映像制作チーム「ふりふり組織」でアニメーション制作を手がけるソーシキ博士。趣味で始めた海外インディーゲームの紹介Youtubeチャンネル「なんてことなの。」が、半年でチャンネル登録者数1000人を突破! それを記念して8月18日にネイキッドロフトにて生ゲーム会の開催が決定。人知れず活動してきたアニメーション作家がゲーム紹介でバズった経緯を聞きに、パーソナルなお話を伺いました。[interview:石川美帆]
短編アニメーションを作るのは、田舎で誰も知らない地蔵を作ってるのと一緒
----簡単に自己紹介をお願いします。
ソーシキ博士(以下、ソーシキ):自己紹介か...(笑)。...映像制作をやっています。
----アニメーション映像の制作をされていて、今はアーティストのPVや、Eテレでも作ったり。
ソーシキ:そうです。高校を卒業して美大や専門学校にも行かず、26歳で突然アニメーションを作り始めたんですけど、ちょこちょこ制作していたら声をかけてくれる人が出てきて。そこからいろいろ広がってPVも作っていくようになりました......(突然)あの、アニメーションの上映会って行ったことあります?
----昔、一回だけ行ったことはあります。あんまり覚えてないんですけど。
ソーシキ:別に記憶にも記録にも残らない感じですよね。感性の栄養にもならないし、誰かに勧めようとも思わないし。
----急にどうしたんですか(笑)。
ソーシキ:映画や漫画や音楽って、ずっと人が付き続けるじゃないですか。どんなに、「最近見てない」って言っても、家にある漫画をペラペラくらいはしますよね。短編アニメーション作ってるのって、田舎で誰も知らない地蔵を作ってるのと一緒ですよ。
----!?
ソーシキ:架空の作業に近くて...。それを集めて見せられても、不思議でしかないですから。
----きっかけがあれば田舎の地蔵に興味のある人はいると思うんですが。
ソーシキ:いい感じのポスターを作って、いい感じのトレイラーを作ったら、「一回行ってみるか」にはなるんですよ。でもそれはツイッターとかに、「やばかった!」って書いて終わり。「わたし、実はこんな趣味もあるんです!」「あなた見ないでしょこういうの?」っていう、五十歩百歩のつばぜり合いに使われるだけなんです。
----わたしにもちょっとそういうところがあるんで心が痛いですね(笑)。
ソーシキ:僕も含めみんなそういうところはあるんです。多くの短編アニメーションには、その程度の求心力しかないって僕は思ってます。
----人に興味があるかは重要だと思います。音楽にしても映像にしても、作ってる人やってる人に興味があるからライブに行く、作品を見に行くことが多いです。
ソーシキ:そうなんですよね。僕もそういうことに気づいたんですよ。人として興味を持ってもらうために、もっとカテゴライズせずいろいろやっていきたいって思います。
ゲームの紹介がバズって、それまでの自分からは遠い人が反応してくれた
----その一方で、この人は何をやっている人っていうカテゴライズをされてた方がわかりやすくて、いろんなことがスムーズにいってしまいますよね。
ソーシキ:"短編アニメーション"についてるファンは一定数いるはずではあって。例えば、"インディーズバンド"についてるファン、"アメコミ"についてるファン、"グルメ漫画"についてるファン、みたいに。でも、ジャンルについてるファンの中にいるだけだと少数派で。その外にはもっとたくさん人がいると思うんです。例えば、田舎で...大根掘ってる...自警団の男の子...とか。
----なるほど。
ソーシキ:僕がアニメ作家という立場で、「アニメーションを作ってます」ってただツイートしても、その男の子には絶対届かない。だけどもしかしたら、その男の子は僕のアニメーションを好きって言ってくれるかもしれない。
----「ジャンルについてるファン」というカテゴライズの外にも可能性がある?
ソーシキ:ゲームの紹介をしだしてからそれをすごく感じています。ゲームの紹介がバズってから、それまでの自分からは遠い人が反応してくれて。え!? 岐阜のOL? え! 韓国中学生じゃん!? っていうのがたくさんありました。既存の場所でウケようとしすぎないで、もっと根本的なことを忘れたくないって思います。
ずっとゲームはひとりでやってたけど、ゲームの話が合う人がいなかった
----普段やってるマニアックなインディーゲームはどうやって探してるんですか?
