「オーソドックスだけど新しい」。GRASAM ANIMAL《グラサンアニマル》の音楽を端的に言えばつまりそういうことだと思う。ブラジル音楽やファンクの要素を取り入れながら独自に解釈したサマーソングが耳の肥えたリスナーや眼識のあるライブハウスからすでに熱烈な支持を得ていた彼らが新興レーベル「EIGHT BEATER」(ピンときたあなた、同志ですね)からファースト・アルバム『ANIMAL PYRAMID』を発表してから早1年、配信限定シングル『LOVE OIL c/w あの子の心臓に』をリリースする。パンクもオルタナティヴもダンスもファンクもサーフもブラジリアンも一緒くたに呑み込んでグラサン流にチャンプルーすれば、辿り着くのは極上のポップ・ミュージック。弱冠20歳のYOUNG SOULならではの才気煥発は徒手空拳でデタラメなエネルギーに溢れているがゆえに美しい。グラサンが放つ新世代型ロックンロールの奥深い魅力について、バンドの枢軸を担う木屋和人(vo, g)に聞いた。(interview:椎名宗之)
二重人格が入れ替わりながら作曲をしている
──『ANIMAL PYRAMID』を発表して1年が経過して、バンドを取り巻く環境は変わってきましたか。
木屋:アルバムの反応としては今もたまに「聴いてるよ」という声を受けることがあるし、バンドの空気も変わった気がします。でも何か劇的に変わったことがあったわけではないですね。まだそこまで人気もないので。
──バンドが認知されてきた手応えは?
木屋:ないです。僕が知らないだけかもしれないけど。ファースト・アルバムを作り上げて楽しかったという意味での満足感、アルバムを作る舞台に立てた喜びはありましたけどね。ちょっと特殊な場所でアルバムを録音したのもあったんですけど。
──トレーラー映像に出てくる合宿所みたいな所ですか。
木屋:そうです。山梨の山の中にあるピラミッドセンターという瞑想施設で。予定がズレてリズム隊の音しか録れなかったんですけど、そこで録った音が印象的だったんです。
──もしかして、ピラミッドセンターで録ったから『ANIMAL PYRAMID』と命名したんですか。
木屋:はい(笑)。上條(雄次)さんというエンジニアの方といろいろ話し合いながら一緒に音を作っていくなかで筋道がどんどん見えてきたのが面白かったし、技術的に足りない部分もちゃんと理解できたのが良かったです。
──"ビーチパンク"と命名していた「俺たちに夏はない」のように粗野で性急なビートを強調した曲も以前はありましたけど、『ANIMAL PYRAMID』ではその手の曲が鳴りを潜めた感がありますね。強いて挙げればギターがジャキジャキ鳴りまくる「POCARI SWEAT」くらいで。
木屋:自分には二重人格みたいなところがあるんです。感性で動きたいところもあるし、数学の応用問題を解くように理論的に解読したいところもある。それが入れ替わりながら作曲してるんです。だからふと明るい気持ちになって夏っぽい曲を書いたのに、その後に冷めた気分になって「もうちょっとしっかりやろう」と思ったりするんです。「俺たちに夏はない」は自分でもたまに聴き直したりするくらい好きな曲なんですけど、けっこう気分が移ろいやすくて。
──『ANIMAL PYRAMID』の制作中はオルタナティヴに寄せるよりもダンサブルな曲を作りたいモードだったんですか。
木屋:基本的にはずっとダンサブル・モードなんですけどね。ファンクが好きなのが土台にあるし、自分たちの曲は全部ダンス・ミュージックだという気持ちがあるので。以前出したEP(『Surf Ride Monster』)もファースト・アルバムも、ダンス・ミュージックは一貫したテーマです。
──EPにもファースト・アルバムにも収録されていた「Sir, Fried Monster」のように無条件で踊れる曲がGRASAM ANIMALの特性を端的に物語っていると思うのですが、今回の配信限定シングル「LOVE OIL」はその路線ともまた違う感じで攻めてきましたね。
木屋:ああ。どう思いました?
