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十回「干し柿に運命を変えられた伊号第400乗員の話」

第二十回「干し柿に運命を変えられた伊号第400乗員の話」

2019.12.04

 どうも〜、私です。あっという間の12月。2019年最後の連載ですね。自分40歳になって来年本厄ということで、何が起きるかドキドキですね。健やかでありたいものです。
 そう。人はどこで、どのタイミングで人生のターニングポイントがあるかわからないもんです。今回はそういう話。
 
 時は太平洋戦争末期のこと。日本海軍で排水量1,000トン以上の大型潜水艦は〈伊号〉という名前で型番が振られます。その伊号潜水艦最後のシリーズで伊400型というのが3隻建造されます。それぞれ伊400、伊401、伊402ですね。この潜水艦は当時世界最大級の潜水艦で、全長122メートル、水上3,530トン、水中では6,560トン。水上で最高18.5ノット(時速34kmくらい)、水中6.5ノット(時速12kmくらい)で航行できます。さらに燃料満タンで地球を1周半できる航続距離があったとか。んで、この潜水艦最大の特徴は水上攻撃機を3機搭載して発艦、回収することができる潜水空母というところでしょう。
 なぜこういう潜水艦を造ったかと言うと、アメリカ軍に押されて制海権をほぼ失っていた日本がこの潜水艦を隠密行動させてアメリカ本土に接近、からの攻撃機で本土爆撃、もっと戦局が悪くなってくるとパナマ運河のゲートを攻撃してダメージを与えることによってアメリカの艦船を足止めしたい、とか考えたからです。パナマ運河は大西洋と太平洋を結ぶ唯一の運河で、そこを通過できないと南米大陸をぐるっと回ってくるルートを取らざるを得なくなり、数週間ロスしちまうのです。ドイツが降伏して大西洋の艦隊が一気に太平洋に派遣されることを焦ったんですな。
 
 しかしこの潜水艦たちは1944年年末に伊400、1945年頭に伊401が完成して(伊402は夏頃完成、実戦投入は間に合わなかった)、実戦で使える状態まで訓練や調整をしてたら1945年初夏くらいになっちゃって(攻撃機晴嵐3機を折り畳んだ状態から発艦できる状態にするまで当初半日くらいかかっていたのを、訓練で15分から20分くらいで発艦できるまで仕上げたらしい)、もはやパナマ運河まで行ってる状況ではないほどのアメリカ大艦隊が接近、グアムとパラオの間ら辺にあるウルシー環礁という所に集結してる、ってんでそこに攻撃目標を変更、7月末に伊400と伊401が別々の場所から出撃、8月中旬に太平洋上で合流して攻撃を仕掛けることになりました。
 3機ずつ計6機の攻撃機が米艦隊に特攻する作戦で、伊400と伊401は二度と日本本土に帰還することはないと乗員も覚悟した出撃でした。
 
 この伊400に乗り組んでいた若い乗員に山西義政さんがいました。彼は貧しい家で育ち、小学校を出てすぐ働き倒し、20歳の時に海軍に入隊、22歳でこの出撃となったと。海軍に入った時は「飯も住むとこも服もある、こんなええとこはない!」と思ったみたいですが、この出撃は「まず帰ってこれんなー」と思ったみたいです。
 3週間近い航海で暇な時は、戦友とたわいもない話をしてたみたいです。広島市出身の山西さん、同じ広島県の県北出身の戦友に「なんか今食べたいもんあるか〜?」的な雑なことを聞いたら、「そうだな〜、俺んち山のほうだから干し柿をよく作って食べてたんだよ。それがめちゃ美味ぇの。あれまた食いたいな〜」と答えたんと。てなると山西さん、「何それ、そこまで言うなら食べてみたいな〜、干し柿」てなりますわな。「まぁ生きて帰れたら食べに来いよ、んなわけないだろうけど。ハハハ…」て会話をしてたんですと。
 
 8月14日に伊400は集合場所に到着、伊401を待つことに。すると翌15日、まさかの玉音放送。戦争が終わっちまったのです。艦内は「構わず攻撃しよう派」と「いや降伏だ派」で揉めたみたいですが、艦長の判断で日本への帰還を決定。攻撃機晴嵐3機は軍機保持のために海中投棄、魚雷20本も捨てて日本に戻ります。8月下旬に米軍に捕獲され、横須賀に帰投します。伊401も同じような行動を取ったみたいです。
 こうして決死の作戦からまさかの帰還を果たした両艦。と乗員たち。山西さんも広島に帰ります。するとそこは原爆で焼け野原になった街。山西さんのお母さんも原爆で亡くなったと。絶望した山西さんですが、生きていかねばなりません。その時、「ああ、そういや干し柿美味ぇ! って言ってたあいつんちに行ってみよ」と県北の戦友のとこに向かいます。そして実際に食べた干し柿がめちゃ美味かったと。そこでちょい干し柿を分けてもらって、広島の闇市で売ってみました。すると食料不足の街で干し柿大評判! そこでできた金で戦友のとこで干し柿補充、徐々に規模をデカくしていきました。
 そうして闇市である程度のお金を作った山西さん、いろんな商売を始めてみて、そのうちちょっとしたスーパーマーケットを作ります。それがイズミ。のちの「ゆめタウン」です。西日本ではシェア1、2位を争うほどの巨大スーパーチェーンになり、2018年には売上7,000億円にも達したそうな。山西さんは1993年に社長を退き、会長に。そして今年、会長を退き名誉会長になられたそうです。
 
 ほんとどこに人生のターニングポイントがあるかわかりませんね。あの伊400艦内での雑談を聞き流してたらこんなこともなかったし、それを覚えてて商売にしたバイタリティもすごいですね。「ゆめタウン」では現在も干し柿を売ってるとこあるみたいですよ。すげぇ。それではまた2020年にお会いしましょう、よいお年を。
 
挿絵:西 のぼる 協力:新潮社
 
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