温厚そうな見た目とは違い、熱い思いを胸に秘めてアニメを制作されているアニメーション監督"柳瀬雄之"。アニメーターとしてキャリアをスタートし、現在は監督を担われている彼はどのようにしてキャリアを歩み、作品作りをしているのか。アニメ業界に対する思いの一旦を語っていただきました。
(interview:柏木 聡 / Asagaya/Loft A)
絵でご飯を食べられるようになりたい
――まずはアニメ業界に入るきっかけを伺えますか。
柳瀬:アニメーターからがキャリアのスタートです。元々、絵でご飯を食べれるようになりたいというのがあったんです。ご多分にもれず漫画家を目指した時期もあって1度持ち込みをやってるんです。
――どこに持ち込まれたんですか。
柳瀬:「りぼん」です。
――少女漫画なんですね。
柳瀬:上に姉がいて裏に親戚のお姉ちゃんが住んでいる環境で少年漫画をほとんど読んでこなかったんです。小学校6年生の頃に庄司陽子先生の「生徒諸君!」にドハマリして。あと太刀掛秀子先生が大好きでした。
――そうなんですね。ちなみに漫画の持ち込みはどうだったんですか。
柳瀬:各雑誌で特賞とか入選とかあるじゃないですか、漫画を見てもらった編集さんからはそれで言うと“努力賞”とか “あと一歩で賞”みたいなところだって言われました。それで僕は才能がないんだと思って。
――持ち込みは1回だけなんですか。
柳瀬:1回だけです。なぜかというとご飯が食べれないと困るなと思ったんです。
――現実的なところなんですね。
柳瀬:漫画家としてデビューできるかもわからないですし、デビューできても原稿料をもらえるのは先になるので、スグに生活することは難しいなと思って。かといってアニメーターが安定しているわけではないですけどね(笑)。
――最初は厳しいと言われてますからね。
柳瀬:アニメーターはいろんな絵が描けないといけないんだろうなというのは感じていて。なので、アニメーターだと上達も早いんじゃないかと思ったんです。昔はアニメ雑誌に募集が載っていたので、その募集に応募して試験を受けて採用されたんです。
――50代の方ですとそうやって入ってくる方も多いと聞きますね。
柳瀬:僕は、専門学校に行く気がなかったんです。今になって思うとちょっとは勉強しておいたほうが良かったなと思うこともあるんですけど(笑)。
――どこの会社に行かれたんですか。
柳瀬:中村プロダクションとサンライズとが合作を作るための会社です。
――サンライズ系だとロボット作品など男性向け作品が多そうですけど、好きな作品をやっているから選んだという訳ではなかったんですか。
柳瀬:どこかに入りたいっていうのが先でした。入ればどうにかなるだろうと。ただ、サンライズ系と言いながらディズニー作品とかやっていて、「ん?なんだガンダムじゃない」って思いました(笑)。
視野が広がったのはありがたいなと思っています。
――(笑)。アニメーターから今は演出・監督もされていますが、演出をされるきっかけはなんですか。
柳瀬:誘われたからです。最初は作画監督をやるはずだったんですけど、ついでに演出もやってみたらって誘われたんです。
――そんなに軽いものなんですか?
柳瀬:そのプロデューサーは軽い方でした。「僕はやったことがないですけど大丈夫ですか?」ともちろん聞きましたよ。
――どうでしたか、初演出は。
柳瀬:ズタボロでした。自分がこうだと思っていたことが外れていたことが多く、演出の仕事はこうなんだって目の当たりにしたのがショックでした。あまりに出来なすぎて悔しかったので、別作品で演出やらせてもらって、こういうことかと掴めた部分があったので。そこから、演出もやるようになりました。
――師匠的な人はいたんですか。
柳瀬:いないです。作画も含めて師匠のような人がいなくて、当時は自分で盗めみたいな感じがあって。最初は本当に何もわからないのですごい苦しみました。
――まさに職人の世界ですね。そこから監督までやられているのですから凄いですね。
柳瀬:たまたまですけどね。でも、師匠がいないというのも立ち返る原点が見えない感覚があるので辛いです。
――作画と演出でどこが一番違いましたか。
柳瀬:アニメーションでは、作画も演出も監督もみんなが役者だと思うんです。監督は全体を見渡す役者で、演出は各パートを直接指導する役者だと思うんです。作画でやっていたキャラの演技の作り方が演出だとこんなに違うのかと思いました。作画だけをやっていたころは視野が狭かったんだと思い知らされて、それが演出を経験することで視野が広がったのはありがたいなと思っています。
――その視野の広がりが監督業へと繋がっていくんですね。
柳瀬:監督をさせてもらえるきっかけも誘われたからなんです。ただ、誘われるよりも前に、当時好きな作品を出版社にアポをとって会いに行ってアニメ化の企画を提案してるんです。
――すごい行動力。
柳瀬:結果的にダメにはなったんですけど、そんなことをしている頃に「よかったら別作品だけど監督やってみない」って、「ひめゴト」の監督に誘われたんです。
――動いていなかったら監督をしていなかったかもしれないんですね。「ひめゴト」や「温泉幼精ハコネちゃん」では絵コンテも全話担当されていますがどうしてですか。
柳瀬:短編ということもありますけど、ああいった作品は統一感が特に必要な作品だと思ったんです。流石に「異世界はスマートフォンとともに。」(以下、イセスマ)は30分アニメなので絵コンテ全ては無理でした。
――3作品とも原作付きの作品ですけど、監督をする際に気をつけていらっしゃることはありますか。
柳瀬:原作を好きになろうというところから始めてます。もちろん無理やり好きになるということではなく、原作のいいところをいっぱい拾えるようにしています。そうしないと作品作りのエネルギーは生まれないと思うんです。
何をやってもいいんだと思ったんです
――そうですよね。最新作のイセスマは30分ものですが、そこで変わったことはありましたか。
柳瀬:仕事量から一人では無理なので別の方にも絵コンテをお任せしましたけど、尺以外には大きな違いはないですね。
――WEBでは柳瀬さんが短編出身なのでアイキャッチを途中で入れることで、短編をつなげているような形にしているんだと予想されている方もいらっしゃいましたね。
柳瀬:それは違います。作品的にスマホをいじらないといけないんですけど、絵にしたとしても退屈なものになってしまうので、アイキャッチみたいなものを置いて何が起きているか説明できないですかねって案が出てきたんです。でも、途中からいじらなくなっているんですけどね。そうなったのは3話で井上喜久子さんに「17歳です」と言ってもらったところからです。あそこから僕は壊れましたね(笑)。