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『麻田 浩「聴かずに死ねるか!」出版記念』その2

#3『麻田 浩「聴かずに死ねるか!」出版記念』その2

2019.07.11

月刊牧村 冬期ゼミ#3
『麻田 浩「聴かずに死ねるか!」出版記念』その2
2019年1月14日(月)ROCK CAFE LOFT is your room
【講師】牧村憲一【ゲスト】麻田 浩
 
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 トムス・キャビンの話になるかと思ったら、そこに至るまでがまたまた興味深い内容で、今回も様々なエピソードが満載となります。全3回連載の2回目です。(文責・牧村憲一)
 

二度目、三度目の渡米

 
麻田:1967年から1年間、アメリカにいました。ロサンゼルスのアッシュ・グローブというライブハウスでNLCR(ニュー・ロスト・シティ・ランブラーズ)を観たり、「花のサンフランシスコ」が大ヒットしている時にサンフランシスコに行ったり、『ニューポート・フォーク・フェスティバル』でジョニ・ミッチェルやレナード・コーエンを観たり、ニューヨークのアポロ・シアターでマーサ&バンデラスを観たり…。なかでも一番の思い出は、ウディ・ガスリーのトリビュート・コンサートで念願だったボブ・ディランを観られたことですね。チケットが買えずに会場のカーネギー・ホールから漏れる音を聴いていたんですけど、半分くらい終わった頃に出てきた人にチケットを譲り受けたんです。それで最後の4分の1くらいは観ることができたんですよ。ディランが唄うのは1曲くらいしか観られなかったんですけどね。
 
牧村:その数年後、黒澤明監督のご子息であり、ブロード・サイド・フォーのメンバーでもあった黒澤久雄さんの企画で、麻田さんはまたアメリカへ行くことになるんですよね。
 
麻田:黒澤が『股旅USA』なるロード・ムービーを撮るということでね。アメリカから帰ってきて、僕は黒澤監督や勅使河原宏監督の助監督の仕事をしていたんですよ。でも映画産業が斜陽の頃で仕事が徐々になくなってきたので、いろんな仕事をやりました。音楽の仕事ですと演奏したり、レコードのライナーノーツを書いたり、キョードー東京で来日アーティストの司会兼ツアー・マネージャーみたいな仕事をやったりして。1970年頃、マイク&アリス・シーガーが来日して各地の労音を回るということで、招聘サイドが司会を探していたんです。マイクはNLCRのメンバーで面識もあったから、彼が僕のことを思い出して司会に推薦してくれたみたいなんですよ。
 
牧村:マイク・シーガーはピート・シーガーの弟さんですね。ここで1曲、聴いてみましょう。
 
麻田:マイク&アリス・シーガーの『トラディショナルフォークの世界』というアルバムの1曲目です。小室等が解説を書いていますね。
 
──マイク&アリス・シーガー「Sunny Side of Life」
 
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麻田:マイク・シーガーはマルチ・プレーヤーで、バンジョーでもマンドリンでも何を弾いても上手い人だったんです。彼と回った労音のツアーはとても楽しかったですね。
 

ミュージシャンに復帰してナッシュビルでレコーディング

 
牧村:先ほど話に出た『股旅USA』は、今のテレビ朝日で放映されていた番組ですか。
 
麻田:そうです。僕と篠ひろ子と渡辺篤史の3人がスバルから提供してもらった車でロサンゼルスからニューヨークまで行くのを撮るというもので。テレビドラマと言うよりほぼドキュメンタリーみたいな内容で、わりと面白い企画でした。
 
牧村:その旅の途中で、後に頭角を現すミュージシャンと出会っているんですよね。
 
麻田:シカゴに行った時に1日休みがあって、何かライブがやっていないかと思って調べたら、ジャクソン・ブラウンがクワイエット・ナイトという小さいライブハウスでライブをやる情報を見つけたんです。黒澤は次の日に打ち合わせがあるというので、僕と篠ひろ子と渡辺篤史の3人で観に行ったんですよ。ジャクソンは2枚目の『For Everyman』を出した頃だったのかな。デヴィッド・リンドレーと2人で演奏していたんです。それがすごくいいライブでね。今まで観たジャクソンのライブで一番いいライブだったかもしれない。
 
