2013年のアニメスタイルイベント内で約束していただいたイベントが実現。アニメの色彩設計という、その作品世界の色・完成画面を作るという、視聴者に一番近い大事なパートでありながらなかなか語られることが少ない魅力をアニメファンに届けてくれる辻田邦夫さん。今回のイベントではどのような話をしていただけるのか、その一部を語っていただきました。
(interview:柏木 聡 / Asagaya/Loft A)
なんでもアリにしてはいけない
――2013年に宣言していただいた、生誕祭イベントの実現ありがとうございます。すごくいいイベントだったのを覚えています。辻田さんはゲスト登壇も多いですが、お客様としてもよく来ていただいてますね。
辻田:好きな話題を聞きつつお酒を飲めるのは、大好きなんです。ちょっとでも興味があって時間があれば来てしまいます。
――その道のプロに話を聞くのは楽しいんですよね。
辻田:そこが醍醐味ですよね。その道で長い重鎮の方は話が乗ってくるととんでもないことを話し出しますから(笑)。
――あります(笑)。
辻田:僕らの知っている常識じゃない時代の話で、それはその場所に行かないと聞けないので。
――その業界がまだ黎明期で前例がなくわからないことだらけだから、博打を打たないといけないところがあって。言い方が悪いですけど、頭のネジが外れていないとできないことをやっていたりしていて。
辻田:なんでそう思ったのっていうことをしてますよね(笑)。
――苦労話なんですけど笑って話してくれるのもいいですよね。知らないことを知るのも楽しいですし。辻田さんのイベントにくるお客様も同じことを感じているんだと思います。
辻田:そうかもしれないですね。
――ほかのインタビューで仕上げや撮影はあまりに表にでないっておっしゃられている記事がありましたが、最終的に僕らが見るのは辻田さんたちのお仕事なんですよね。言ってしまうと一番僕たちに近いところにいると思うんです。原画などは見ることはできないですから。
辻田:もちろん、原画などは重要なパートなので注目されるのはもっともなんですけど、僕らの仕事を知ってもらえる機会をつくってこの業界を目指してもらえると嬉しいと思っています。
――今はデジタルになったことで仕上げ・撮影のパートが占める割合がかなり増えてますから、より技術が求められているのかなと。
辻田:そうですね。
――選択肢が増えるのはそれはそれで大変ですから。仕上げや撮影はそういった環境になっているのかなと思っています。
辻田:そうですね。ただ、なんでもアリにしてはいけないと思って作ってます。
――そうなんですね。
辻田:誰に向けてどうやってアプローチをするのかを考えないといけないんです。そうやって作品を立ち上げていく中で、描き手含めて制限を設けているんだと思います。僕ら最終的に画面を作っている立場としては、スタイルの制限を考えた上でどれくらいの幅を持たせるかを決めています。
――視聴者を意識してということですよね。見ている側もそういった指針がないとわからなくなりますから。
辻田:年代によっても意識します。例えば小学生くらいをターゲットにした際は、背伸びして見る作品を作ります。本当は全部わかっていないかもしれないけど、少しお兄さん・お姉さんの世界に触れてわかった気分になる、その背伸びをする感じを作ってあげるのが重要だったりします。
――子供時代に観た作品を今になって見返すと分かる部分が出てきますからね。当時はわかってなかったけど大人になった気分ってありました。
辻田:それが重要なんです、そういう部分がないと飽きられてしまうんです。僕たちが子供のころからそうでした。ただ僕らが時々間違えてしまうのが、子供向けを作るときにターゲットの年齢よりも低くしてしまうことがあるんです。自分がその年だと幼稚になって見ないよっていうのを忘れがちなので、子供向けが一番大変ですね。
――大人向けですと自分の感覚を持っていても受け止めてくれますから、子供の方がシビアなんですね。
辻田:そういった面ではまだ深夜アニメのほうが楽なんです。見ている世代がわかるので。狭いところに向けてだと明確にターゲットが見えるので楽ですね。逆に広い層に向けての作品は大変です。今は特に中高生はリアルタイムで見ずに録画やネット配信を見ることが多いので、そうするとそこを意識して作っていますね。
――そうなんですね。
辻田:狭い範囲でターゲットがわかる作品はコテコテにしますけど、広い範囲のファンの作品は画面作りは変わってきますね。
――今はデジタルでTVの性能が上がっているじゃないですか。今は画質が上がってきているのでそういった面でも変わった点もあるんですか。
辻田:その点で言うとまずTVが液晶になったんですよ。ブラウン管と液晶では色の表現域が違っていて。ブラウン管はその域が狭かったんですよ
――そうなんですね。
辻田:作っているものはそれほど変わっているわけではないんですけど。現場でもセル時代の感覚で作ってしまうとダメなので常に試行錯誤をしていますね。
――常に技術革新がある部分なんですね。
辻田:そうです。撮影の方はそういった部分の勉強をされた方も比較的多いでしょうけど、仕上げは少ないでしょうね。僕は映画の大学だったので知識がありましたけど。変換期のころ東映動画でその旗振り役を任されました。今は放送に乗るものと現場で見ているものの差がかなり小さいのでその差を計算するのは楽になりましたね。
――劇場はどうなんですか。
辻田:劇場も同じです。今はフィルムじゃなくDCP(デジタルシネマパッケージ)方式というHDDに収めたデジタルデータを上映してるので。
――だから綺麗になっているんですね。それに保管や輸送も楽になってますよね。フィルムだと傷も入りますから。それが味になってもいますけど。
辻田:回想シーンなんかで古いフィルムのようなノイズを載せるじゃないですか。あれ今の子たちは知らないんです。
――そうなんですか。
辻田:いまフィルムで作品を見る機会が少なくて、原体験でないんです。作り手側の記憶でやってしまうんですけど、小さい子には伝わらないんですよ。
――そうか、公民館なんかでもフィルムで見てましたからみんな知ってましたよね。
辻田:TVでさえ昔のノイズ入ってるものありますからね。
――そうですね。少し前までノイズがある作品は当たり前でしたもんね、今は再放送作品も昔より綺麗な作品ありますから。
辻田:そういうノイズ感やセピア感は小さい子には伝わらなくなっているんですよ。大きくなると記号としてわかってくるんですけど。
――原体験ではなくお約束的なものになっているんですね。そういった今もしっかり見て制作をされているんですね。
辻田:いえいえ。色々やるので広く浅いだけですよ。
――それだけ知識量があると、仕事を頼む側は安心ですよね。
辻田:興味を持っている範囲が広いというのもあるんですけど、1つ仕事をすると色々覚えるんです。そこで広がっているので、雑学がすごく増えていくんです。