キノコホテルのギタリスト、イザベル＝ケメ鴨川としても知られるkemeのセカンド・ソロアルバム。前作『永遠の旅』では孤独な場所から魂の震えを歌にしたような楽曲が印象的だったが、今作ではkemeバンドによるリラックスした演奏が心地よく、音楽的にも一回り成長したことが伺える。kemeが敬愛する吉田拓郎の作品で言えば、前作が「人間なんて」だとしたら今作は「今はまだ人生を語らず」といった感じだろうか。フォークロック調の『しらない世界』、軽快なリズムに乗せて恋の終わりを歌った『愛と自由の日々』、コミカルな小品『増毛希望』、ハードボイルドな『行方知らず』など、楽曲のバラエティさはバンドとして充実期にあることが伝わってくる。耳をすまして心の声を聞いた『声にならない』はこれまでにない珠玉のバラード作品だ。バーチャルな音楽が溢れる中、人間の生々しさを表現した本作は歌の持つ力を再認識させてくれる。（加藤梅造）

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