牧村:その後、ジャクソンをお呼びになりますよね。
 
麻田:スマッシュを立ち上げた時だから、ずっと後ですけどね。本当はキョードー東京の仕事をしていた時もジャクソンを呼びたかったけど、当時の大きな呼び屋には「シンガー・ソングライターなんて客は入らないよ」なんて言われたんです。ポール・モーリアが大きなホールでやるようなコンサートが主流だったし、僕より歳上のプロモーターはシンガー・ソングライターのことなんて誰も知らなかったから。ところが後年、僕がエリック・アンダーセンやトム・ウェイツを呼んで、小さい会場ながらも満杯になるのを知ると、大きな呼び屋はビジネスになると踏んで態度をコロッと変えるんですけどね(笑)。
 
牧村:しかもシンガー・ソングライターの場合、グループと違ってメンバーやスタッフの数が少ないから、経費やギャランティも少なくて済みますよね。
 
麻田:だから僕は自分で呼んじゃうようになったんですけど(笑)。
 
牧村:『股旅USA』でアメリカにいたのは半年くらいですか。
 
麻田:それくらいですね。ちょうど同じ頃、僕がフラフラしていたものだから、ミュージカル・ステーションの金子洋明さんとシンコー・ミュージックの草野昌一さんから「また歌を唄ってみたらどうだ?」という話をもらったんです。
 
牧村:シンコーとミュージカル・ステーションとCBS・ソニーの3社が原盤を持って、レコーディングすることになったんですよね。
 
麻田:せっかくレコーディングするならナッシュビルでやりたいと言ったら、あっさりOKが出たんですよ。ニール・ヤングのバックをやっているような人たちと一緒にやりたいと思って。ボブ・ディランもエリック・アンダーセンもナッシュビルでレコーディングしていたので、憧れだったんです。
 
牧村:ここで、ニール・ヤングの曲を聴いてみましょう。「孤独の旅路」(Heart of Gold)にしましょうか。
 
──ニール・ヤング「Heart of Gold」
 
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牧村:この『Harvest』というアルバムはミリオンセラーになって、日本でもウエストコースト・ブームの先駆けとしてヒットしました。僕らの世代は最も影響を受けたアルバムと言っていいかもしれません。
 
麻田:まさにこういうサウンドを求めていました。シンコーの草野さんはナッシュビルの名誉市民だったこともあって、話がスムーズにまとまったんです。結果的にドラムがケニー・バトレー、ペダル・スティールはウェルドン・ミリックがダメでピート・ドレイク、ピアノはデヴィッド・ブリッグスといった素晴らしい面子に参加してもらうことになって、こちらは僕と石川鷹彦の2人で行きました。リハで石川のアコースティック・ギターに合わせて僕が唄って、バックのミュージシャンがそれを聴いてコードを譜面に書き込むんですが、そのコードが数字なんですよ。Cは1、Fは4といった具合に。つまりキーが変わっても数字なら対応できるわけです。そこで初めてナッシュビル・スタイルの数字のコード譜を知りました。僕より先に森山良子がナッシュビルでレコーディングしていますけど、あれは先にオケができていたと思うので。僕のレコーディングは2、3回リハをやるとすぐに録っちゃうので、1曲が完成するのがすごく早かったんですよ。
 

狭山、入間の米軍ハウス・コミュニティ

 
牧村:ミュージシャンに戻ってからどうなさったんですか。
 
麻田:ミュージシャンをやりながら、キョードー東京から来るツアーの仕事も相変わらずやっていました。CBS・ソニーはすごく力を入れてくれましたよ。天地真理のディレクターもやっていた中曽根(皓二)さんが理解のある方でね。1枚目がそんなに売れなかったにも関わらず2枚目も出そうという話になって、今度は僕のやりたいようにレコーディングしていいと言われて。それで最初の4曲はキャラメル・ママをバックに録ったんですよ。細野晴臣(ベース)、鈴木茂(ギター)、松任谷正隆(キーボード)、林立夫(ドラム)という面子で。
 
牧村:その時はもう狭山にお住いでした?
 
