Rooftop ルーフトップ

INTERVIEW

トップインタビュー松本准平(Rooftop2017年10月号)

映画「パーフェクト・レボリューション」
自分の中でも「挑戦」というか「革命」だった。

2017.10.01

 ロフトプラスワンでも古くからイベント主催などで大活躍! 脳性麻痺を抱えながらも障害者の「生」と「性」の支援を続ける熊篠慶彦が企画原案を務めた映画『パーフェクト・レボリューション』が全国絶賛公開中。監督の松本准平さんと俳優の増田俊樹さんに、話を伺った。[構成:小柳元(LOFT BOOKS)]

人間の弱さだけでなく、その向こうにある希望を少しでも描きたい

―今回の映画はこれまでの松本監督の作品とは全く違うテイストのものに仕上がっていました。どうしてそうなったんでしょうか?

松本:理由は二つあります。一つ目は、熊篠さんと出会って、この映画を撮ることになったのですが、与えられた題材が一般的には重く扱われがちなモノだったので、そういう題材は重く撮るよりもポップに明るく撮る方がいいだろうと思い、そういう作品作りをしました。二つ目は、これまで僕は人間の罪とか深い闇のようなものを追いかけた作品をつくっていたのですが、そうした作品に少し行き詰まりを感じていたんです。そこで、そうしたものを追いかけつつもポジティブな作風にチェンジして、こういう題材をやったらどうなるかというのを試してみたかった。その変化は自分の中でも「挑戦」というか「革命」という感じでしたね。

―前の二作と変わらないベース部分はどんなところですか?

松本:僕はやっぱり人間が愛おしくて、そんな人間を深く見つめていたいんです。だから人間のマイナスの部分や弱さは変わらずに描きたいと思っていて、今回の作品でも描きました。またいままでの作品でもそうなんですけど、弱さだけを強調するのではなく、その向こうに希望みたいなものを少しでも描けたらと思っていて、今回の映画ではそれを思いっきりやれたという手応えがあります。

―監督はドストエフスキーが好きで、彼からの影響も作品にとても反映されていると聞きました

松本:そうですね。ドストエフスキーは、人間のことを自分が憎んでいることや、やりたくないと思っていることをやってしまう矛盾を抱えたままの存在として描くんです。人間を一面的に描かないようにするところはとても影響を受けているかもしれません。

 

俺らを障害者と呼ばないで挑戦者と呼んでくれ

―今回、熊篠さんの半生を基に映画化するにあたって、「障害」というテーマと向き合わざるを得なかったと思うのですが、実際そのテーマを扱ってみて、どういう手応えがありましたか?

松本:熊篠さんと初めて会った時、すごい衝撃を受けたんです。障害者って「可哀想」とか「頑張っている人」みたいに社会から捉えられがちだと思うし、僕の頭の中にもどこかそういうイメージがありました。障害者の人たちに性欲がないとはさすがに思っていませんでしたが、ちゃんと考えたことはなかった。だから、熊篠さんと初めて会った時、AVに出演したりして、僕の想像出来ないようなことを色々やってるし、頭脳明晰で喋り方も力強くて衝撃を受けたんです。そういうこともあり、映画では熊篠さんに出会った時の印象をそのまま描きました。大文字の「障害」というテーマに、肩肘はって向き合ったっていう意識は特にないです。

—熊篠さんと知り合ったきっかけはどういったものだったのですか?

松本:数年前、僕はT-JOYという映画会社のグループの制作会社で働いていて、その流れで映画の企画チームに入っていたんです。ただ当時は、漫画とか小説を映画化することが主流だったのですが、そういう企画に行き詰まってしまった。そこで今回の映画で俳優としても出演してもらっている友人の増田さんに相談をしたんです。そうしたら熊篠さんを紹介してくれた。それがきっかけで、今回の作品の製作が始まりました。

増田:僕はロフトの映像部門に所属していた時期もあって、熊篠君とはプラスワンを通じて15年近く交流が続いています。そこで松本監督から企画開発について相談された時、すぐに熊篠君を紹介しようと思ったんです。というのも、当時から熊篠君はメディアに取り上げてもらうことに前向きで、そんな彼の情熱に僕も突き動かされていったんです。

松本:けど、熊篠さんは初顔合わせの日に20分遅れてきましたからね(笑)。

増田:そうでしたね(笑)。でも、熊篠君は遅刻してきたことに苛立っている松本監督に向けて、「僕の夢は立ちバックをすることです!」等々、プラスワンのトークライブでやっている様な下ネタを、東銀座にある映画会社の会議室で平然と喋っていましたよね(笑)。

松本:本当に熊篠さんに初めて出会った時は衝撃的で、彼のことを僕が監督として映画化するのは絶対に無理だなと思っていました。で、プロデューサーとして、何人かにプロット書いてもらったんですけど、熊篠さんのエピソードを社会問題系のテーマに当てはめたものが多くて、熊篠さん本人と付き合ってきた身としては、それは何かベクトルが違うと思った。だから、しょうがないから自分がプロットを書き、結果的に監督まで務めることになりました。

ー今回の映画を製作することによって、松本監督は熊篠さんとさらに深い付き合いになったと思うのですが、熊篠さんはどんな方でしたか?

