今の時代にロックンロールをやるということ
──「LOVE OIL」の歌詞のテーマをあえて言うならどんなことですか。
木屋:生きてることに意味があるってことをこじつけたらこうかな、っていう理論の話ですね。自分が死んだ後のことを想像すると、生きてることに意味があるとこじつけることもできるかなっていう。
──肉体と精神と霊的パワーの交歓についてブログに書かれていたことがありましたが、いわゆるスピリチュアルな世界には以前から関心があったんですか。
木屋:ここ1年くらいハマってますね。自分の内面に興味があると言うよりも人間が植物や動物と共存するサイクルと言うか、人間がいることで地球のサイクルはどうなっていくのかに関心があるんです。人間は必要があって生まれてきたはずだから、上手く生きるにはどう行動すればいいのかを考えると、地球の意志に背かないことが一番なんじゃないかとか。そんなことをいつも考えてますね。「LOVE OIL」に出てくる「石油」もその延長線上にあって、人間は石油という生物の死骸を燃やして生み出すエネルギーを利用してるじゃないですか。それが僕には面白い。
──問題提起ではないわけですね。
木屋:何かを訴えたいわけじゃなく、ただ事象を唄ってるだけです。
──カップリングとして「あの子の心臓に」をチョイスしたのは、「LOVE OIL」とは毛色の異なる曲にしようと考えたからですか。
木屋:「あの子の心臓に」のほうが早くできてたんですけど、自分では「LOVE OIL」と違うタイプの曲とは思ってないですね。両方同じような曲だと思ってます。
──「あの子の心臓に」は輪廻転生がテーマなのかなと思ったのですが。
木屋:そうですね。端的に言えばロックンロールの話なんですけどね。今の時代にロックンロールをやることを唄ってるんです。あまり解説しちゃうとアレなんで、この辺にしときますけど。
──仮に木屋さんが明日死んだとしても、木屋さんの唄うロックンロールは誰かの心臓に焼きついたまま残るぞと言うか。
木屋:ああ、そうかもしれないですね。どんな歌詞を書いたのかちょっと忘れちゃったけど(笑)。
──身も蓋もない言い方をすればツェッペリンとビートルズのハイブリッドなんだけど、不思議と整合性が取れていますよね。
木屋:昔のロックを適当につなげただけに見えるのが面白いですよね。あの曲とこの曲をくっつけりゃいいじゃんと思って作ったんだろ? みたいな(笑)。
──そこは確信犯なわけですね。
木屋:軽いギャグですよ。だけど違和感がないでしょ? っていう。ちょっとした速弾きみたいな感じですね。ギタリストが速弾きするみたいに作曲者が速作りしてみたって言うか(笑)。でもそれしかなかったんですよ。「君の中に 近付く」の後に「未だ眠れない僕たちは」をくっつけるにはあのメロディを持ってくるしかなかった。
──ロックンロールも50年以上の歴史のなかでおよその曲調は出尽くしただろうし、新しいメロディのパターンもコードの展開も限りがありますよね。さっき「今の時代にロックンロールをやること」とおっしゃいましたけど、ロックの古典のあからさまな引用と配合は今を生きるロック・バンドなりのあっかんべー!なのかなと思ったんですよね。
木屋:まぁ、ギャグなので(笑)。「あの子の心臓に」を聴いて古くさいとも思わないし、すごく新しいわけでもない。でも新鮮な感覚で聴けるとは思うんですよ。
"いい歌"かどうかがすべての基準
──今回の配信シングルに限らず、GRASAM ANIMALの音楽は一貫して「オーソドックスだけど新しい」と思うんです。メロディは既視感ならぬ既聴感があるけど似たものが見つからないし、聴き心地が良いのでそんなことはどうでもよくなると言うか。
木屋:聴き心地が良いメロディにするために試行錯誤してるんですよ。曲作りの最初はもっとガッチャガチャですからね。たとえばファースト・アルバムで言うと「風のサンバ」はサンバのリズムを使って曲を作ろうと最初に思いつつ、本物のサンバのリズムをいろいろと試しながら曲にするのがけっこう大変だったんです。
──ロックンロールのいいところはなんちゃってサンバでも通用する部分だと思うんですけど、そこは妥協しないんですね。
木屋:サンバに対する愛があるので譲れないんですよ。本物のサンバを自分たちなりに咀嚼して、その上でメロディを良くしようとすると、最終的には普通にいい曲に聴こえちゃうんです。本物のサンバのリズムをやろうと悪戦苦闘した部分が薄れちゃうんですね。僕らの音楽は聴けば聴くほどいろんな発見があると思います。あと、詞の置き方が実はヘンな感じになってたり、やたら韻を踏んでるのを自分でも最近発見しました(笑)。他のアーティストなら英語にしてやり過ごすところも、僕は一貫して日本語を乗せようとしてますし。
──日本語なのに英語みたいに聴こえるところもありますよね。「LOVE OIL」の「勇敢な方へ」は「You've Got a Hold on Me」が仮歌だったのかなとか思ったりして。
木屋:仮歌では英語でも、韻をたどって耳ざわりのいい日本語に置き換えることはありますね。英語に限らず、自分から遠い言葉を歌詞に使いたくないんですよ。いくら意味は通っていても、自分には馴染みのない言葉は英語も含めて使わないようにしてます。「LOVE OIL」の頭の「Hey」は、「ヘイ、バッチコイ!」みたいな感じで普段でも使うからOKなんです。