麻田:1970年くらいには狭山に移っていました。細野君も狭山でしたね。キャラメル・ママと4曲録った後は、うちの近所に住んでいた和田博己(ベース)、徳武弘文(ギター)、岡田徹(キーボード)というメンバーで録ったんです。島村英二(ドラム)だけ東京から呼んでね。アリちゃん(松田幸一)にも1曲だけハーモニカを入れてもらって。
 
牧村:そういった気鋭のミュージシャンが狭山に集まって、アメリカ的なコミューンを形づくったのはなぜなんでしょう?
 
麻田:ワークショップMU!!というデザイン事務所があって、そこにいた奥村靫正、中山泰、眞鍋立彦という桑沢デザイン研究所出身の3人が最初に狭山に住んだんですよ。それが大きいですね。ある時、彼らに「すごく広い家が格安で借りられるからおいでよ」と言われて狭山のハウスを見に行ったんです。当時は関越がなかったから下の道をずっと走ってかなり時間がかかったんだけど、行ってみたらすごくいい所だった。10畳くらいのリビング、8畳、6畳、6畳のベッドルームが3つ、4畳半のバスルーム、4畳半のキッチンがあって、車も3台は止められる。芝生の庭もあってね。家賃が確か2万5,000円くらいだったかな。その家を気に入ってすぐに移って、最初は僕1人で住んでいたんだけど、そのうち石川鷹彦を介して知り合った安田裕美、後にアメリカのマッケイブスという楽器屋でギターのリペアマンになる押尾光一郎の3人で住むようになりました。その後に細野君、(小坂)忠が来て、徳ちゃん(徳武弘文)、岡田(徹)、(吉田)美奈子も移ってきて。忠のバックをやっていたフォージョーハーフも一部屋借りていましたね。入間市のほうには律ちゃん(村上律)やアリちゃん、(西岡)恭蔵夫妻が住んでいました。
 
牧村:小坂忠さんの話によると、細野さんの家とは台所が対面していたから糸電話をつないだりしていたとか(笑)。
 
麻田:そうそう。忠たちはそういうバカな遊びをよくしていましたよ(笑)。さっき話に出た奥村(靫正)はYMO、ウータン(中山泰)は大滝(詠一)君のナイアガラ・レーベル、眞鍋(立彦)君はドゥファミリィのデザインをそれぞれ手がけたことで知られるんですけど、僕らが狭山に住んでいた頃、彼らがサディスティック・ミカ・バンドのトロピカル風のジャケットを撮った記憶がありますよ。僕はそれを横で見ていたので。
 
牧村:ミカ・バンドのデビュー・アルバムですね。あれはMU!!の3人全員が関わった最後に近い作品ですよね。麻田さんの話に戻すと、キャラメル・ママと4曲録ったアルバムは結局お蔵入りになってしまったんですよね。
 
麻田:デモをCBS・ソニーに聴かせたら、「これじゃ売れない」と言われましてね。彼らはもっとポップ寄りなフォークを売りたかったんでしょう。僕のやりたいようにやっていいという話だったのに、それじゃ話が違うんじゃないの? と思って、作るのを途中でやめちゃったんですよ。キャラメル・ママとの4曲と狭山で録った7曲は、何年か前にCDになりましたけどね(『麻田浩 GOLDEN☆BEST〜GREETINGS FROM NASHVILLE+Singles & Rare Tracks〜』に収録)。
 
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 ここまで始まってから1時間半ほど。トムス・キャビンの話に入れませんでした(笑)。次回は間違いなくトムス・キャビン時代です。(牧村・記)
 
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聴かずに死ねるか! 小さな呼び屋トムス・キャビンの全仕事
【著者】麻田 浩/奥 和宏

【仕様】A5判/256ページ
【価格】本体2,200円+税
【発行】株式会社リットーミュージック

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