自分が国になってメンバーを保護している
──スペインは以前もライブの招聘がありましたが、今年もまた行くんですよね?
真鍋:今年も2回行くね。スペインは意外と60年代ノリのバンドが多くて、好きな人も日本より全然多い。そういう音楽に特化したフェスも多いし、ガレージとかパンクとかに優しい土壌なんだよね。アメリカやイギリスのパンク系のレジェンドな人たちもよくライブをやってるし、そういうバンドは必ずスペイン・ツアーを入れてる。基本はみんなレコードを聴いててCDは聴かない。デジタルかアナログの両極端なんだよね。
──絶滅危惧種のロックンロールが日本でいよいよ立ち行かなくなったらスペインへ移住するしかないですね(笑)。
真鍋:だから最近はちょくちょくスペインの物件を探してる。スペインの不動産で値段を見たりとかして(笑)。まぁ、国の特色もあるのかな。ヨーロッパのバンドは全般的にいい雰囲気で音楽をやってるよね。ローカル・バンドとかクラブで演奏してるバンドでも基本的に生活していけるシステムがちゃんと成立してるし。このあいだフランスのバンドと話をしてたら、「ニートビーツはワールドワイドで活動しててすごくいいな」と言われてね。「でも俺たち普段はバンド以外に仕事してるよ」と言ったらすごい驚かれて。というのも、フランスは年間48本、月に4本のライブを1年やり続けている証明ができれば、政府が月に15万円くれるんだって。年に48本でOKなら、ニートビーツは月に40万円くらいもらえるんじゃない?(笑)
──フランスには文化をしっかりと保護する仕組みがあるわけですね。
真鍋:うん。アートや音楽をやってる人は証明できさえすれば国が手厚く保護してくれる。そういう証明する機関もちゃんとあるらしくて。だからみんなバンドで生活していける。フランスとしては将来的に偉大な芸術家を生み出したいから、その育成としてお金が出るみたいね。
──ニートビーツがすごいのは、国の保護を受けなくても20年以上スリーコードのロックンロールをやり続けていることだと思うのですが。
真鍋:もうね、自分が国やと思ってるから(笑)。俺が国になってメンバーを保護してる(笑)。でもそういう感覚はあるかなぁ。自分の好きな音楽、やってるバンドを自分の領土として持っとくべきかなと。そのなかで誰が何と言おうが、どういう流行りがあろうが、これがうちの国のスタイルです、みたいな。そんなふうにやってるほうが長続きする気がする。
──今回のアルバムもそういう作品ですもんね。何かに媚びることなく、純粋に好きなことだけしかやっていないし。
真鍋:いまは円熟味を増せる時期というかね。今回のアルバムを出したからもう当分出さないとかもないし、次のアルバムを来年出そうかってことになれば普通にやれるし。
──ニートビーツがアナログ盤にこだわるのはメンバー4人分のレコードがまずほしいからというエピソードがすごく好きなんですけど、それも本当にピュアな気持ちでロックンロールと向き合っていることの表れですよね。
真鍋:レコードのプレスは4枚でもいいんだよね。逆に10枚しかプレスせんと、1枚=50万円くらいで売るのもいいかな(笑)。50年後くらいの音楽雑誌のレビューで「正規の10枚プレス」とか載るかもわからへん(笑)。…あ、あとね、もうひとつやっておきたいことを思い出した。ビートルズのブッチャー・カバー。
──ビートルズの『“YESTERDAY” ...AND TODAY』というアメリカの編集盤で、メンバー4人が肉屋(ブッチャー)の格好をして赤ん坊の人形や肉の塊を抱えたグロテスクな写真がジャケットに使われた作品ですね。あまりの非難にすぐ回収されて、ジャケットが差し替えられたという。
真鍋:そう、それで高値のアイテムになってるやつ。俺たちも一度出荷したアルバムをわざわざ回収して、上からジャケットを貼り替えたい(笑)。このセンスをどこまでわかってくれるかな? みたいなね。まぁレコード屋さんからしたらいい迷惑やし、いまやったら「これ不良品ですよ?」って言われて終わりかもしれんけど(笑)。あとロカビリーのレア盤で、トラックの輸送中の事故でレコードが燃えちゃって希少盤になったのがあってね。それを真似て、プレスしたレコードを一度燃やしてみるとか(笑)。
──意図的に消失させると(笑)。
真鍋:そういう逸話がその作品の価値を高めたりするし、そんな作品のつくり方をこれからもしたいと思ってる。そこまで徹底してやったほうが達成感があるもんね。「これで一個ToDoリストが消えた!」みたいな。ToDoリストはどんどん増えていく一方やから、一個ずつ確実に消していきたい。まぁ、お金も手間もかかるよね。それこそ国に保護してもらわんと(笑)。