日本が世界に誇るスリーコード職人でありロックンロール伝道師、ザ・ニートビーツが5年ぶりに放つオリジナル・フルアルバム『OPERATION THE BEAT』にもはや能書きは不要である。「リズム&ブルースを昇華したマージービートの真髄を堪能できる」とか「時空を超えたエイトビートを真空パックした」とか煽り文句を書き連ねることはいくらでもできるが、彼らの愛してやまないオールド・イングランドのロックンロール・クラシックスが無邪気にかき鳴らされるのを聴くと、過剰な修飾語や誇張した表現はまるで意味をなさないように思えるのだ。いつも通りの理屈ぬきで楽しい2分台のロックンロール。それ以上でもそれ以下でもない。泉下の客となったチャック・ベリーに捧げたナンバーを含む"SWEET LITTLE SIXTEEN" SONGS(全16曲)は信頼と安心のニートビーツ印である。だがしかし、そのいつも通りの尊さよ。バンドの顔役、Mr.PANこと真鍋崇にいつも通りのすべらない話を聞く。(interview:椎名宗之/artist & live pix:柴田恵理 a.k.a SHIVA-ERI)
やっぱりええやん、ニートビーツ
──昨年は結成20周年のメモリアル・イヤーということで、かなり充実した一年になったのでは?
真鍋:そんなに特別な感じもなく、さらりと終わったとこもあるかな。20周年やからちょっと背伸びして無理なことをやろうっていうのもなかったし。まぁ唯一、ずっと望んでいたバースディやクロマニヨンズとの対バンができたのは嬉しかったけどね。
──ニートビーツの4人が主演を務めた映画『ゴーストロード』が全国の劇場で公開されたのは大きなトピックだったんじゃないですか。
真鍋:映画はねぇ…ほとんど忘れたよね(笑)。撮影自体はもう3、4年前の話やから。どうやら映画のDVDが今年中に出るらしくて、そのオーディオコメンタリーの録音で久々に映像を見たんやけど、自分らがただただ若いなと思って。人間って40歳になった辺りで急激に変わっていくんかな? みたいな。人としての最後の若さがあの映画に刻み込まれてるね(笑)。
──映画を鑑賞したお客さんの評判は上々でしたよね。
真鍋:いやぁ、あれは甘い意見というかね。「すごい良かったよ!」みたいな感じじゃなくて、おばあちゃんが子どもに向かって「よく頑張ったねぇ、エラいエラい」と褒めてあげるみたいやったし(笑)。まぁ、みんなプロの俳優じゃないから演技が上手いわけでもないし、最初からあくまでB級映画のテイストを狙ってたからそれも仕方ないけど。俺のなかではまだバブルの残り香がある90年代のVシネマ全盛期を意識したとこがあって、そういうノリを出せたのは良かったかなと思って。
──すこぶる充実した内容だったサントラは素晴らしい副産物だったと思いますが。
真鍋:うん、あれは良かった。撮り始めたときはサントラをつくれることになってなくて、映画のなかで曲を使うにしても5、6曲でいいみたいな話だったんやけど、撮影が進むにつれて「これはマズい!」と思うようになって。俺たちの演技がひどいのでバックにBGMがなかったらとんでもないことになるというか、沈黙に耐えられへんというか(笑)。そういうのも含めて、ミュージック・ムービーとして捉えると随所に曲を入れるのは不可欠だと思ってね。それで映画がもう出来上がってるところに後から曲をたくさん入れようと提案したわけ。その流れでサントラもつくって、映画の上映が終わった後もぼちぼち売れてるね。
──今回発表される新作『OPERATION THE BEAT』は、去年の20周年イヤーのうちにリリースする意向もあったんですよね。
真鍋:間に合わへんかったね。途中でもうこれは無理やなと諦めた。マックショウはそういう周年モノに無理やり合わせてくるけど、俺らは無理しない(笑)。
──だけど、年間100本にも及ぶライブをワーカホリックにこなしながら曲づくりをしたりレコーディングをする時間がよくつくれるなと思いますけど。
真鍋:それが自分らでも不思議でねぇ。いまは「TWISTIN' SHACK」というギャラリーづくりで大工の仕事の真っ最中やしね(笑)。何事もこの時期にこういうことをしなくちゃいけないとか特に決めずにやってるから、そんなに気負いなくやれてるんやないかな。
──それにしても5年ぶりのオリジナル・フルアルバムとは意外でしたね。そんなに間があいていたんだなと思って。
真鍋:カバー・アルバムとかシングルとかライブ盤とかはちょくちょく出してたけど、オリジナルは2013年以来でね。宣伝の謳い文句でよく「ついに最高傑作が誕生!」とかすごい期待させる言い回しがあるでしょ? 俺らにそういうのは全くなくて、「やっぱりいいなぁ、ニートビーツ」みたいな感じ(笑)。新しく聴いた人は「こんな音楽があるんだ!」と新鮮な気持ちになれるだろうし、むかし聴いてた人が久々に手に取って聴いたら「やっぱりええやん!」と思ってくれるんやないかな。
