近年のMCバトルブームの火付け役とも言える番組『フリースタイルダンジョン』。その審査員を務めるERONE(韻踏合組合)とKEN THE 390が、ロフトプラスワンウエストにて、『ラップバトル必勝講座!』と題したトークイベントを開催する。
出演者それぞれが選ぶ『フリースタイルダンジョン』の名バトルを振り返りながら、審査のポイントや放送では言えなかった胸の内を語るという、全ヘッズ必見のこのイベント。
今回のRooftopでは、そんなイベントのプロローグとも言える内容になったERONEのインタビューをお届けする。[interview:松井良太/text:平松克規(Loft PlusOne West)]
ダンジョンの審査員への抜擢とKEN THE 390について
―本日はよろしくお願いします。まずどうして、ERONEさんは、『フリースタイルダンジョン』の審査員に抜擢されたんでしょうか?
ERONE:まず他の審査員はジブ(Zeebra)さんと番組側が決めたんですよ。ヒップホップの世界であのポジションにいる、いとうせいこうさん。女性の目線を持ってるLiLyちゃん。MCバトルのチャンピオンの晋平太。解説もできて、発信力のあるKEN THE 390。ただ、僕に関して言えば、R-指定が「ERONEさんが、良いんじゃないですか?」って進言してくれたんです。それをジブさんが採用して、僕は審査員になったんです。だから、R-指定にもらった仕事なんですよ(笑)。
―へえー。なんでR-指定さんはERONEさんを推したんだと思いますか?
ERONE:僕はMCバトルを経験してるし、「ENTER MC BATTLE(韻踏合組合主催の関西最大級のMCバトルイベント)」を主催してたりするから、自分のバトルも他人のバトルも、俯瞰的に見れてるんです。R-指定は、それがちゃんと分かってたんじゃないですかね。KEN(THE 390)が審査員に選ばれたのにも、同じような理由があると思いますよ。
―KEN THE 390さんは、『ラップバトル必勝講座』にも出演されますが、その出会いはどんなものだったんでしょうか?
ERONE:KENはもともと「ダメレコ」っていうダースレイダーの軍団にいたんで、名前は知ってたんですよ。それで初めて会ったのは「3 on 3」っていうダースレイダーがやってる3対3のMCバトルですね。僕は韻踏合組合の3人で出場したんですけど、KENにめちゃくちゃ早口で言いまくられて、負けたんですよ。その後、「ENTER MC BATTLE」でオレが返したりとかで、バトルは全部で3回くらいやってるかな。それから「超・ライブへの道(KEN THE 390の主催イベント)」に、オレをソロで呼んでくれたりするようになりましたね。
―バトル以外でのKENさんは、どんな印象ですか?
ERONE:今はシュッとしてますけど、昔のKENのPV見たら結構な田舎もんですよね(笑)。シャツのサイズが合ってなかったり、髪の毛の後ろがビーン! って出てたり。あとKENは、「お前なんてヒップホップじゃない」って、昔はスゲえ言われてましたよね。まぁ、それって、ラップのスタイルじゃなくて、顔がヒップホップぽくないってことが、理由の1つなんでしょうけど。
―今やそれが成り立ってますよね。
ERONE:そうですよね。アイツは曲をちゃんと作ってるし、「DREAM BOY」っていう自分のレーベルを立ち上げて、主催のイベントもしてる。それに若手の育成も怠らない。もうメチャクチャ、ちゃんとやってるんですよ。だから仕事もたくさん来てると思うしね。
今こそヒップホップが注目されるチャンス
―『フリースタイルダンジョン』の審査員って、どういうことを考えながらされてるんですか?
ERONE:最初は審査員やから、「そんなに細かく解説する必要あるんかな?」って思ってたんですよ。でもテレビ見てる人は、「ここはこれだから、こっちに上げた」って説明しないと全く分からないんですよね。だからちゃんと解説するようになりました。でも僕、最初は簡単にメモってるだけやったんで、コメント振られても何を言っていいのか全然分からなかったんですよ(笑)。その点、KENは「ここは、こう言おう」ってとこまで決めてて、「コイツ、賢い!」って思いましたね。それに、KENの解説のエラいところは、ちゃんと負けた方の解説をしてあげるんですよ。僕もKENに言われてから、そこを意識するようになりましたから(笑)。
―(笑)。でも僕、気持ち良いですけどね。ERONEさんの解説。
ERONE:僕の解説だけ、ストリート目線があるかな。T-Pablowと晋平太の対戦も、T-Pablowは殴りかかりそうやったけど、オレはT-Pablowの勝ちにしたりとか。
―そこはちゃんとフォローしたいって気持ちはあるんですね。
ERONE:そうそうそう。でもね、僕もずっとやってるから、モンスターとも知り合いやし、挑戦者にも知ってる子がおるから肩入れしそうになるんです。そこは心を鬼にしてるんですけど、考えすぎて「あれ? 逆になってない?」って思ったりすることもあるから。すげえ、悩みますね。
―それでも、晋平太さんの審査は、キャリアも全部知ってるから、大変だったでしょうね。
ERONE:大変でしたね。あれは俺も泣きながら判定してましたから。あの日はね、挑戦者もモンスターもカッコ良すぎたんですよ。みんなそれに感動して泣いてるのと、晋平太のライムがあまりに綺麗に決まったりとか。お客さんは知らなかったんですけど、あの日で初代モンスターが引退するのは決まってたんです。それで最後のチャレンジャーが晋平太で、それに敗れるというドラマがね。
―晋平太さんが最後のチャレンジャーになったのは、偶然ですか?
