『戦争童話集』(註1)を映像化したテレビ番組を石橋が観た時だ。

「NHKのBSで『戦争童話集』が始まったのを観た時、とても感動したんです。いわゆる他のテレビ番組とは異質で、けれんみがなく、うまく言葉で言えないんだけど、自分が伝えたいことが番組の中にあった。それを観て、LIVE PAINTINGをやりたいという気持ちがもっと強くなりました。僕ら自身も、戦争の歌やワークソングを歌っていたので、黒田さんとがっぷり組んでやれたらいいなと」

 2人のLIVE PAINTINGが初めて実現したのは1999年10月、様々なジャンルのアーティストが集まって行われたイベント『千年紀(ミレニアム)を越えて』であった。2000年4月には『松田優作展』で再び共演を果たし、今回は3回目のLIVE PAINTINGとなる。

 今回のLIVE PAINTINGで最も興味深いのは、これまでずっと「戦争」というテーマを重要な表現活動の一つとして行ってきた2人が、昨年の9.11後はじめて共演することだろう。石橋はあのWTC以降、どんなことを考えたのだろうか。

「宗教もからんでるんで一概には言えないけど、絶対おきてはいけないことがおきてしまったと思いました。そして、それが(アメリカの)報復という形で未だに続いているわけだけど、他にもいろいろな所に連鎖している。今、国会では秘書の疑惑など低次元なレベルでゴタゴタしているけど、その裏で有事法制なんかが出てきてるでしょ。僕らは以前『赤いラブレター』で歌ったことだけど、このままいくとまた徴兵がしかれる可能性があるよね。どさくさにまぎれてさ。」

「音楽や絵で戦争を止めるのは難しいけど、一般の人達の意識をつつくということが必要だと思う。今の悪い状況っていうのは決して政治家だけのせいじゃなく、ものを言わない人が増えているってことが一番の原因じゃないかな。だから黒田さんが『「戦後」なんて地球上に一度も訪れていないじゃないか』と言ったのはまさにその通りだと思うんです。1945年以降もずっとどこかで戦火があがってるわけだから」

君はどう思う? っていう投げかけをやってきた

 1980年代、日本は後にバブルと言われるような消費至上社会となっていた。いかに金を儲けて消費するかが人々の一番の関心事となり、ARBのような硬派なロックバンドは、ともすれば古くさい社会派バンドとして片づけられた。

「日本についていうと、音楽とか映画とか文学、アートに関わる人達がもう少し普通の生活レベルで語りあったり投げかける動きがあったら、ここまでひどくなってなかったと思う。僕らが歌ってたのは、右に行けとか左に行けっていうのではなくて、ある状況があって俺はこう思うけど、君はどう思う? っていう投げかけをやってきたんだけど、それさえも伝わらない。精神的なものよりも、物質性──いかに物を売るかとかいかに商売するかっていうのが先行しちゃったでしょ? 社会でも学校でも自分の意見を持つこと自体がタブーになってしまった。」

「だからこそ、時間や空間を共有できる音楽とか映画とか絵でそういうものをテーゼしていくしかなかったと思うんだけど、それをやらなかったよね。なにも難しいことじゃなくて、例えば人を殺すことがいいのか悪いのか? 戦争はいいのか悪いのか?っていう、基本的な問いを発していくことが大事なんじゃないかな。」

 LIVE PAINTINGでは、事前の打ち合わせはほとんどしないそうだ。大きなキャンバスと最小限の楽器。ARBの曲からカバーまで、石橋とKYONによって次々と演奏されていく曲に合わせ黒田が即興でペインティングする。その絵を観た演奏者もまた演奏や雰囲気を変え、やがて絵と音楽と観客の3つが次第に融合していく。

「あんまりカチっとした演出はしたくなくて、お客さんが絵を描いてくれてもいいって言ってるんですよ。なるべく自由なイベントにしたい。」

 そして今回はタイトルが『忘れてはイケナイ物語Vol.1』となっているが、ここにはどういう意味が込められているのだろうか?