ソーシキ:インディーゲームを配信しているところがいくつかあって、steamとか。その新商品を片っ端から見てます。
----地道!(笑) インディーゲームとの出会いってどんな感じでした? それこそ普通に暮らしてたら触れない世界だと思いますが。
ソーシキ:昔からハイパーゲーム好きではありました。でも、ドラクエもFFもちゃんとやったことないし、ゼルダもクリアしたことないんです。だから僕はゲームの話を人と一切しなかったんですよ。ずっとゲームはひとりでやってきてたんですけど、ゲームの話が合う人がいなくて。で、26歳のときにいきなりアニメーション作ろうと思ったんですけど...。
----ちなみに、なんでいきなりアニメーション作ろうと思ったんですか?
ソーシキ:ひとりでできるから。
----なるほど(笑)。
ソーシキ:(笑)。あとは絵が下手でも受け入れてくれる感じがして、懐が深いなと思って。で、そんな消極的な理由でアニメーションを作り始めるんですけど、やっぱりわからないことが多いから、ちょっとストイックに勉強しようと思って4〜5年自分でゲーム禁止にしてたんです。
----4〜5年は長いですね。
ソーシキ:でもそもそも自分が短編アニメーションというものが好きで作りはじめたわけじゃないから、上映会とか行った所で勉強にはなってもおもしろくはないな、と思って。そのうち気分が落ち込んで、家からもう出られないっていう状態になってしまって。そんな状態で久々にゲームをしてみたら、「ゲームおっもしろ!!!」ってなったんです。ちょうど同時期にテレビで田舎のゲーセンのドキュメンタリー見たりして「ふるさとだ!!!」って。
----「これじゃん!!」と(笑)。
ソーシキ:中学生の頃の俺はここにいたはずじゃんって気付いて。最初はプレステ4で普通にゲームを買ってたけどあんまりピンとこなかったので、いまのゲームをいろいろと探っていくうちに、インディーゲームに触れていって、オイオイ! と。
----おもしれえじゃねえか! と(笑)。
ソーシキ:そう! それでフリーで遊べる個人作家が作っているゲームに出会っていって、「あ、こいつらとは話ができるな」ってなっていったんです。
----初めて出会えたんですね。
ソーシキ:自分が田舎の地蔵みたいな、誰にも評価されないアニメーションを作ってた状況だったからシンパシーもすごく感じて。「お前、なんか勝手に作ってんじゃん! 俺も俺も!!」っていう(笑)。
自分の好きなものが認められるには、自分から歩んだ方がいいんだと思う
----それこそ違うところにいた人と実は共通点があったっていう感覚ですね。
ソーシキ:そうそう。ツイッターでも極力ゲームの話はしないようにしてたんです。今まで話が通じた試しがないから。
----どうせ悲しくなるだけだし(笑)。
ソーシキ:もういい! って(笑)。だから最初はほんとに記録のつもりでツイートしてたんですけど、そしたら友人知人が反応してくれるようになって、それで続けてたら1万リツイートとかされるようになるのが出てきて...。いっぱつ1万リツイートいくと300人くらいフォロワーふえるんですよ。
----すごい! バズりを経験したんですね(笑)。
ソーシキ:バズりを経験して、自分の話を聞いてくれる人がいるんだなあって気付けたっていう流れがありました。
----ツイッターなどでご自身の友人の告知みたいなものを結構されていますが、それもやっぱり自分の周りの、それを知らない人にも伝わる可能性があるっていう思いがあってなんですか?
ソーシキ:うん。まず僕が住みやすくなるんですよ、絶対。僕がいいと思う価値観を共有してくれる人が一人でも増えたら、僕にとって居心地が良くなるから。
----自分にとって居心地の良い世界になっていってますか?
ソーシキ:...なってます! 随分と楽になりました。好きなものを好きって言うのって勇気がいることじゃないですか。でも自分の好きなものが認められるには、自分から歩んだ方がいいんだと思います。話をすると、みんなちょっと変なんですよ(笑)。だからそういうちょっとした違いを見つけて楽しめばいいんじゃないかなって思います。
----私も博士を見てて、しがらみから解放されようと発信している姿にとても励まされています。
ゲームという底なし沼の深さを知って癒されてほしい。
----8月の生ゲーム会はどんなイベントにしたいですか?
ソーシキ:最近紹介したゲームで、ただただコンベアで運ばれる食べ物を刻むだけっていうのがあって。...きっとこの作者は「ポリゴンを刻む」っていう技術を習得したんでしょうね(笑)。もうこんなの...愛するしかないじゃないですか(笑)。もっともっとこういう、言葉を掛けるにも足らないような...もうわからないよっていうか、わからないことが面白いにすらなってないような、そんな完成度のゲームが無数に存在してるんです(笑)。そういう、言葉を失う感じをみんなで共有してみたいなって思います。ゲームという底なし沼の深さを知って癒されてほしい。
----イベントに来るお客さんに何かあれば。
ソーシキ:う〜ん、長靴でお越しください(笑)。
----わかりました(笑)。