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山下澄人 / しんせかい

2017.03.01   CULTURE | CD

新潮社
1,728yen(tax in)

 今月はなぜかいつもよりたくさん本を買った。その数は10冊以上になった。本屋で書棚を見ているとついつい手が伸びて買ってしまい、それをなかなか読みこなせずにいる。でも毎年二回の芥川賞と直木賞はやはり欠かさず読んでいる。このところ、この賞は面白い。さて山下澄人のこの作品。青春小説の部類だ。主人公19歳。面白くて一気に読んだ。かの名作ドラマ「北の国から」すら知らない主人公が、間違えて配達された倉本塾の「二期生募集」という新聞記事を読み劇団員に応募して、という悪戦苦闘の話だ。応募の理由は俳優になりたかったのかどうか解らないないが、入学金や授業料が一切かからないというのに惹かれ応募したところ受かってしまったというものだ。そこには複雑な人間関係があり、その淡々とした生き方がとてもいい。とにかくやはり天下の純文学芥川賞をちゃんと読んだという事が実は自分の勲章でもあるのだから。(平野悠)
 

 劇作家、俳優、そして作家でもある山下澄人が『北の国から』で知られる倉元聰主催の演劇塾「富良野塾」で過ごした日々に基づいて書いた小説。芥川賞受賞作。高校を卒業したての主人公スミトが2年間、北国の土地で丸太で作った稽古場や食堂棟などの建物がああり「谷」と呼ばれる土地で、全国から集まった仲間たちと暮らし始める。そこには風呂もなく、十分な寄宿棟もない。自分たちで薪割りをし、建物を建て、家畜の世話をしながら演劇を学ぶ共同生活を送る。作者独特の視点や時系列の変化があり、あたかも幽体離脱をしているような気分にさせる表現が面白かった。時折斬新な文章が心地良くもあり、枠にとらわれない、不思議な世界観を持っている。一般社会からは隔絶された生活を送る不安と、自らを他人事のように語る主人公の不安定感がこの物語の魅力になっている。淡々と進む中で言葉のリズムが良く、おすすめの一冊です。(阿佐ヶ谷ロフトA:仁木源)

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