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INTERVIEW

トップインタビュー映画『乱世備忘 僕らの雨傘運動』監督 陳梓桓(チャン・ジーウン) - 2014年香港の若者たちが未来のために立ち上がった「雨傘革命」79日間の記録

2014年香港の若者たちが未来のために立ち上がった「雨傘革命」79日間の記録

2018.07.02

 2014年はアジア各地で同時多発的に学生運動が盛り上がった。日本では2月、学生団体SASPLが特定秘密保護法に反対するデモを開始、その後、自由と民主主義を守るための緊急アクションSEALDsに発展して、安全保障関連法に反対する国会前の抗議デモを主催した。3月には台湾で「ひまわり運動」が起こり、「中台サービス貿易協定」に関する審議を与党側が立法院の委員会審議をわずか30秒で終わらせたのに抗議した学生らが、24日間にわたり立法院を占拠した。

 そして9月。香港で普通選挙の実施を求める学生たちが中環地区の行政府庁舎前に結集、その後79日間にわたり幹線道路を占拠した。警察からの催涙スプレーにデモ隊が雨傘を開いて対抗したことから「雨傘運動」と呼ばれた。デモに参加した10代から20代を中心とした学生や市民たちは、金鐘(アドミラルティ)、銅鑼湾(コーズウェイベイ)、旺角(モンコック)など繁華街の路上にテントを張り解放区を作ることで、2011年にアメリカのウォール街で起こったオキュパイ運動にも似た抗議活動を展開した。

 当時 27歳だった陳梓桓(チャン・ジーウン)監督も、デモの前線に立ちカメラを回していた。チャンはそこで出会った若者たちと行動をともにし、一人一人にじっくりと話を聞いていく。彼らはなぜここにいて、なぜ怒っているのか。普段どんな生活をし、どんな夢を持っているのか。そして彼らにとって本当の民主主義とは何なのか?

 このようにして撮られた約3カ月の記録を映画にしたのが本作だ。当時、世界中に報道された雨傘運動だが、チャン監督の映像にはテレビや新聞などのメディアには映らない非常にパーソナルな視点があり、あの運動が何だったのかを体感的に伝えてくれる。当時、監督はどのような思いでカメラを回したのだろうか?(TEXT:加藤梅造)

 

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雨傘運動の時は、出会う人がみな、どうやったら社会をよくしていけるかを真剣に話し合っていました。あの場所自体が、そういうことを考える場所になっていた


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「2014年、私はいつも現場にいました。9月27日の座り込みの時、10代の若者から年配の人までいろいろな人がその場にいたのですが、それぞれが独立した個人でありながら共通の目標を持って集まっていました。その日は多くの人が警察に連行されたのですが、そういう人達を見て、映画を撮りたいと思うようになったのです。その日から、私は一人でカメラを持って毎日現場に行きました」
 
 運動拠点の1つモンコックで、チャンはこの映画の主人公となる若者たちと出会う。大学生のレイチェル、ラッキー、仕事が終わってからデモに駆けつけてくる建築業のユウ、キリスト教徒の学生フォン、そして、授業のあと1人でデモに来た中学生のレイチェル。
 
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「私は、あそこに参加している普通の人達の物語を撮りたかった。私自身もいち参加者でした。彼らは最前線に立ち、必死になって警官たちに自分のメッセージを伝えている、その姿がとても尊いと思ったのです」
 
 テントの下で寝起きをし、そこから学校や会社へ通い、自習室ではラッキーの英語無料教室も開かれた。夜になると自然とみんなで議論をし、言い争いになると「これが民主主義だ!」と笑い合う。こんな香港を見るのは初めてだった。
 
「もともと香港人はあまり社会に関心を持たない人が多いと思っていたのですが、雨傘運動の時は、出会う人がみな、どうやったら社会をよくしていけるかを真剣に話し合っていました。あの場所自体が、そういうことを考える場所になっていた」
 
 デモ隊と警察が膠着状態となる中、10月には民主派学生の代表と行政府の幹部との異例の対話が実現したが、行政府の歩み寄りはなく物別れに終わった。強行姿勢を崩さない香港政府・中国政府によって、12月、ついにデモ隊は街から排除されてしまう。政治的には敗北ともいえる雨傘運動だが、はたして本当に失敗だったのだろうか?
 
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「それがこの映画の大きなテーマです。多くの人は雨傘運動は何も変えられなかったと言いますが、それは非常に表面的な評価です。雨傘運動に参加した人、共感した人はとてもたくさんいますが、彼らの心の中にはとても大きな変化がありました。私自身のことを言えば、この映画を上映をしていること自体が運動の延長だと思っていますし、ラッキーはいま小学校の教師になり、教育の現場で民主主義を守ろうとしています。それぞれが個人の生活の中で香港の未来を真剣に考えていると思います」
 
 映画のキャッチコピーには「It's just the beginning」と付けられている。雨傘運動では何が終わり、何が始まったのか? そして民主主義とは何か? 是非、この映画を観て、考えて欲しい。
 

 
(web Rooftop2018年7月号)

LIVE INFOライブ情報

乱世備忘 僕たちの雨傘運動

7月14日(土)よりポレポレ東中野
ほか全国順次公開
 
監督 陳梓桓(チャン・ジーウン)
編集 胡靜、陳梓桓
音楽 何子洋
制作 影意志
原題 乱世備忘(Yellowing)
配給 太秦
 
公式サイト
 
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