原曲のミスまで忠実にカバー
──たとえば岩川さんの場合はマックショウ以外にコルツもあるし、ソロワークスをやってみたりと息抜きできるところがあるけど、真鍋さんは基本的にニートビーツ一本じゃないですか。それで煮詰まったりすることはないのかなと思って。
真鍋:ニートビーツっていうバンドは自分の好きな音楽スタイルをそのままプレイしてるだけで、基本的には好きなレコードを聴いてるのと一緒なんだよね。だから特にプレイ感がないし、作業としては聴いてるのに近いっていうか。曲づくりに悩んだときは曲づくり自体をやめちゃうから煮詰まることもないしね。悩むくらいだから自分の好きな曲じゃないんだなと思うし、好きな曲なら最後までつくれるから。あと、カバーを入れてるのが自分たちにとっては息抜きと言えば息抜きなのかな。カバーをやる楽しさは常にあるからね。
──どんなところが楽しいポイントなんですか。
真鍋:当時の音源は楽譜がないから耳コピするでしょ? そうするとだいたいどこかで間違えてる。明らかにギターとベースのコードが違うとか、リズムがズレてるとかね。それを元に戻すか、そのままやるかの議論をするわけ(笑)。原曲に忠実にしたら間違えたままやけど、それを正すかどうかすごく悩む。どこまで再現するか議論するのは、オリジナルをつくるときよりも時間が長いね(笑)。
──どちらに転ぶことが多いんですか。修正するのか、忠実にカバーするのか。
真鍋:最近は忠実派やね。なぜかと言うと、そのほうが面白いから。そういう間違えまで忠実にカバーしてるのがわかる人を見つけたいし(笑)。聴く人によっては「間違えてるやん!」と思う人もいるかもしれないけど、いやいや、オリジナルがそこを間違えてるんで、っていう。
──ニートビーツのそうした忠実な再現は楽曲だけにとどまらず、先だってはビートルズが1964年のワシントン・コロシアム公演で使った回転円形ドラム台まで再現して360度のパノラマ・ライブを敢行していましたね。
真鍋:死ぬまでにやりたいことのリストをつくって、それをひとつずつ消していきたくてね。回転ドラムもずっとやりたかったことのひとつで、あのライブのためだけに工務店に発注したんだよね。
──ワシントン・コロシアムは競技施設だったので中央のリングをステージにして、ときどき四方に向きを変えて演奏しなくてはいけなかったわけですけど、そういう事情を知らない人はなんのこっちゃい!? という話ですよね。
真鍋:みんな意味がわかってなかったやろね。ドラム台が回ることがなんでそんなにすごいんですか? っていうお客さんも最初はけっこういたけど、実際にライブをやったらメンバーの後ろ姿を見れたことに感動したって人がいたね。ドラムが回って俺らが向きを変えて演奏してるのを見て感激したって人がけっこういた。
──ToDoリストの項目には他にどんなことが記されているんですか。
真鍋:次はビートルズの1966年の武道館ライブを再現したいね。スタンドだけにしか人を入れなくて、ものすごくでかいステージをつくりたい。自分の身長くらいのとこにドラム台があるみたいな。で、前座にドリフターズみたいなバンドを呼ぶ。それをマックショウにパロディっぽくやってほしい(笑)。
──前座の持ち時間のほうが長くて、本編はわずか30分みたいな(笑)。
真鍋:そこまで再現したいね。あとは50年代、60年代のルーツ・ミュージックをちゃんとやってる人らが出れるフェスというか、60年代の『ニューミュージカル・エキスプレス』のフェス(『NME ポール・ウィナーズ・コンサート』)みたいなのをやりたいとずっと思ってる。まぁ、そういうバンドはいまや数が少ないから成立させるのが難しいかもわからんけど、すごくやりたい。
──チャック・ベリーが共通言語としてあるバンドじゃないとダメですね。
真鍋:そう、チャック・ベリー審査があるから(笑)。まずダックウォークができないとダメとか、俺が直々に面接したい(笑)。
──そういうバンドを増やすためにも、ニートビーツが旗振り役となって牽引していくしかないですよね。
真鍋:そうだね。俺たちみたいな特殊なバンドは世界的にも少ないみたいで、日本だけじゃなく海外からもライブに呼びたいとかレコードを出したいってオファーが最近は多くて、やっぱり好きな人は好きなんやなと思って。スペインのレーベルからニートビーツのレコードを出したいと連絡をもらったんだけど、ソロウズのカバーが入ってると言ったら向こうが過剰に反応してね。それだけで信用できるし、もうそこのレーベルから出そうかなと思ったもんね(笑)。