Rooftop ルーフトップ

INTERVIEW

トップインタビュー博史池畠(アニメーション監督)(Rooftop2018年6月号)

TVアニメ『宇宙戦艦ティラミス』
ギャグっぽい演出にはしないで欲しいと言われました

2018.06.01

 Web漫画サイト「くらげバンチ」にて好評連載中の『宇宙戦艦ティラミス』。一見して王道SFでありながら本編は日常ギャグ。宇宙戦争の真っただ中の宇宙戦艦では、男性なら誰しも覚えのあるアクシデントが。思春期トラウマの古傷に触れる展開は、直視できないながらも目が離せない不思議で新しい作品。この異色作をどのように映像化したのか監督の博史池畠さんにお話を伺いました。[interview:柏木 聡(Asagaya/Loft A)]

実体験を元にしたネタ

 

——最初に TVアニメ『宇宙戦艦ティラミス』(以下、ティラミス)の監督を受けた経緯を伺えますか。

池畠:プロデューサーの土井(千鶴)さんが、連載当初からのファンだったそうで。土井さんとは何度かご一緒させていただいたので、ギャグ作品なら僕にということでお声がけくださいました。同時期に1年ものの監督もあるので、悩んだのですが原作が面白いからやろうと。

——確かに、ティラミスは絵柄や舞台は王道SFなんですけど、やっていることは日常ギャグなので池畠ワールドにマッチした作品ですよね。ショートでもきっちり原作のテイストを汲んで作られているので流石だなと感じました。

池畠:ありがとうございます。シナリオ打ち合わせには宮川(サトシ)先生にも入っていただいて助けてもらっています。特に重要な話数の時には必ず来ていただいてます。作中に宮川先生の中での押しギャグがあるそうで、そこは押さえて進めています。

——そういうのがあるんですね(笑)。原作のネタは、宮川先生の実体験も入っているのですか。

池畠:そうですね。野球選手の慰問は宮川先生の実体験だそうで、他にも実体験を元にしたネタも多いみたいですよ。

——男の思春期の恥ずかしさフォーマットてんこ盛りですからね。

池畠:読んでいて感じる生ナマしさはそういうことが影響しているんだと思います。その点はシナリオの佐藤(裕)さんも汲んでくれています。

——30代・40代くらいになると、そんなこともあったなと笑い話にできる感じですよね。

池畠:女性スタッフからは、女の子側の体験をしたことがあるとも言われました(笑)。

——(笑)。女性はそういうことをやっている男の子を見て、「あ〜あ…」となると。

池畠:プロデューサーの土井さんからは、そういうバカなスバルやイスズが女性目線では可愛く見えるんですよといわれました。

——深い。

池畠:女性目線の意見もいただき、作品を盛り上げてもらってます。

——宮川先生は作品のイメージ通りの方ですが、伊藤(亰)先生はどういった方なんですか。

池畠:宮川先生は僕とほぼ同じ年なんですが、伊藤先生は年下なので、原作では若い方の目線でマニアックになりすぎないように、作品のバランスを取っていらっしゃる感じです。アニメでも、もちろんその視点を拾っていっています。

——確かにマニアックになりすぎてしまうと、作品の良さが消えてしまいますからね。宇宙戦争の話ですが誰も戦死していませんし。

池畠:そこは原作でのこだわりの一つだとおっしゃられていました。

——他にも映像化に際して、原作の宮川先生や作画の伊藤先生からリクエストはありましたか。

池畠:ギャグっぽい演出にはしないで欲しいと言われました。外から見るとギャグですけど、本人たちは生真面目に本気で取り組んでいるようにしてほしいと。

——そうですね、それがないと原作のもつ面白さがなくなってしまいますね。

池畠:そのさじ加減が難しいんです。原作だと汗ひとつかかずにセリフを言っているカットも、アニメになると汗が欲しいなと思うことがあって。汗関係は難しいところですね。

——そこは漫画だと書き文字やコマ割りでカバーできる部分ですから、確かに映像ならではの制約ですね。原作のイメージをそのまま映像化されていたので、もっとスムーズに制作されているんだと思っていました。

池畠:そう言っていただけるのは嬉しいです。


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シリアスな芝居ができる方にやっていただきたかった

 

——演出はもちろんですが、キャストのみなさんの演技も素晴らしいです。すごく豪華なみなさんで、毎話たのしみです。

池畠:演技が良くないと説得力の出ない作品なので、気を使っています。

——スバル・イチノセ役の石川(界人)さんが、こんなにギャグができるんだなと驚きました。石川さんは、「毎回テンションを維持するのが大変」とおっしゃられていますね。

池畠:シリアスな芝居ができる方にやっていただきたかったので、そこは間違いなかったです。スバルは一人語りになるシーンも多いですから、テンションを保つのは大変かもしてないですね。

——現場ではどのように演技指導をされているのですか。

池畠:石川さんに限らずですが、「ココは真面目にやってください」とお願いすることが意外と多いです。ただ、キャラによってはシーンによってギャグ化するキャラもいるので、整合性をとりつつ演出するように気をつけています。

