エンジニア・杉山オサムの的確な援護射撃
──せっかくメンバー5人勢揃いなので、レコーディング中のすべらない話を各自聞かせていただきたいのですが。
たつ子りん:すべらない話! ハードルが上がった!
トム:レコーディングは全員が同じタイミングで揃うわけでもなかったんですよ。自分のパートの録りの日だけ行く感じで。
貴文:コーラスの予定日だったのを、おれのギターの録りに時間を使いすぎたせいでトムくんにずっと待機させちゃったのは申し訳なかったね。
武志:貴文がレコーディングの合間に立って食べてたポテトサラダを床に落としてました。
たつ子りん:あのさ、弾いてての話ないの?
トム:弾いてて面白かったこと?
たつ子りん:今回、新しい弦を使ったとかさ。
トム:使ってない。
たつ子りん:むしろ使えよ! レコーディングなんだから!
──サコさんがリズム録りからいたのは、メンバーにアドバイスをするためですか?
サコ:それは全然ないです。ぼくはメンバーをどれだけ笑顔にさせられるかに懸けてたんで。
トム:ただプロレス技をかけてただけじゃないですか! 自分が笑顔になりたいだけですよ!(笑)
サコ:ひとつマジメな話をすると、今回、ぼくはミックスの直前に体調を崩してしまって、ミックスとマスタリングに行けなかったんです。それが心残りだったので、この場をお借りしてみんなにありがとうって言いたいですね。
──エンジニアはロフトレコードの諸作品でもおなじみの杉山オサムさんですか?
たつ子りん:そうです。すごく良かったですね。
トム:気持ちよく弾けたしね。
サコ:おちゃめで、顔もかわいくてね(笑)。笑顔がいい人は心もキレイ。
たつ子りん:オサムさんが今回のレコーディングでいちばんがんばってたね。寝る時間を惜しんでやってくれたので。夜中の1時、2時とかまでレコーディングして、片付けして、そのままスタジオで寝て、朝にオサムさんを起こしてまたレコーディングを始めたりして。
たつ子りん:2回に分けたんです。最初のリズム録りは2日、数日あけて2回目が5日くらい。
サコ:日に日にオサムさんがやつれて、精気がどんどん失われていくのがわかったよね(笑)。
たつ子りん:ミックスも詰め詰めだったしね。ミックスの段階でまだレコーディングしてたし。オサムさんが「おれがギターを弾く!」って言い出して、実際に弾いてもらったんですよ。もう一箇所ヤマが欲しいね、みたいな話になって。
──オサムさんのアドバイスで劇的に変化した曲はありますか。
たつ子りん:そういうのはなかったけど、オサムさんとは意見が合致する部分が多かったんです。軽く録ったやつを聴いてみて「こうしよう」と言われることが、実は自分もそう思ってたことだったりとか。考えてることがほとんど一緒だったんですね。たとえば高い所からジャンプして水のなかに飛び込んだときに聴こえてくるような音にしたいと言うと、オサムさんは一発でその感覚を理解してくれるんですよ。いままでのエンジニアにそういうことを言っても「数値を教えて」とか「参考音源を聴かせて」とか言われるんですけど、オサムさんはそういうのが全然なくて。「このスネアを、世界を変えるような音にしてください」ってオサムさんにお願いすると、「どんな感じ?」「『ライク・ア・ローリング・ストーン』の頭みたいな感じで」ってやり取りをしたら、「あれね、任せて!」と完璧に応えてくれる。いままでは自分の頭のなかだけにあって伝わらなかった音が伝わるようになって、どんどん理想の形に仕上げていくことができましたね。
──「天使かと思った!」の最後でエアロスミスの「デュード(ルックス・ライク・ア・レディー)」をフェイクっぽく口ずさんでいるじゃないですか。ああいう遊び心をオサムさんは理解してくれそうですものね。
たつ子りん:天使=エンジェルといえばエアロスミスかなと思って。唄ってるのは「デュード」だけど、同じ『パーマネント・ヴァケイション』に入ってる曲だからいいかなと(笑)。
──不滅のロック・クラシックがオサムさんとの共通言語としてあったのが良かったんじゃないですかね。「などわ」の歌詞の最後でピストルズ、スペシャルズ、キッス、RCサクセションの名曲を引用するセンスはオサムさんもニヤリとしたんじゃないですか?
たつ子りん:オサムさんは最初にミックスまでしか参加できないという話だったのに、結局マスタリングも立ち会ってくれたんですよ。最終的にはマスタリングの後の打ち上げまで参加してくれて、その挙句、終電を逃したからね(笑)。