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l.7 ナッツ(週刊ファミ通町内会担当)

vol.7 ナッツ(週刊ファミ通町内会担当)

2018.09.08

〜ステータスポイントを『投稿』に振り分け過ぎた者たち〜
ラジオのコーナーや雑誌の投稿ページにネタを一心不乱に送り続ける投稿者。それは決して誰かに頼まれたわけではないのに、時には何かを犠牲にしてまで送る。そんな特異で奇抜で最高の情熱を投稿にそそぎ続ける者たちの生態に迫るインタビューである。
 
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ナッツ:1972年10月9日生まれ。千葉県出身。フリーライター、編集者として、週刊ファミ通の投稿コーナー『ファミ通町内会』を担当。格闘技とヘヴィメタルとハロー!プロジェクトが大好き。食べられない豆は大豆。
 

キーワードは『コサキン』

 
──ナッツさんはファミ通の投稿ページである『ファミ通町内会』を担当していますが、いつくらいから始めたんですか?
 
ナッツ:担当し始めたのは1999年です。なので来年で20年になります。こんなに長く続けられるとは思っていませんでしたが、選者の仕事は楽しいですし、ここまできたら町内会がなくなるか僕が死ぬまで続けたいですね。でも、生まれ変わったら公務員になりたいです。
 
──ナッツさん自身は投稿したことありますか?
 
ナッツ:ラジオが好きで、学研の『科学』に付いてきたラジオでよく聴いていたんですが、小学生の頃は投稿とかお笑いというより歌謡曲やパーソナリティー目当てでした。『森田公一の青春ベストテン』や小川哲哉の『決定!全日本歌謡選抜』ですね。
 
──曲のためにラジオを聴いてた時期ってありましたよね。年上の人はFMでエアチェックしたりとか。深夜は聴いてました?
 
ナッツ:深夜ラジオだとTBSラジオで月〜金の夜にやっていた『雄二・小朝の夜はともだち』というのを聴いてました。
 
──全然知らない!
 
ナッツ:当時は「深夜ラジオの世界を知っている俺」という同級生への優越感がメインだったので、内容はもちろん、雄二ってのが誰だったのかもよく覚えてないです。中学生になって、小堺一機さんと関根勤さんの『コサキン』を聴くようになりました。
 
──『コサキン』を聴いて育った人っていますよね。僕は通らなかったんですが。子どもの頃に住んでた田舎はTBSがほぼ聴けなくて。なぜ『コサキン』を選んだんですか?
 
ナッツ:小学校2年生くらいの時に漫才ブームがありまして、「笑いを生み出す人はかっこいい」という価値観が刷り込まれて、なかでも欽ちゃんファミリーには多大な影響を受けているんですよ。親が小学校の校長先生で厳しかったので、あまりドリフや『ひょうきん族』を見せてもらえず、必然的に欽ちゃん関連の番組を多く見まして。なので望む望まざるに関わらず、欽ちゃんファミリーの影響は色濃く受けています。反面教師的な意味でも、ひとつの基準として。なので『コサキン』を聴くようになったのもその流れですかね。
 
──みんな欽ちゃんを見てた頃、家のテレビが壊れまして、そしたら親が「テレビがなくても生活できるんじゃないか」みたいなことを言い出して、しばらくテレビがなかったんですよ。なので欽ちゃんをあまり見ずに育ちました。良くも悪くも。『コサキン』が初投稿ですか?
 
ナッツ:そうです。コサキンで投稿コーナーとかハガキ職人の存在を意識するようになりましたが、数回投稿してやめてしまいました。中学生のネタなのでつまらなくて読まれないし、合間にコサキンの二人がトークをしていても「早く次のはがきを読め!」「トーク早く終われ!」「その話、こないだもしたよ!」って感じでどんどん小堺一機さんが嫌いになっていってしまって……。
 
──それ、ありますよね。僕も突然のゲスト乱入で数多くのゲストを嫌いになりました。「お前のせいでコーナー潰れたぞ」って。
 
ナッツ:これは純粋に番組を楽しめていないなと思って、聴く専門に戻りました。その後はネタをノートに書いて、同級生に見せる程度で満足していました。
 
──同級生を笑わすことが重要な時期はありますからね。雑誌への投稿はありました? 僕はコロコロコミックにイラストを送ってたくらいですが。
 
ナッツ:小学生の時に『ジャンプ放送局』を読んでいましたが、投稿するほどのめり込むことはなかったです。中学生以降も、たまたま波長が合う投稿ページに出会う機会がなかったんだと思いますが、ラジオ派……というかコサキン派でした。
 