——キャストで言うと、陰毛役が中田(譲治)さんというのがまた(笑)。

池畠:この役は中田さんじゃないと、ということでお願いしました。実は、宮川先生は妖精のようなマスコットキャラで考えられていたそうで、可愛い声を想像してたそうなんです。ただ、スタッフ側は中田さんしかいないだろうと考えていたので提案したところ、宮川先生に、「いいですね」と快諾してもらえました。中田さんはいつも全力で演技をしていただける方なので、この陰毛役についても真剣に聞きに来てくださってます(笑)。

——素晴らしい(笑)。

池畠:ただ、 陰毛の妻役を能登(麻美子)さんにお願いするときは、かなり悩みました。

——男性だとネタや武勇伝になりますけど、女性だと難しいですね。

池畠:「クレジットは“妻”だけにしましょうか」と伺ったんですけど、能登さんは「 “陰毛の妻”で大丈夫です」とおっしゃってくださって、ホッとしました。

——さすが能登さん。

池畠:アフレコも面白かったです。


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今までになかった作品

 

——演技も含めてテンポが素晴らしいですよね。視聴者がツッコミになる作品なので、その掛け合いができる間があるのは流石だなと見ていて感じました。

池畠:実は、いわゆるギャグアニメのテンポよりは、若干ゆっくりにしています。

——そうなんですか。

池畠:自分のギャグアニメの間でやると、もっと高速なテンポになるんですけどね。もちろん畳み掛けるところはポンポン行くんですけど。セリフの間は普通のアニメの間に近いです。

――そこが、ツッコミつつ見られる間になっているんですね。

池畠:編集の廣瀬(清志)さんがとても優秀な方なので、ちょうど良いテンポで切ってもらっています。

——ティラミスはキャラも多く、情報量が意外と多い作品ですから、あまり早過ぎると視聴者がついていけなくなってしまうのかもしれませんね。パロディーも多いですし。第1話冒頭の作品解説ロールも『スター・ウォーズ』オマージュですし。

池畠:映像にすることも考えていたんですけど、シリアスな部分の説明に時間を取られても、この作品の世界観に合わないですし、テンポも悪くなるので文字での解説にしました。壮大な世界観でみみっちいことをやっているのが面白い作品なので、単行本の序文から拝借しました。

——SFオマージュとしても正解ですよ。

池畠:ティラミスは、今までになかった作品ですよね。SFパロディーではなくSF舞台の舞台で、ギャグで笑わせに来るのはなかったなと。

——たしかにそういう意味でも裏切る作品ですね。

池畠:やっていることは日常ですからね。SFに対しての尊敬はもちろんあるけど、崇拝とまではいかず、そこが馴染みのない方にも受け入れていただきやすい作品になっていますよね。

——そうですね。だから女性ファンもついているのかもしれないですね。真面目さがギャグになるというのは、ギャグ作品としても多くの方に響く形ですから。そうはいってもOPはギャグであることを隠さないですよね、第1話から流れていますし。

池畠:1話はOPをやらないという手もあったんですけど、1話でOPがないというのは不穏な状況を想像させてしまうこともあり(笑)。

——「制作大丈夫?」ってことですか(笑)。理由があるなら、大丈夫ですよ。

池畠:シリアスパートを長く取りたくなかったんです。早めにギャグに入って、視聴者のかたにギャグ作品だというのをわかって欲しかったんです。それに2話以降でバレてしまうので、フォーマットを変えてしまうのもどうかなというのもあります。

——確かに作品のテンポが変わってきますよね。それにしてもあの曲はよく作ったなと思いました。

池畠:あの曲は、本当はもっと長いんです。EDの曲もそうで。

——そうなんですか。ショート用に作った曲だと思っていました。

池畠:映像の尺に合うように切り取ったんです。

——EDもすごい耳に残る曲です。

池畠:EDは15秒しかないので、強制終了の感じを出したかったんです。こちらもぜひ聞いていただきたいです。

——作品としても、終盤に向けてこれからさらなる盛り上がりが出てくることになるので楽しみです。

池畠:みなさんに応援をして頂ければ、さらなる盛り上がりに向けて動き出せるかもしれないので、よろしくお願いします。アニメでは原作よりスバルとイスズの関係性を出すことで、さらにキャラクターに愛を持てるようにと意識していて、宮川先生に監修をしていただいて、幼少期の話を原作より多めに出しています。パッケージ特典の未放送話数では、女性スタッフにも案を出してもらいながらのサービス回もあるので、そちらも楽しみしてください。

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©宮川サトシ 伊藤亰・新潮社/「宇宙戦艦ティラミス」製作委員会

 

 

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収録時間:本編/約42分、特典映像/約14分

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LIVE INFOライブ情報

TVアニメ『宇宙戦艦ティラミス』

原作:宮川サトシ 伊藤亰(新潮社「くらげバンチ」連載)

監督:博史池畠

シリーズ構成:佐藤裕  キャラクターデザイン:横山愛

アニメーション制作:GONZO

CAST

スバル・イチノセ:石川界人

イスズ・イチノセ:櫻井孝宏 ほか

TOKYO MXほかにて好評放送中

 

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