ハードルは低く、ジャンプは高く
──気持ちが浮き足立った時に曲を書く必要もないでしょうしね。
りん:「太陽」とか絶対に唄いたくない。というか唄えない。
──たしかに「海」「空」「太陽」は似合いませんね(笑)。
りん:湘南育ちなのに湘南っ子失格ですね。でも「月」「星」「夜空」のほうが好きなので。
──一連の騒動、外野のノイズに対してリベンジしてやりたい気持ちはありませんか。
りん:あまりないんですよね。でも、ツイッターとかで自分に言われてることはめちゃめちゃ見てたんです。私はもともと恨むよりも恨まれるほうが好きだけど、それなりに傷つくんですよ。ただ悔しいのは、そういうことを言ってる人に直接会えないこと。実際に会えば絶対に私のことを好きになると思うので。呑みに行って話そうぜ! めっちゃいい子だぜ! って感じ(笑)。だから頑張ろうって思うだけですね。私は私を傷つけられても別に何も思わないから、復讐したいって気持ちは起こらない。私が傷つけるつもりだった人を誰かに先に傷つけられるのはイヤですけどね。それがいちばんイヤかも。所有欲が強いので。
──自分らしくいられる場所は歌だという意識はありますか。
りん:自分らしくいられる場所なんてどこにもないし、どんな場所でもそうはならないと思います。どんな場所でも自分らしくしなきゃ、っていう気持ちはありますけど。らしくっていうか、人が見た私をどうぞっていうタイプなので、別に自分が何色でもいいです。「あなたはそう感じたんですか? じゃあそれでいいですよ」って感じ。違いすぎたらさすがに言いますけど、そう見えるんだったらなるほどね、っていうか。
──『ミスiD 2018』の自己紹介で「全部流されるまま生きてたら自分の意思がなくなって、でも他人に求められたことはそれなりにできるようになった」と話していましたよね。
りん:他人に求められることに応えるのは好きだし、本当の自分が要らないところがいちばん良かったんです。私は人に合わせるほうが好きなんですよ。上手く説明できないけど、自分のなかで大事だと思ったものは壊したくなるんです。破壊衝動が起きるところまで入り込まれたら困っちゃうし、もしそこまで立ち入ったら耐えられるのかな? って思っちゃう。だったら自分の芯の部分に入ってもらわないほうがいいし、人に合わせるくらいの人間関係、距離感がラクなんですよね。だから自分じゃない誰かになればいいからお芝居をやるのは好きでした。音楽はそういうわけにいかないから難しいですけど。
──そこをどう折り合いをつけているんですか。
りん:ソロを始めた頃の歌は自分のなかではもう古くて、その時の感情に自分を戻そうとしてる感じ。このあいだのライブでも「ピローケース」で当時の感情を戻しすぎちゃって、自分でもびっくりしちゃったんです。「そこまで戻らないで!」って感じで(笑)。
──過去の自分をイタコのように降ろしてきて演じるような感覚なんですかね。自分であって自分じゃないみたいな。
りん:台本みたいな感じなのかな。実筆した台本っていうか。
──面白いですね。これだけパーソナリティが色濃く出た歌ばかり唄っているのに、本当の自分を出したくないという思いが根底にあって。
りん:書き上げた曲はどれも「自分だった」ってだけで、もういまの私じゃないし。…私は誰なんだろう? わからない(笑)。
──「ほのかりんの肩書きは何ですか?」と訊かれたら何と答えますか。
りん:最近よく「シンガー・ソングライター」って書かれてるのを見て「ええー!」って思ってるんです。びっくりするし、恥ずかしいですよ。
──では何なのでしょう?
りん:「ニート」。「くすぶらせたニート」くらいがちょうどいいんですよ。「シンガー・ソングライター」なんて申し訳ないので。
──でも、こんなにいい歌ばかり唄っていたらニートの人がニートを名乗れなくなるじゃないですか。
りん:ハードルは低く、ジャンプは高く、ってことで(笑)。