松本:映画の中でも「受け入れることのプロフェッショナル」という台詞がありましたけど、まさにそうでしたね。あの台詞は熊篠さんが言っていた訳じゃなくて僕がつくったんですが、彼はどんな問題でも独特のユーモアで、うまく昇華してしまうんです。今回の映画製作は本当に色々なトラブルがあって、不安にならざるを得ないことも一杯あった。だから熊篠さんに相談に乗ってもらうことが多かったのだけど、彼はちょっとやそっとじゃ動揺しない。やっぱり一筋縄ではいかない障害を抱えて生まれてきたことは、熊篠さんの寛容さに、大きく関係しているんじゃないかと思っています。

ー熊篠さんの『たった5センチのハードル』という書籍からもとてもインスピレーションを受けたと聞きました。それはどんな所ですか?

松本:『たった5センチのハードル』は、熊篠さんとお会いした後に読みました。読んで一番印象的だったのは、「俺らを障害者と呼ばないで、挑戦者と呼んでくれ」と書いてあるところです。普通の人よりも障害が多い環境で挑戦しているから「挑戦者」と呼んでほしいということなのですが、「なるほどな」と思いました。それがずっと僕の頭に残っていて、熊篠さんの映画をやるんだったら、お客さんに「もう一歩踏み込んで挑戦したい」と思わせるような映画にしなければと思ってました。そんな思いがお客さんに届けばいいなと思ってます。

 

自分が映画を撮り始めた理由を最後まで追いかけたい

ーところで、主人公のクマが恋人のミツを親族の集まる法事に連れて行くシーンがありましたが、あれはリアリティがあって凄いシーンでした。

松本:あれは本当に大事なシーンです。今回の映画は、まず二人の恋愛物語が走り出して、それを阻止するものがあらわれ、それを越えて、また阻まれ、さらにそれを越えて、というのを何回も繰り返すという構造になっています。そのちょうど真ん中、ミッドポイントにあのシーンを配置しました。「愛が深ければ憎しみも深い」なんてよく言われますけど、身内の攻撃は一番枷になるというのを色々な所から聞いていて、そうした話を元にあのシーンをつくったんです。それまである意味お気楽だった二人の関係が、あのシーンを境にガラッと転換して、周りの世界を巻き込んでさらに奥深い関係へと変わっていくというようにしています。

ー増田さんの演じる「親戚のおじさん」も増田さんにピッタリとはまっていて、監督のキャスティング力も凄いなと思いました。増田さんは今回の作品をご覧になられてどう思いましたか?

増田:これまでの松本作品は、気持ち的に負荷のかかる暗くて重い作品が続いていたんです。ところが、今回の作品は突き抜けていて、非常にロックンロールな仕上がりになっています。松本監督は細やかな周辺取材を怠らないので、それらすべてが脚本や演出の血となり肉となっているんですよね。もしも三本続けて重苦しい作品ばかり撮っていたら、せっかくの才能が埋もれてしまうところでしたよね(笑)。

松本:そうですね(笑)。今回この作品を撮る時は、監督としてやるという強い覚悟がありました。子供も生まれたし、自分の生き方も定めないといけない年齢にもなっていた。だから色々悩んで、相当うるさく口も出したし、現場にも迷惑をかけました。

増田:松本監督の現場に参加するのは、ヤクザ役、ホームレス役に続いて三本目なんですが、今までの作品を振り返ってみてもこれだけ恵まれた環境で映画が撮れる若手監督っていないんじゃないかって思うんですよ。でも、映画監督って挫折して痛い目に遭ったりすると、そこから先がさらに面白くなったりもするじゃないですか(笑)。

松本:それくらいやらないと駄目ですよね。まだやり残したことはあるんですよ。個人的には、前の暗い映画の路線でもやりたいことはあるので、自分が映画を撮り始めた理由を最後まで追いかけたいなと思っています。

 

増田俊樹(企画協力/出演)

監督・脚本作「トウキョウ・守護天使」(2007)にて、熊篠慶彦を新興宗教の教祖役に抜擢。今夏、劇場公開された企画・主演作「ベースメント」(2016)では、再び熊篠を違法薬物業者の黒幕役としてキャスティング。

 

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LIVE INFOライブ情報

映画『パーフェクト・レボリューション』

監督・脚本:松本准平(『最後の命』)

企画・原案:熊篠慶彦(著書「たった5センチのハードル」)

出演:リリー・フランキー 清野菜名 小池栄子 岡山天音/余 貴美子

劇中曲:銀杏BOYZ「BABY BABY」(初恋妄℃学園)

エンディングテーマ:チーナ「世界が全部嘘だとしても」(SOPHORI FIELD COMPANY)

制作・配給:東北新社 宣伝協力:ミラクルヴォイス

2017年/日本/カラー/5.1ch/ビスタ/117分/PG-12 

©2017「パーフェクト・レボリューション」製作委員会

 

TOHOシネマズ 新宿ほか全国公開中

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