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『坂本龍一 | async 設置音楽展』いよいよこの週末で閉幕!まだ体感していない方はワタリウム美術館へ!

2017.05.25

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2017年4月4日からスタートした、ワタリウム美術館での『坂本龍一 | 設置音楽展』も、いよいよこの週末で閉幕となる。坂本龍一の8年ぶりのソロ・アルバム『async』を題材にしたこの展覧会は主に3つのパート(フロア)で構成されている。 
 
まず、2Fが『async』の5.1チャンネル再生と高谷史郎による映像による展示。高音質かつサラウンドで鳴る『async』と、複数のモニターに“非同期”しながら映し出される高谷史郎による映像。アルバムが内包する時間、空間を音と映像によって立体的に再構築している。
 
3Fは、NYの若手映像クリエイター・チーム“Zakkubalan”による『async』制作環境の空間、時間の疑似体験スペース。レコーディング中のスタジオ内や、プライベート空間を多数のiPhone、iPadのディスプレイで見せる。ディスプレイの中のニューヨークのその空間では、風の音や近所の工事の音、あるいは楽器が鳴り、日が射し、陰る。時折、モニターの中を『async』制作中の坂本龍一が横切る。何度もこのフロアに足を運び、どのタイミングでディスプレイ中に坂本龍一が登場するか熟知してしまった猛者もいるらしい。
 
4Fは、『async』収録曲の「disintegration」と「Life,Life」をタイ出身の映画監督・映像作家であるアピチャッポン・ウィーラセタクンが映像化した作品を上映している。4年前、中東の美術祭で知遇を得た彼に、今回あらためて『async』の映像化を持ちかけたところ、予想外の早さと熱意で実現してくれたというコラボレーションの成果だ。坂本龍一がいまもっとも評価し、敬愛する映像作家であるウィーラセタクンらしい、独特の光と空気を感じさせる映像は、『async』の音楽が先にあったのではなく、ウィーラセタクンの映像にあわせて坂本龍一がそのサウンドトラックのために2曲の作曲をしたかのような錯覚すら覚えさせる。(実際、「Life,Life」は映像にあわせるために監督の要望によってピアノのパートを追加したりと、この映像のための特別なロング・ヴァージョンにはなっている)
 
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この映像は、通常の音楽のプロモーション映像ではなく、あくまでウィーラセタクンのアート作品という位置づけの映像のため、この作品は今回の『設置音楽展』での上映を逃すと、次に観る機会はいつになるかわからない。いつかどこかの美術祭か、あるいはウィーラセタクンのいつかどこかでの個展になるのか。発売されることがあっても、それはアート作品としてのエディション・ナンバー付きの限定販売で、個人が気軽に買える値段のものにはならないだろうことも予想できる。じっくり鑑賞するなら、この週末のワタリウム美術館での『設置音楽展』を逃す手はない。
 
また、これまで観た人の中には気づいている人もいるようだが、半信半疑のままの人もいるかもしれない。そう、映像中のあるシーンに登場するのはティルダ・スウィントンだ。気づかなかった方は、この週末の最後のチャンスでぜひ確認を。
 
そして、1F受付横で展開されている、坂本龍一へのメッセージ、または質問の付箋を貼り付けていくスペース、“コミュニケーション・ウォール”もいま大変なことになっている。予定されていたガラス窓の壁面を大きく逸脱していった大量の付箋が貼られている。日本のみならず世界各国からの訪問者が、それぞれの言葉で書き記したメッセージは、『async』の感想あり、質問あり、あるいは熱いメッセージ、クールなあいさつ、イラストありと千差万別。
 
特筆すべきなのは、坂本龍一は毎日、それらすべての新しいメッセージの付箋に目を通し、時間が許す限りその返事をしていること。『設置音楽展』スタート時の日本に滞在していたときは、自らもペンを握って直筆で付箋に書き込んで返答をしていたが(多くの付箋の下に埋もれているが、直筆のお返事付箋をぜひ探してみてください)、ニューヨークに戻って以降も、commmonsの特設サイトでネット経由での回答やリアクションを行なっている(http://www.skmtcommmons.com/quest/?tag=152)。坂本龍一に直接メッセージして、なおかつ、確実に本人が目を通すことが保証された機会はそうそうないので、この週末の最後のチャンスは逃せない。噂によると仕事関係でメールの返事が来ない場合はここに付箋を貼るのが有効ではないかと言いだした関係者もいるとかいないとか。
 
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地階では、『設置音楽展』のためのオリジナル・グッズであるTシャツやバッジのほか、坂本龍一のCD、アナログ盤、あるいは特集雑誌などさまざまなアイテムが販売されている。発売に先立ってのテスト盤による『async』のアナログ盤の試聴コーナーも設置されてきたが、その『async』のアナログ盤も、先日無事に発売が開始された。試聴コーナーのテスト盤は多くの来場者による大変な回数の試聴によって、もはやボロボロの状態に近いが、そのすり減った盤の出すノイズもまた、『設置音楽展』の重要な環境音のように聴こえてくる。おそらく、この試聴コーナーにあるボロボロのテスト盤は、アナログのLPが発明されて以来、世界で最も、すくなくとも日本ではいちばん再生回数が多いホワイト・レーベルのテスト盤となったのではないか。
 
『設置音楽展』を準備中の2017年の3月の終り、各フロアで展示のテストのために『async』が鳴り続ける中、スピーカーや、ベンチの位置、プロジェクターの具合など、すべてを確認する坂本龍一は、ぽろりとこう漏らした。
 
「通常、自分のアルバムはマスタリングが終わったらもう聴き返すことはほとんどないけど、この展示のためにいまになっても『async』は毎日何十回も耳に入ってくる。こういう経験は初めてだし、もうないんじゃないかな」
 
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そんな『設置音楽展』もこの週末でとうとう終わる。坂本龍一がスピーカーの位置を自分の手で調整し、ベンチの向きを変え、音量の指示も出し、「このアルバムの音はこうして聴いて欲しい」と切実に願った、世界でいちばん手の込んだ試聴スペースだ。将来、また再現できることがないとは断言できないが、今回これを実現したコストや手間を考えると、そう簡単にできるとは思えない。
 
しかし、この週末までは、確実にこの音に、この環境に身を投じることができる。大変な混雑になることは予想されるが、それでも、まだの人はぜひ、そしてもう一度、あるいは二度、三度の人もぜひ、この最後になるかもしれない機会を逃さないでほしい。ワタリウム美術館で5月28日(日曜日)19時まで。(執筆:吉村栄一 写真:丸尾隆一)
 

Live Info.

Ryuichi Sakamoto |asnyc
坂本龍一 |設置音楽展
会期:2017/4/4(火)~ 5/28(日)
11:00~19:00(毎週水曜日は21:00まで延長)*月曜休館日
会場:ワタリウム美術館 〒150-0001 東京都渋谷区神宮前3-7-6
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