──それだけ深いこだわりがあるなら、曲作りに時間がかかるのは仕方ないのかもしれませんね。
木屋:こういう作り方を始めた手前、後に引けなくて、軽く曲を作れなくなったので自分でも不自由を感じてるんですけどね(笑)。
──ダンサブルな曲調をベースにしつつ、この先どんな感じの曲を作っていきたいと考えていますか。たとえば踊れながらも歌詞に深みを持たせる曲とか。
木屋:ファースト・アルバムの時にそういうのを目指してたんですよ。踊りながら泣ける曲とか。今はもうちょっと変わってきて、たとえばビートルズの「Strawberry Fields Forever」みたいに歌の表情がしっかり出た曲を作りたい。ニュアンス至上主義と言うか、それは空気感という言葉にも置き換えられると思うんですけどね。楽器それぞれの叩き方、弾き方に実は情報量がものすごく詰められているけど、それをしっかり出せてるバンドって少ないと思うんですよ。もちろん自分たちもまだちゃんと出しきれてないし、そこは頑張りたいですね。自分の歌も含めて。
──今回のシングル曲の歌はなかなかいい線をいっているように思えますけどね。
木屋:まだいけるなと思いますね。「LOVE OIL」は自分で作った曲なのに唄うのがすごく難しかったんです。リズムとメロディの高低がかなりのネックで。試しにディレクターの斉藤(匡崇)さんに唄わせてみたら、やっぱり全然唄えなかった。なんとかカラオケで唄えるようにして、みんなにもこの歌の難しさを味わってほしいですね(笑)。
──話を伺っていると、木屋さんは曲作りが最優先で歌はその次なのかなと思ったのですが。
木屋:曲作りも好きだけど、僕が一番好きなアーティストはエリス・レジーナだし、結局のところコンポーザーではなくボーカリストが好きなんですね。自分が追い求めてるのもいい歌なんだと思います。「LOVE OIL」も歌のメロディ・ラインに力があると思ったのでシングルにしたし、やっぱり歌がすべての基準なんですよね。
いいロケーションでいい音楽をやれる高揚感
──ところで、目下進めているアルバムの作業は何合目まで来ているんですか。
木屋:5、6合目ですかね。地盤(=曲)は全部完成してるんですよ。僕は地盤を作るのは得意なんですけど、その先の形成がヘタなんです。
──でも、バンドなんだから他のメンバーと協力して登頂を目指せばいいのでは?
木屋:うーん......結局は僕が作戦を練ったり、山頂までのコースを考えたりしなきゃいけないので。
──そこまで負担が大きかったり、何度も難産を経験してもバンドをやめないのはやはり生活のなかで一番楽しいことだからですか。
木屋:どうなんだろう。曲ができること自体は自分にとって幸福ですけどね。曲ができるまでの過程はほぼ苦しみしかないけど、それも山登りに近いものがあるんじゃないですかね。山頂で朝日を見て「やった!」と思う瞬間を味わうためにやってると言うか。その後に下山しなきゃいけないんだけど。
──下山のほうが膝の痛みがきつかったりしますよね。
木屋:もしかしたら今までの自分はちゃんと下山しきれてなかったのかもしれない。僕はもともと邦楽のロックを聴いて育って、コードをジャカジャカ鳴らしてどうなるかみたいな曲作りしかしてこなかったのが弱点なんですよ。高3くらいから洋邦問わずいろんな音楽を聴くようになったんですけど、もっと早くに開眼していれば曲作りのスキルも少しは上がってたのかもしれない。
──アルバム作りが山頂に到達するのはいつくらいになりそうですか。
木屋:シェルターでシングルのレコ発をやる頃には10合目まで行ってないとダメなんです。あと1ヶ月しかないんだけど(笑)。
──その次なるアルバムはどんな感じになりそうですか。
木屋:意外とダークな面が出るかもしれません。パソコンの同期を使ってるので、音の印象は前とは違うと思います。これまでの膨らんだサウンドよりもちょっとタイトになってると言うか。何より、ロックを感じるアルバムになるんじゃないかなと。今回の「LOVE OIL」と「あの子の心臓に」が道標になってると思います。あと、自分はブラジル音楽を愛しているので、その方面の新しいところへ行けた曲もありますね。
──楽しみですね。バンドの当面の目標はありますか。
木屋:いつか野音でライブをやりたいんですよ。そういうロケーションで攻めてますね。なぜバンドをやっているのかと言えば、自分がいい景色を見たいからだと思うんです。いいロケーションでいい音楽をやる楽しみや高揚感を味わうためにバンドを続けてるのかなと。それに、高揚してる人、笑顔になってる人を見ると純粋に嬉しくなりますよね。
──フロアのお客さんがみな笑顔でいるのはいい景色でしょうし、ライブで人を笑顔にするのは選ばれた人にしかできないことですよね。
木屋:ちょっと嘘くさいかもしれないけど、人を笑顔にしたいですね。それはホントに思います。いいライブをして爆笑されたい。僕自身もいいライブを見ると笑っちゃうことが多いので。今度のシェルターのレコ発もみんなの笑顔が絶えないライブにしたいし、いい景色を見たいですね。