──良い意味での金太郎飴状態というか、老舗の安定感というか。
真鍋:うん。そういう感じが俺らには合ってるかなと思って。今回のアルバムは特にそういう感じだしね。レーベルのスタッフと曲順をこうしようああしようみたいな話もあってんけど、俺は別に1曲目から衝撃はいらない(笑)。最初に聴いたときに「これニートビーツじゃない?」くらいのところから始まるのがいい。ガツンとくる衝撃よりもリピートして聴ける状態のアルバムがいいというか、どれが1曲目かわからへんくらいの感じが自分のなかではちょうどいい。20年やってきてそんな境地に達したね。曲調もそんなふうになってるのかもしれない。
レコードの音が一番の理想
──今回はテープ録音した音源をアナログ・レコード制作用のマスター・ラッカー盤に落として、それにデジタル・マスタリングを施す手法を取り入れたそうですね。
真鍋:原盤となるラッカー盤をそのまま再生してデジタルにするっていうね。簡単に言ったら、むかしレコードをカセットテープにダビングしたでしょ? そういう状態の音になってる。レコードをCDに焼いてるみたいなね。前もシングルではそういうことをやってたけど、アルバムでは初。いままでテープからCDにしてたのを、今回はテープからレコードに落としたのをCDにしてる。
──恐ろしい手間暇をかけているわけですね。
真鍋:誰がそこまでやるのを喜ぶんやろ? と思うけど、少なくとも俺たち4人は大喜びやね(笑)。とにかくレコードの音が一番やし、CDもできるだけレコードの音に近づけたい。そういうのを自分らの特色にしておかないと、バンドの存在意義が薄まるしね。まぁ、こういうマニアックなことをやる会社があるんだ? みたいな隙間産業やから(笑)。
──真鍋さんとしては、できることならこのアルバムもレコードで聴いてほしいと?
真鍋:まぁね。望むのはやっぱりレコードやけど。とはいえCDでも楽しんで聴いてほしいから、CDにも最大限のレコードっぽさを入れてみたというか。一応レコードも出すんやけどね。日本盤は今年のレコードストアデイのエントリー作品として出して、あとジャケット違いでドイツ盤も出る。
──今回の収録曲なんですが、恒例のオールディーズ・バット・グッディーズなカバー曲で真鍋さん以外のメンバーがボーカルを取っているのが興味深いですね。ソロウズの「YOU'VE GOT WHAT I WANT」をベースの浦(大)さん=Mr.GULLYが、チャン・ロメオの「HIPPY HIPPY SHAKE」をドラムの中村(匠)さん=Mr.MONDOが、シフォンズの「ONE FINE DAY」をギターの土佐(和也)さん=Mr.LAWDYがそれぞれメインで唄っていて。
真鍋:最近はちょっとビートルズっぽい感じで俺以外のメンバーにも1曲ずつ唄ってもらっててね。誰かが突出して上手いわけやないし、歌のレベルは4人とも同じようなものなんで(笑)。それぞれ個人が得意そうなやつを選んでもらって、たとえば大ちゃんは黒人っぽいボーカルの曲が合うからいつもそういうのを選んでくる。
──「HIPPY HIPPY SHAKE」はこのラインナップでは有名な曲ですね。
真鍋:そうそう。モンちゃんはスタンダード担当なんだよね。会社で言えば受付の窓口みたいな。窓口に立つのは若くて話しかけやすいキャラクターがいいしね(笑)。
──それでいくと土佐さんは何担当なんでしょう?
真鍋:土佐はロマンチストなので、選んでくるのはだいたい女性ボーカルのキラキラした感じの曲が多い。ロックンロールっていうよりはポップス寄りやね。
──真鍋さんはアーサー・アレキサンダーの「YOU DON'T CARE」、ジーン・ヴィンセントの「GIT IT」、ビリー・J・クレイマー・ウィズ・ザ・ダコタスの「DON'T YOU DO IT NO MORE」をカバーしていますが、取り上げたポイントはどんなところですか。
真鍋:アーサー・アレキサンダーはローリング・ストーンズとかビートルズとかイギリスのビート・グループがいろいろとカバーしてる黒人のシンガーなんやけど、「YOU DON'T CARE」のカバー音源ってあんまりなくてね。これは俺の想像の話で、ビートルズがハンブルグのスタークラブに出演してた時代にもし「YOU DON'T CARE」が発売されてたら、ステージで演奏してたんじゃないか? っていう。「YOU DON'T CARE」は1965年の曲だからあり得ない話なんやけど、やっててもおかしくないっていうか。もしくは雰囲気が「YOU BETTER MOVE ON」と似てる曲なので、音源には残してないけどストーンズもライブでやってたんちゃうか? と。そういうノリでカバーしてみようと思ってね。