「テロが直接のきっかけではないけど、ただ、『忘れてはイケナイ物語』っていうタイトル、やっぱりこのワンフレーズに自分自身も惹かれてる。『忘れてはイケナイ物語』っていっぱいあると思うんです。テロだってみんなもう忘れてるし、何年か前の神戸の酒鬼薔薇事件だって忘れられてる。でもこれは全員が背負わなくてはいけないことだと思うのね。他にもそういう物語はたくさんある。」

変えていくには文化面でいくしかない

 黒田が「戦後なんてない」と言う一方で、日本人はあの悲惨な戦争体験さえ忘却しようとしている。そして、これは非常に意味のある偶然だと思うのだが、このLIVE PAINTINGが行われる5月16日は、折しも国会で有事法制が議論されている真っ最中であるのだ。

「みんなが知らないうちにどさくさにまぎれて決まっていくのが一番怖い。黒田さんはテロが起こった後絶望して、絵も含めてすべて辞めようかと思ったって言ってた。でもある瞬間から、違うんだと思ってまた描き始めた。俺たちみたいな表現してる者って、もっと公の場で娯楽として問いかけていく、そして自分自身も考えていくってことが一番大切なことだと思う」

 自分自身で考えろ! ──このメッセージこそが私達がロックから教わった最も大切なことだ。だからこそ、日本のターニングポイントともいえるこの時期、ロックの果たすべき役割はもっと大きいのではないだろうか。

「80年代にARBを聴いて育った人達、今その人達が例えばプロデューサーとかディレクターになっていて、再開の時にバックアップしてくれたのがとても嬉しかった。でもやっぱりARBがマイノリティなのは変わらないわけ。僕は7年間音楽から離れてたけど、その間、音楽だけは他のものみたいに商業主義にならないで欲しいと思ってたんだけれど、やっぱりそうなっちゃったよね。それは本当にがっかりしたというか、音楽までもこうなってしまったかと。質よりも量。前以上に社会的なことを歌ってはいけない状況になっていた。

 ただそこであきらめるんじゃなくて、とりあえず一つ一つを大事にやっていくしかないかなと。今回のことで本当に思ったのは、政治家には絶対期待できないってことがはっきりしたこと。それで政治に無関心になってはいけないと思うし、選挙だって行くべきだと思うけど、やっぱり変えていくには文化面でいくしかないと思う。

 あと、自分に子供がいるっていうのも大きくて、やっぱり忘れてはいけない物語を伝えなきゃと思うし、特に有事法制なんかはとんでもないもので、絶対に子供を徴兵になんかとられたくないと思う。自分が表現という現場をもっているのだとしたら、ARBとしても個人としてもどんどんやってくしかない。LIVE PAINTINGも続けていくことに意味があると思っていて、いずれは野音にでっかいキャンバスを置いて、ARBや共感してくれるミュージシャンと一緒にやってみたいですね。」

(文中敬称略)

(註1)戦争童話集──1971年、万博景気に沸き高度成長真っ最中で、「戦争」を遠い過去の記憶にしようとしていた日本に警告をするかのように、野坂昭如氏が『婦人公論』で「戦争童話集」の連載を始めた。「小さい潜水艦に恋をしたでかすぎるクジラの話」、「凧になったお母さん」、「年老いた雌狼と女の子の話」など誰もが耳にしたことのある有名な話が多数存在する。ニューヨークで「戦争童話集」を何度も読み返した黒田征太郎氏は映像化プロジェクトを開始し、5年の月日をかけて映像化されビデオとしても発売された。2001年には、30年ぶりの新作「野坂昭如 戦争童話集沖縄編ウミガメと少年」(講談社)も発売された。それが基になり、原作:野坂昭如、絵:黒田征太郎、音楽:喜納昌吉による「忘れてはイケナイ物語り オキナワ」も生まれた。

(写真:石橋凌・黒田征太郎・KYON)

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LIVE INFOライブ情報

2002. 5. 16[THU] at ON AIR EAST

LIVE PAINTING

「忘れてはイケナイ物語りVol.1」

 絵:黒田征太郎

 音楽:石橋凌、KYON、池畑潤二、内藤幸也

18:00open/19:00start 5800yen tax in/without drink

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