イヤミスの女王、真梨幸子の新刊。順風満帆な生活から転落し鬱々と生きている主人公は、大量殺人事件を起こしたパート先の同僚の言葉に耐えきれない興奮を覚え、再び人生を突き進み始める…。「成功したかったら、失敗するなってこと」。

　巧妙にミスリードへ誘導して伏線に気付かせない構成、いつの間にか切り替わっている一人称の視点、本音と建前を露骨に吐露しまくり誰一人として信用できない登場人物たち。悪趣味なほど淡々と破綻していく人物描写により、妄想と現実の境目が曖昧になっていく様は不気味だ。いったいこれは誰の独白なのか、狂っているのは読み手のわたしなのでは？ と混乱させ、読者を思いのままにする。悪意に悪意が重なって終始嫌な気持ちが続くのだが、読み終われば「真梨様、早く次のお話を…」と飢えた気持ちになり、新刊情報が出ればカレンダーに印をつけてまで心待ちにさせる真梨幸子のどす黒く純粋な世界。恐ろしい、これは一種の病だ。（Rooftop：成宮アイコ）