──投稿戦士ではなくコサキンだったんですね。
 
ナッツ:その後、大学生の時に友達に「お笑いをやらないか?」と誘われて、ノートにコントを書き溜めるようになったんですが、2冊くらい埋まったところで友達に見せたら「いや、そこまで本気じゃなかった」みたいなことを言われてしまって……。
 
──突然の温度差! 僕も似たようなことがありましたが、あれは寂しいですよね。
 
ナッツ:で、その頃、ちょうど当時も聴き続けていた『コサキン』でコントグランプリというのが開催されていたんです。
 
──またも『コサキン』! それはコントを書いて送るコンテストですか?
 
ナッツ:そうです。リスナーから送られてきたコント台本をコサキンのお二人が演じて、リスナー投票で優勝を決めるというコンテストです。せっかくだからと思って行き場をなくしたコントを手直しして送ってみたら、グランプリを獲ることができました。
 
──グランプリ! ナッツさんは『コサキン』がキーになりますね。
 
ナッツ:そこから投稿も読まれるようになりまして、大学卒業のタイミングで番組の構成をされていた鶴間政行さんに弟子入り志願の手紙を出したんですよ。でも返事をもらえず、そのまま投稿もフェードアウトしてしまいました。それでも大学卒業後にまたちょっとだけお笑いの道を模索したんですが、うまくいかず……。
 
──僕もその頃、お笑いの道を模索していたので、何かと境遇が似ている気がします。そういう時代だったですかね。どんなことをしてたんですか?
 
ナッツ:最初に誘われた友人とは別の留年した友人とコンビを組んで、僕が書いたコントを週に1、2回練習して、半年くらいかけてようやく1本だけネタができるようになったので、いろんな事務所にネタを見てくれないかと連絡をしたんです。10社くらいに電話やら手紙やらを出して、ネタを見てくれたのが2社。ひとつは人力舎で、ちょうど『バカ爆走!』というコントライブの、新人ゴングショー的なコーナーのオーディションがあるからと言われて、JCAの生徒に混じってネタを見せました。ゴングショーってことで、みんな1分弱くらいのネタだったんですけど、僕らは半年かけて練習したネタ1本しかできなかったので8分くらいのネタをやって、みんなに「なんだコイツら」って顔されましたね。でも、JCAの先生的な人が「とりあえず2週間後のライブに出てみるか」と言ってくれて、幸先いいなって感じでした。で、もう1社ネタを見てくれたのが、海砂利水魚さん(現くりぃむしちゅー)が所属していたプライムワン(現プライム)。こちらは事務所の一室でネタ見せと面談みたいなことをしてもらったんですが、「まぁ、つまらなくはないけど、これだけでは通用しないよ」みたいな反応でしたね。その後も「けっこうテレビに出ている海砂利水魚のギャラだって、ビックリするくらい安いんだよ」とか、「先輩に脱げって言われた時にすぐ脱げないとダメだよ」みたいなことを長々と……。たぶん厳しい世界だということを教えてくれたんだと思いますが、その日を境に相方のモチベーションが急速に落ちていって……。結局、人力舎のライブの3日くらい前になって、「ゼミの合宿があるからライブには出られない」と言い出して、コンビは解散。お笑いの道は諦めました。
 

荒くれものの出現を期待してしまう

 
──僕らはほぼ同世代ですから、もしかしたら出会って、コンビを組んでいた可能性もありますよね。
ナッツ:僕は今からでも組みたいです! コンビ名は、当時僕たちが名乗っていた「きのぼり先生」でいいですか!?
 
──「お笑いという名の大きな木を、てっぺんまで駆け登れ! 『きのぼり先生』の登場だ!」とか言われて登場することになりそうだからやめましょう。僕が名乗ってた『ダイヤ&クラブ』にしましょう。で、そこからファミ通に入るんですよね。
 
ナッツ:そうです。コンビニでバイトしながら職探しをしていたら、求人雑誌で『ファミ通』の募集を見つけて、「ゲームも雑誌もまあまあ好きだから、受けてみようかな」程度の気持ちで応募しました。そしたら履歴書に『コサキンコントグランプリ優勝』と書いたのが目に留まったようで、面接に進めました。
 
──やはり『コサキン』が節目節目に出てくる!
 
