「枯れたラベンダーより、燃える薔薇」。右腕に一輪の薔薇のタトゥーがあるほのかりんが綴っていた言葉である。12歳からギターを始め、ガールズ・バンドに参加するなど、もともと音楽志向が強かった彼女がシンガー・ソングライターとして再起したのが昨年の秋。以来、配信シングルを二作立て続けに発表し、生バンドを従えたライブを徐々に行ないながら来春発売予定のアルバム制作に着手している。足元のおぼつかない、薄氷を踏むようなあやうさのあるキャラクターが彼女の魅力だが、東京で一人帰りを待つ女性の淋しさと狡猾さを唄った「東京」の琴線にふれる歌詞とメロディ、抑揚のついたその艶やかな歌声を先入観なしに聴けば、彼女の非凡な才能を認めざるを得ないだろう。燃え盛る薔薇のような熱情を内に秘めた彼女の歌には乾いた心に潤いを与える力がある。その力と才能に本人が無自覚なのも大器の片鱗か。世間を賑わせたじゃじゃ馬はいままさにJ-POP界のダークホースへと変貌を遂げつつある。(interview:椎名宗之)
「メロンソーダ」は“ザ・自分のための曲”
──新宿レッドクロスでのライブを観させてもらったのですが、まだ二度目のライブとは思えない肝の座り方が印象に残りまして。
りん:本当ですか? めちゃくちゃ緊張してました。
──ステージ上でも動じないのは、コムシコムサのギタリストとして活躍していたのも関係しているんですか?
りん:バンドでギターをやってた時はぜんぜん緊張してなかったんですよ。でも自分でギターを弾いて唄って、ステージの真ん中にいると思うとすごく緊張する。コムシコムサのボーカルの子に謝りたくなる(笑)。
──どんなことがきっかけでソロへの志向が強まったんですか。
りん:バンドがしたいというよりも、メンバーが好きという気持ちだけでバンドをやってたんです。それがだんだんとバンドのやることについていけなくなっちゃって、メンバーのことは好きだけど、もうちょっとムリとか思っちゃって。もともと企画で集められたバンドだったし、好きな音楽がみんなバラバラだったんですよね。みんなそれなりにバンドで頑張っていきたいと思ってたんだけど、私にはできなかった。他人のやりたい音楽で、なんで私がギターを弾かなきゃいけないんだ? とか思ってたし。これでギターがめっちゃ上手いんならいいけど、別にヘタだし。でも、歌を唄うこと自体はすごく好きだったんですよ。そういうのがだんだんもどかしくなっていったのかもしれない。で、それならソロでやっていこうと思って。
──もともと椎名林檎さんがお好きだったんですよね。
りん:好きでした。でも誰かみたいな音楽をやりたいとかはなかったです。そもそも自分で唄う発想がぜんぜんなくて、ソロでやる話が出た時に「ああ、そういう選択肢もあったんだ?」と思って。「バンドをやめます」ってスタッフさんに話をした時に「じゃあソロでやれば?」って言われたんですよ。
──そんな経緯で去年の9月に配信シングル「メロンソーダ」でソロ・デビューを果たして、翌月には早くもセカンド・シングル「東京」を配信リリースしたわけですが、どちらも勝負作で挑んだ感じですよね。
りん:「メロンソーダ」をファースト・シングルにしたのは私のなかであまり意志がなかったんですが、セカンド・シングルは絶対に「東京」がいい! って言いました。いままでつくった曲のなかでもすごく思い入れのある曲だったので。
──配信シングルの候補曲はどれくらいあったんですか。
りん:書きためてた曲がぜんぶで15曲くらいあったのかな。それを雑に録って(笑)、スタッフさんに送ってみたんですよね。
──「メロンソーダ」と「東京」は同じ人をテーマにして書かれたそうですね。どちらも2年前に書き上げたとか。
りん:そうですね。バンドをやってた時から曲は書きためてました。でもそれをバンドのメンバーとやりたいって気持ちはなくて、ずっとそのままにしておきました。っていうか、自分の曲を披露する時が来るなんて思ってもなかったんですよね。
──どこかで披露するあてもなく曲を書いていたと?
りん:自分のなかでは日記みたいな感じです。「メロンソーダ」は特にそうで、“ザ・自分のための曲”って感じ。「東京」は人に聴かせるのを少し意識しましたけど。
──ほとばしる激情と三行半を恋人に叩きつける「メロンソーダ」、東京で一人帰りを待つ心情をせつなく唄った「東京」と、相反するタイプの曲を続けざまにリリースしたのは、振り幅の大きいりんさんのキャラクターがよく出ていていいですよね。
りん:そんなことを言われると、サード・シングルで何を出せばいいのか緊張しますね(笑)。「メロンソーダ」は唄うのが苦しいんですよ。
──書いた当時のことを思い出して?
りん:いや、息継ぎが苦しくて!
──なるほど(笑)。ライブでは披露されているもののまだ音源化されていない「夏好きの君」は親しみやすいポップ・チューン、「ピローケース」はメロディの美しさが際立つ愛くるしいナンバーで、持ち曲は実にバラエティに富んでいますね。
りん:自分の性格の感情的な部分をつまんで曲をつくっているからだと思います。一人の私が10曲つくってるんじゃなくて、その時々の感情をつまんでいったら10曲になった感じ。自分でもびっくりしますもん。「夏好きの君」とかびっくりする。「なんだこの明るい曲!?」って思う(笑)。ある女の子のために書いた曲なんですけど、その子のためだけに唄ってる感じです。
──その女の子と過ごした夏が最高に楽しかったという歌なんですね。
りん:ある年に最高に楽しく過ごせた夏があって、次の年の夏はきっとそれよりも楽しくないだろうな…っていう気持ちがあって。でもそれを超えようね、っていう。いまだに超えられてないですけど。