随所に挟まれた創意工夫の技
──「GIT IT」はコーラスとの掛け合いの面白さを堪能できる曲ですね。
真鍋:そうやね。グループ感を出すというか。ジーン・ヴィンセントがやってるバージョンもあるけど、俺らはウェイン・フォンタナ&ザ・マインドベンダーズのバージョンを参考にしてみた。
──ニートビーツのカバーはオリジナルが誰かは特定できますけど、誰のカバー・バージョンのアレンジでやっているかまではマニアックすぎてわからないんですよね。
真鍋:それがやり方として面白くてね。「GIT IT」も大抵みんなジーン・ヴィンセントのほうをカバーすると思うんやけど、そこをあえてウェイン・フォンタナでやるという。「HIPPY HIPPY SHAKE」もそうで、スウィンギング・ブルー・ジーンズとかチャン・ロメオといった定番のバージョンじゃなくて、パット・ハリス&ザ・ブラックジャックスという埋もれたビート・バンドのバージョンをお手本にしてる。シングル1枚か2枚くらいで終わったノーヒットの人たちだけど、マージービート・コレクターの人は喜ぶんちゃうかな? 俺たちが「HIPPY HIPPY SHAKE」をやると聞いて「うわぁ、ベタやなぁ…」って思う人、いざ聴いてみたら「うわっ、これパット・ハリスのバージョンやん!」って驚く人と2種類いると思う(笑)。
──「DON'T YOU DO IT NO MORE」は正統派のマージービート・ナンバーですが、これも世に埋もれた曲ですよね。
真鍋:ビリー・J・クレイマーがちょっと落ち目になったときの曲でね。ビート・ブームも終焉に向かってどうしようかと試行錯誤してるときにジョニー・キッド&ザ・パイレーツのミック・グリーンがダコタスに入った混沌とした時期というか、マージービートのまま行ってもいいんかなぁ? と迷ってる時期(笑)。
──どうしてもそういうマイナーな曲に惹かれてしまう嗜好性なんですね(笑)。
真鍋:結果的には売れなかったマイナーな曲かもわからへんけど、曲的にはいいやんっていうかね。聴いてみて「これいい曲やな」と純粋に思える曲はカバーしてみたい。
──オリジナル曲も粒ぞろいで、なかでも「ICED COFFEE」はジョン・レイトンの「JOHNNY REMEMBER ME」っぽいというか、大瀧詠一っぽいというか(笑)。いずれにせよメロディアスでポップ・センスに溢れた曲で、ビートの効いた野性味のある曲だけじゃないニートビーツの幅の広さと懐の深さを実感できますね。
真鍋:「ICED COFFEE」もそうやし「ROCKIN' HOME」もそうだけど、最近はポップさのある曲をやりたい傾向にあるね。
──「ICED COFFEE」は哀愁漂うアコギの音が良いアクセントになっていますね。
真鍋:あれはアコギじゃなくてエレキの12弦の音なんだよね。あまりにもアコギちっくに録るのがイヤやったから、エレキの12弦をアンプに通さずにマイクで録ってみた。その結果、アタックだけ出るっていう。それが新しいと思ってね。普通はみんなアンプに通すか、アコギの12弦で弾くでしょ? そうするとバーズとかビートルズの弾く12弦の音みたいになるから、それとはちょっと違うパターンをやってみたくてね。
──そういった創意工夫は他の曲にもあるんですか。
真鍋:たとえば「ROAD-HUG RUBBER」とかインストの曲なんかは、テープエコーがかかったギターをスピーカーから出した音をマイクで録る。それを後で原音と合わせるっていう手間のかかったことをしてみた。そうするとよくあるテープエコーの音じゃない、ちょっとエッジの効いた音になるんよね。60年代のサーフ系の音ってけっこう丸くてリヴァーブがビンビン効いてるけど、そういう感じじゃなく、エッジが残ったままエコーがかかってるみたいにしたかった。
──なるほど。インストと歌の入った曲の線引きはどんなところにあるんですか。
真鍋:歌詞が浮かばへんとインストになるってだけやね(笑)。基本は歌ありきでつくってるけど、これはもう歌詞ができひんってなるとインストになる。
ロックンロールは“迎えに行きがち”
──今回の収録曲でも白眉なのはシングルとして先行発売された「BYE BYE VERY GOOD」だと思うんです。去年の3月に亡くなったチャック・ベリーに捧げたナンバーで、スリーコード職人のニートビーツの持ち味がギュッと凝縮していますね。
真鍋:あの曲はけっこう早い段階からできてて、殊更につくった感がないっていうか。マックショウも今度出るアルバムにチャック・ベリーに捧げた曲があるみたいね。神田(朝行)くんから「ニートビーツのチャック・ベリーに捧げた曲ってタイトル何だったっけ?」ってメール来てた。たぶんタイトルを被らへんようにしてるんやろな(笑)。
