桃井はるこのニュー・アルバムをここ最近毎日聴いている。アキバ系という言葉を最初に使った桃井だが、もう何年も前から彼女はそうした枠を越えた地平に辿り着いているし、そもそも最初からジャンルというものには収まりきらない存在だった。細部にまで様々なアイデアを試みた多彩なサウンドはもちろん、今作では歌詞に込められたメッセージの強さがひときわ印象に残る。「悲しみは決して悪いことじゃない　いつも何か教えてくれるから」（ANCHOR）、「世界の片隅に退避て、どうか希望をすてないで　過ぎる嵐じっと待つのもいい」（東京サバイバル）など、生きていく限り常にいろいろなことに悩む私たちの背中をそっと押してくれるようなフレーズが心に響く。自身を糸の切れた凧に例えた「カイト」を初めて聴いた時は、個人的に『かもめのジョナサン』を読んだ時の深い感動を思い起こした。彼女のひとつの到達点とも言える作品だ。（Rooftop：加藤梅造）