ナッツ:面接では「『ファミ通』に入ったら何をしたい?」と訊かれて、「クロスレビューとか攻略記事とか……?」と答えていたんですが、「投稿ページには興味ある?」と訊かれて、あ、履歴書を見てそういう方面で求められているんだなとわかったので、「前からやってみたかったです!」と嘘をついたら採用してもらえました。
 
──いよいよ選者のナッツさんが誕生したわけですね。
 
ナッツ:入ってから10カ月くらいの下積み期間を経て、既定路線という感じで町内会の担当になりました。町内会の仕事は楽しくて、「これだけやって暮らしていけたらいいのになぁ」と思うくらい、肌に合いました。でもその後、週刊のペースについていけなくて『ファミ通』を辞めてしまったんです。僕が要領よくないのもあったんですが、1週間合計で5時間しか寝れない時があって、「あ、これはもうムリだ」と。
 
──当時は今より昭和っぽさがありましたからね。特にマスコミ系は……。
 
ナッツ:で、ギリギリ郵政外務の試験が受けられる年齢だったので、「これはもう郵便配達員になるしかない」と。ですが、ありがたいことに辞めて半年後くらいに元上司から「フリーで町内会やらない?」と声をかけていただきまして、無事に試験も落ちて、図らずも望んだ通り、町内会だけやって暮らす生活になりました。
 
──そうしてお互い投稿されたネタを選ぶ選者になったわけですが、何か気をつけていることってありますか?
 
ナッツ:たとえば採用枠が10あるとしたら、面白いものを上から10個選んで掲載するのが理想ですが、コーナーのバランスやわかりやすさ、雑誌的なコードなどを考慮すると、必ずしも単純にそうはならないもの。でも、そういったしがらみの部分のパーセンテージを少しでも減らすようには努力しています。
 
──雑誌の場合、2行余ってたとしたら、面白くても3行のネタは使えない、なんて事情もありますからね。
 
ナッツ:でも迷ったり悩んだりしたら、「面白いものから順番に載せる」という大前提に立ち返るようにしています。あと当たり前ですが、送られてきた投稿はすべて読みます。読者や投稿者、上司などから採用基準に関して何か言われても、「いや全部を見て把握しているのは、この世で俺だけだから」と言えるように。
 
──かっこいい! 昔と今の違いってあります? 投稿者を取り巻く環境はもう別物だと思うので、全部違うと言えばそれまでなんですが。
 
ナッツ:町内会では10年前から掲載数ランキングを集計するようになって、競技化が進んでいるような感じはあります。載せるためのネタの言い回し、フォーマットが洗練されてきてはいますが、昔のような「載ろうが載るまいが、俺が面白いと思ったものを送る」という荒くれものは少なくなってきたかもしれません。一概にどちらがいいとは言えませんが、荒くれものの出現を期待してしまう自分もいます。
 
──僕らは無数のネタを見てきたから、「こいつは敢えてこの言い回しをしてきたな」とか「こいつの中ではこの単語が面白くなってるんだろうな」とかわかってしまうじゃないですか。とはいえ、そこは採用に影響しませんが、理解できない「なんだこいつは!」みたいなネタが来るとやはりワクワクしますよね。
 
ナッツ:そうですね。選者の好みに寄せてくるよりも、「どうしてこれを俺がわかると思ったんだ!?」とか、「これが載ると本気で思っているのか?」みたいなネタのほうが、その後のコーナーの流れを変えてしまったりするんですよね。そういうハガキって実際に採用しなくても、ずっと取っておいたりしちゃいますね。「いつかタイミングがあるんじゃないか」って。
 
──長くやっていると良いことも悪いこともあると思うんですが、良いことと言えば何でしょう?
 
ナッツ:20年近くも毎週毎週変なハガキを読み続けてきて、常人では一生使わないような脳の部分を刺激され続けているので、何らかのアンチエイジング、あるいは取り返しのつかないダメージを受けていることだと思います。
 
──それは絶対にあるんですよ。おかげでこの年齢でもアップデートされていく部分がありますからね。張り合おうとする時すらありますから。投稿者には感謝してます。逆に悪かったところは?
 
ナッツ:悪かったことは、20年近く投稿ページしかやっていないので、万が一雑誌がなくなった時に、自分がどこで何をやっているのか想像もつかないことです。怖いので、あまり考えないようにはしています。
 
──その時はコンビを組みましょう。
 

せきしろ:1970年北海道生まれ。主な著書に『去年ルノアールで』『カキフライが無いなら来なかった』『まさかジープで来るとは』『たとえる技術』『1990年、何もないと思っていた私にハガキがあった』など。

 
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