──ちなみにマックショウのほうは「今夜はベリーグッド」という曲みたいですよ。まぁまぁ被ってますけど(笑)。「BYE BYE VERY GOOD」は歌詞も素晴らしくて、「世界を股にかけるには/三つのコードがあれば十分さ」という一節なんてニートビーツの音楽性そのものを言い当てているようだし、簡にして要を得た表現だと思うんですよね。
真鍋:チャック・ベリーは永遠のロックンローラーやし、もはやチャック・ベリーのことを話に持ち出す人もいないでしょ? せめて俺らくらい言わんと語り継いでいけないしね。(忌野)清志郎さんがやってたRCサクセションとかはチャック・ベリーに通じる、黒人のロックンロールやソウルをベースにした音楽性や雰囲気があったから特に話題にせんでも良かったけど、もはやいまの時代、チャック・ベリーという言葉自体を日本で聞かないもんね。俺らの世代にとってはエルヴィス(・プレスリー)に近い存在で、あまりにクラシックすぎたから語ることも特になかったけど、いまの若い子らはその存在自体を知らへんもんね。
──まぁ、ソロウズやビリー・J・クレイマーを知る若い人たちもなかなかいないでしょうけどね(笑)。
真鍋:そうやね(笑)。ソロウズなんて奇跡的にアルバムを出せてたバンドで、なぜ出せたのか、それも謎でね。演奏もヘタだし、アルバムを出せそうなバンドは他にもっといるはずなのに。でもそういうソロウズみたいなバンドのことをせめて俺一人でも語っておいたほうがいいんじゃないかと思って。プリティ・シングスとかダウンライナーズ・セクトとかもそうだけど、語る人が他におらんからね。
──そういう一般的には名の知られていないバンドもヒットチャートの上位を目指して頑張っていたわけじゃないですか。そのいなたい感じに心をくすぐられるんでしょうね。
真鍋:時代に負けてるんだよね。どんどん時代が変わっていって、流行の最先端に追いつけないイギリス人特有の資質っていうか。1965年くらいからまたアメリカの音楽が盛り返してきて、そこについていけないイギリス人の不器用なところが俺はすごい好きで。「65年やのにまだこんなリズム&ブルースとかマージービートの曲をやってんねや!?」みたいな、たぶん迷いながらやってたんやろなって思ったり(笑)。その葛藤しつつやってる感じがいい。
──ニートビーツは不器用どころか頑なに20年以上もスリーコード職人を続けていますが、曲づくりの縛りに飽きたり窮屈さを感じることはありませんか。縛りを守る楽しさは当然あると思いますけど。
真鍋:その件についてはいつもマックショウと語り合ってるよ(笑)。縛りの葛藤っていうか、もういい加減歌詞が出てこんへんやろ? みたいなね。だいたいマックショウもニートビーツもハイウェイに乗りがちやし、夜通し踊りがちやし、一目惚れしがちやし、その結果フラれがちやしね(笑)。
──相変わらずすべりませんねぇ(笑)。
真鍋:それに迎えに行きがちね。待ち合わせじゃなく必ず自分から迎えに行く(笑)。具体的な自分の恋愛を唄うわけじゃなくて、理想の恋愛像を歌にしたり。スリーコードのロックンロールにはそういうフォーマットがあるよね。だからもうホントに使い古した言葉ばかりなんで、『ロックンロール辞典』とかないかな思うて。
──その辞典を編纂できるのは真鍋さんか岩川(浩二)さんくらいでしょうね(笑)。
真鍋:歌詞づくりに困ったときの辞典ね。「お」の項目には間違いなく「オールナイト」が出てくる。オールナイトしがちやからね(笑)。実際はもうせぇへんけどね。しんどいし、いい歳やから。あと、曲づくりでたまに悩むのはフレーズ。イントロもアウトロも結局3種類くらいしかないので、それをどう組み合わせるかってことになる。だからマックショウに訊いたりするもんね、「要らんフレーズない?」って(笑)。
──「OOH! MY BEAT」のアウトロみたいに急に無理やりフェイドアウトさせるやり方もありますよね。
真鍋:余韻のない、急激な感じね。最近は終わり方に悩んだら「もうフェイドアウトでいいか!」ってことにしてるよ(笑)。やっぱりね、1曲=2分台を前提にしたいから。理想は2分30秒を越すか越さへんかってところ。インストは2分台前半が理想。歌でもインストでも3分いくともう大作やからね(笑)。
──今回のアルバムも16曲も入っているのにトータルタイムが40分ですからね。
真鍋:何度も繰り返し聴けるでしょ? それが自分のなかでは理想の形なんだよね。それでいてバイキングみたいにいろんな種類の曲があって楽しめるっていう。そういうのが俺は好き。