トップ > レビュー >CULTURE > ユリゴコロ / 沼田まほかる

CULTURE  | BOOK

ユリゴコロ / 沼田まほかる

双葉社
1,512yen(tax in)

amazon

 恐怖や疑念を、これほどまで鮮やかに愛情へひるがえす本がかつてあっただろうか。数年前に読んだ本だが、映画化にあたり再読。
 主人公・亮介が、婚約者の失踪、母親の事故死、父親の病気に見舞われ人生に迷う中、実家で「ユリゴコロ」と名付けられたノートを見つけたところから物語は動き出す。淡々と綴られる衝動的殺人に最初こそゾっとしていたが、美しい文体のせいかまるでおとぎ話のように思えてくるから不思議だ。全てを知りながら自分に嘘をついているかもしれない父親の、「母さんの優しさだけを覚えていてほしかった」という言葉は、本を閉じる時に本当の意味を持ち、ホラーサスペンスだったはずの物語がいつの間にか深い愛情へ変わる。亮介の人生はあらゆる愛に包まれていた。
 ミステリーを読まない人にこそ、ぜひ手にとってもらいたい。映画版では削られた設定に息を飲み、文章でここまで気持ちを動揺させることができるのか…と壮絶な体験をしてほしい。(成宮アイコ)