ERONE:いや、違いますね。番組終わった後に、次の方向性とかを決める会議があるんですけど、僕もいろいろ口出ししてるんです。初代モンスターが引退することはもう決まってたんで、俺が「じゃあ最後に晋平太をぶつけよう」って言ったんですよ。
―へぇー。ダンジョンは裏でガッチリ、構成なんかもスクラム組んでやってるんですね。
ERONE:『フリースタイルダンジョン』の面白い所は、オレもいるし、KENもいるし、せいこうさんもいるし、般若もいる。それまではそれぞれの城があって、微妙に壁があったんですけど、そこが重なりあってるんですよ。
―昔やったら、そういうのを「B-BOY PARK」とかのイベントでやってたのが、今やテレビでできてるんですよね。スゴいなぁ。
ERONE:そうですよね。蚊帳の外の人たちから見たら、面白くないところはあるんでしょうけど、やってるオレらからしたら、遠かった人が近くなったし良いなと。『ダンジョン』って、ヒップホップがもっと注目されるチャンスなんですよ。でも、バトルしない人はどうしてもネガティブな発言をしてしまうんで、もったいないなと思いますね。別に思っててもいいんですけど、SNSとかで言わんでええやん。井戸端会議で言っとけよって。今はみんなCMやったり、舞台やったりとか、ええとこまで来てるんでね。ヒップホップってユースカルチャーな音楽だと思うんです。だから若い子の間で流行って欲しい。じゃないと廃れるじゃないですか? だから今は全然、良い流れだと思うんですけどね。この前、T-Pablowとも飲んでた時に、「お前らが売れることは、オレらのメシに繋がる。だから妬みとかは一切ないから、じゃんじゃん売れてくれ!」って言ったんです。お前らが売れれば売れるほど、シーンが回って、オレらにもお金が入って来るようになるからって。
―ほんと、このバトルの火を絶やさんといて欲しいですよ。
ERONE:ほんとね。もちろん、『フリースタイルダンジョン』は、ヒップホップの一側面でしかないんでね。ここから楽曲にも注目して欲しい。シーンが定着するのは、あとは曲だと思うんですよ。ヒット曲が何曲か出てくれば。変わっていくはずなんで。
名バトルを生コメンタリーする贅沢な一夜!
―そうですよね。今回のイベントは進行役をザ・プラン9のヤナギブソンさんに務めていただくので、間口の広いイベントになってると思うんです。ここからヒップホップの楽曲に引き込んでいきたいんですよね。
ERONE:すげえ面白くなりそうなんですけどね。
―お笑いとヒップホップの相性、僕はすごく良いと思ってるんです。ギブソンさんも、最近ヒップホップがスゴい好きみたいで。
ERONE:らしいですね。この前、テレビ番組で「うぇいよー!」って言って、ラップしてて。「ヤバい! 『うぇいよー!』って言ってる!」ってつぶやいたら、本人から「40歳超えてから、ラップに目覚めました!」って連絡が来て、DMでやりとりさせていただいたんです。「なんかできるんちゃうか?」って思ってた矢先のこのイベントでしたから。
―ギブソンさん、娘さんにBUDDHA BRAND『人間発電所』とか聴かせてはるんですよ。結構バトルから掘り下げてる人みたいで……。
ERONE:えー、すごいな。僕もともとプラン9が、すごい好きなんですよ。でも芸人さんがラップに食いついてるのが、スゴい不思議なんですよね。中川家の剛さんとか、笑い飯の西田さんとかも、『NEWS RAP JAPAN』を見てくれてるみたいですし。だから芸人さんから見たMCバトルの凄さとか、ギブソンさんに訊いてみたいですね。
―ギブソンさんも出るんで、広くアプローチできたら良いですよね。イベントとしては、出演者の3人に『フリースタイルダンジョン』の好きなバトルをピックアップしてもらって、その場で実際の映像を流して、解説してもらおうと思うんです。フローの話とか、ここでこの音を6発入れたとか、そういう話をたっぷり聞きたいです。
ERONE:そうですね。テレビで放送されてるダンジョンの審査員の解説って、ほんの一部ですからね。本当は1分、2分は喋ってますから。あとテレビで解説する必要のない、もっと深い部分。例えば、バトル中のMCの顔が一番良かったりするんですよ。「これ言われた!」って顔とか、言い返すこと決まってんなって顔とか。あと判定前の顔もめちゃくちゃ面白いんです。「これ負けたな」って分かってるけど、客を煽るヤツとか。そういうことも喋れたらなと。
―ほんまに楽しみです。では、最後にイベントに来ようか迷っている読者の方に、メッセージをお願いします。
ERONE:MCバトルを好きなお客さんは、より深い側面を知れる機会ですし、お笑いが好きでMCバトルに興味があるって子が来ても、面白い部分がどこにあるのかってことを伝えるので、楽しめると思いますよ。ぜひ、来て欲しいです。