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−11「命」 私もここで唄えるんでしょうか...

小説−11「命」 私もここで唄えるんでしょうか...

2020.02.01

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新店舗開店おめでとう

 なんとも下北沢にロフトの新店舗「Flowers Loft」が2月2日にオープンするというのに私は仲間はずれ…(笑)。おめでとうロフト…。大丈夫か〜ロフト(笑)。
 
 相変わらず「香港革命」から目が離せないでいる。なんともこの闘いは私の心を激しく打つもので、心おだやかにはなれない。もちろん香港革命はあの天安門事件のように激し、社会主義の似非な仮面を被った独裁中国共産党の特権階級の官僚たちによって無残に潰されてゆくのだろう。革命派は孤立し、あの日本赤軍のように展望なき「武力革命」に突っ走るのだろうか? これが歴史だ。50年前に私たちもどこか同じ道を辿った。
 
 
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下北沢大型道路反対の駅前座り込み
 
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1963年8月ワシントン大行進。「風に吹かれて」が歌われた
 

小説−11「命」 私もここで唄えるんでしょうか…

 江ノ島で出会った初老の二人は重い病気に侵され、将来はなかった。生きる希望を失った二人の目の前には「死」が激しく空中に舞ってすぐそこまで押し寄せてきている。
 余命半年と宣告された夏子さんは最後まで支えてくれた主人とも10年ほど前に死に別れ、住み慣れた家を離れて財産を整理し、一人ホテルで「死を待つ」というあてどもない空虚な生活をしていた。
 私は私で10万人に1人の難病である「尻細管酸欠症」という治る見込みのない複雑な病気を抱え、来たるべき将来に対して「良いことは起こらないだろう」「生きてゆく意味性を持たない」という思いで自分を見つめる日々が続いていた。週3回もの透析治療、治る見込みのないきつい療養にげんなりしていて、自殺ばかりを考えている時に彼女と出会ったのだ。
 私は何としても夏子さんが生きている間に夏子さんのお手伝いがしたかった。ひょっとしたら私は夏子さんに恋をしているのかもしれないと思った。
 …物語は70年代初頭、夏子さんが歌手だった時代に入ってゆく。
 

唄い出したのは1970年代、政治の季節…

 細長い、それは長い夜だった。窓の外はまた断続的にショボショボの雨が降っている。霧雨に追憶は溶けてゆく。夜中の雨が私たちの悲しみを濡らす。音のない雨。
 新宿の中央公園の緑が見える高級ホテルの一室で、夏子さんはまだ愛用のギターを抱えたままハミングしている。ポロン、ポロンとマイナコードの明るくて暗い旋律が静かに聴こえてくる。薄暗い部屋を目に見えない時間が刻んでいった。
 「あの時代、70年代初め、僕たちはまさに日本の高度経済成長の入り口にあった。時の総理大臣は所得倍増計画を打ち出した。資本主義の矛盾はたくさんあったが、君が唄い出した時代、ほとんど若者の反乱は鎮圧されていて、『虚無感、三無主義、同棲時代』とかが流行っていて、若者は同じ柄のTシャツを着てピース、ピースなんて言って明るく街を闊歩する時代になった。そして君が作る曲は明るくキラキラしている世の中とは真逆だった」
 
 夏子さんの歌のキーワードは、多くのミュージシャンが唄う「夢」や「人生賛歌」「小さな幸せ」ではなく、「絶望」「憂鬱」「自殺」「孤独」とただ悲しみと孤独を綴っていた。夏子さんは時代に取り残され、数は多くないが挫折感を味わう学生運動崩れの若者たちに熱く支持された。
 夏子さんの歌声はか細く、やわらかく、幻想的でもあり、説得力を持って聴く人を引き込んでいく。
 しかしメッセージフォークの時代はすでに終わっていた。どこまでも青いカリフォルニアの空のようなロックの時代に入っていたのだ。
 「そう、ニューミュージックの時代。確かに暗くて今時のフォークではないと多くの人に言われたわ」
 「そして君は73年にメジャーレコード会社からデビューした。確かポリドール」
 「レコードを出す前、私は中央線の西荻窪にあったロフトという店で毎月唄っていたわ。店長のHさんは全くの新人で無名の私によくしてくれたわ。テープ審査は合格だったの。Hさんとはライブの前に隣の喫茶店でよくおしゃべりをしたわ。彼って元全共闘の闘士だったの。とても気が合ったわ。私のマネージャーだったM(後のご主人)は面白いくらいヤキモチを焼いていたわ。でもMはロフトをリスペクトしていたし…」
 
 私はHさんのブログから夏子さんの記事を引っ張り出した。それを読み、夏子さんをもう一度ステージに復帰させようと思った。
 

西荻窪ロフトの店主の回想

 あれは73年の秋に近い夏の終わり、店の前の女子大通りは夕日を浴びてキラキラしていた。水を打った道路が光っていた。当時、東京には野音とかの大きな会場を除いてロックやフォークを演奏できる場所が皆無だった(ジャズを演奏する場はたくさんあった)。私は素人ながらロックやフォークを演奏できる場を街中になんとかこしらえてみた。
 そんな店を運営して初めてわかったことだが、ライブハウス(当時はそんな言葉すらなかった)には客もいないし、演者も情宣のインフラも圧倒的に足りない。なぜ日本には外国のようにライブハウスが成立しないのかがよくわかった。ライブはほとんど赤字だった。だから昼間はロック喫茶、少ない集客のライブが終わってからのロック居酒屋でなんとか店を維持していた。今のライブハウス経営者はとても信じられないだろうが。
 そしてはっぴいえんどやシュガー・ベイブという新鮮なバンドが日本語のロックを進化させ、台頭してきた。まだ日本のロックが市民権を得る4、5年前の話だ。ロックは一部で不良の音楽と言われた時代なのだ。
 
 私が一人、「ロック喫茶西荻窪ロフト」の店番をしていた時だ。客はほとんどいなかった。
 暗いヨシズばりの店内には加川良の「下宿屋」が流れている。「京都の秋の夕暮れは…」 良の低い語り口が聴こえた。
 「私もここで唄えるんでしょうか…」 一人の見知らぬ少女が細い入り口からおずおずと顔を出し、一本のテープを持ってやって来た。まだカーリーヘヤーでもなく、サングラスもかけていなかった。さすがに無名の新人歌手がサングラスをかけての売り込みはできなかったのだろう。彼女のサングラスを外した素顔を見たのはこれが最初で最後だった気がする。
 「森山夏子」とその少女は言った。
 なぜそんなことを覚えているかと言うと、その数日前にやはり新人歌手だった山崎ハコがやって来たばかりだったから。彼女はすでにFM東京とかに自分の番組を持っていて、私も知っている歌手だった。
 「これからはロックの時代がやって来るのに」と思いながら、とにかくこの美しく寡黙な少女の売り込みの義理を果たすためにテープを回してみた。
 
 
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