──序盤は歌とベースを軸とした抑制の効いた感じだけど、サビで一気に突き抜けるような広がりを持たせる展開で、すごくキャッチーな曲だなと。数あるストックのなかから「LOVE OIL」を選んだんですか。
木屋:そうですね。「LOVE OIL」は最初の唄いだしの部分が前からあったんですけど、その後がなかなか作れなかったんですよ。でもその唄いだしの部分がすごく気に入ってたし、この曲をシングルにしようとずっと決めてたんです。けっこう時間がかかっちゃったんですけどね。
「死」や「老い」の妄想から生まれた新曲
──そもそもこのタイミングでシングルを切ろうと考えたのはどんな理由からですか。
木屋:次のアルバムを作ってるのもあるし、大人の事情もありますね(笑)。いや、子どもの事情なのかな。とにかく僕が曲を作れなかったんですよ。
──1ヶ月のあいだバンド関係のこと以外で外出はせず曲作りに励んだにもかかわらず、1曲も作れなかったとブログでも書かれていましたね。
木屋:いつも難産なんです。「曲ができない!」と1年中言ってるし、「今月は2曲できるから」とメンバーに言っても結局はできないことがよくあるので。それでワングルーヴとかジャブみたいな曲の断片を送って騙し騙しやってる感じですね(笑)。「LOVE OIL」はジャブを出してからストレートを出すまでに半年くらいかかったんですよ。ずっと作り続けてはいたんだけど、なかなかしっくりこなくて。
──なぜそこまで時間がかかるのでしょう?
木屋:作りたい曲に対する知識量が少なすぎるし、作曲のスキルが足りないんでしょうね。最初は自分の好きなように作ってみるんですけど、その後の続きが技術不足で出てこない。今もずっとそんな感じなんです。
──それにしても、「油田」という歌詞が出てくるロックンロールはこの「LOVE OIL」が初めてじゃないかと思うのですが(笑)。
木屋:「油田」は自分でも天才じゃないかと思いました。「いつか死んだ僕らの愛は石油となってこの世界を回そうとしてる」という歌詞が最初から浮かんでたんですよ。その回収として「油田」という言葉が出てきただけなんですけどね。
──「石油」に着目するところもユニークですよね。
木屋:動物の死骸が石油になるじゃないですか。そのイメージがけっこう好きで、歌詞に使いたかったんです。
──死骸ですか。さすが「自分が入るお墓の写真をたまに見ると落ち着きます」とブログに書くだけのことはありますね(笑)。最初に歌詞を読まずに「LOVE OIL」を聴いた時、「僕の死は全世界を貫くだろう」の「死」が「詩」だと思ったんですよ。「lyric」ではなく「death」だったのが意外で。ずいぶんと不吉な歌詞ですよね。
木屋:なんて言うか、よく死んだ後の妄想とかするじゃないですか。
── .........そういうものですか?(笑)
木屋:あと、自分が年老いた時のことを想像したりするんですよ。ここ3年くらい「死」や「老い」について妄想をよくしてるんです。
──弱冠22歳だというのに(笑)。
木屋:僕は細野晴臣さんやタモリさんが好きで、自分の好きな人がみんなおじいちゃんばかりだから自分も早くおじいちゃんになりたいのかもしれません。
──そういえばカップリングの「あの子の心臓に」でも、白髪姿の「僕」と「君」を歌詞に登場させていますね。「LOVE OIL」も「あの子の心臓に」も自分の老い先、遠い未来のことをテーマにしているのが共通していると言うか。
木屋:まぁ、好きなんでしょうね。そうやって想像するのが。
──サウンドメイクも実はかなり凝ったことをしていると思うのですが、音作りは割と細かい部分までメンバーに指示しているのですか。
木屋:一応デモはちゃんと作って送るんですけど、完璧にコピーしてもらっても結局は変わっちゃうので。それをスタジオでどうしていくか、みんなで調整するんですけどね。音のことで言うと、「LOVE OIL」の頭の抑制する感じは本来のロックを目指してみたんです。60年代のロックのアンサンブルって、いま聴くとけっこう無音が多いんですよ。高音が切れてる代わりに歌がしっかり伸びていたりとか。それを自分たちなりにやろうとしたので大変だったんです。