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クマシノとロフトプラスワン(Rooftop2017年10月号)

熊篠、『年末ナンパ王座決定戦』の王座に輝く

 2003年の夏以降は、加藤と私の連名表記でプロデューサーを担当したオリジナルDVD『完全ナンパ実践講座 ネットナンパ編』の準備やら撮影が立て込み、慌ただしい日々が続いていた。

 撮影現場では、この作品を企画した制作総指揮の平野と、反戦デモのドキュメンタリー撮影を通じて友人となったライターの深笛義也が、お互いの女性観を主張しては一歩も譲らず、論戦を張るといったカオスな状態が続いていた。

 また、カリスマネットナンパ師役として出演する深笛が、出会い系サイトなどで知り合った女性と初めて出会う場面などは、全編ノンフィクションの隠し撮りだったために、追跡する我々スタッフのあいだにも相当な緊張感と忍耐力が要求された。

 私はこのDVD作品の宣伝担当者として、12月12日のリリースと連動させる形で、12月15日に発売記念トークライブを開催することを決めて、厄介な編集作業と並行してトーク出演者との交渉に入っていった。

 

 『完全ナンパ実践講座 ネットナンパ編』発売記念!!

 「魁!ネットナンパ塾 今夜開校!」

 待望のDVD『完全ナンパ実践講座 ネットナンパ編』が遂に発売! 過激派からエロライター、そして作家へと転身した男が語り尽くす援農から援交まで。ナンパ塾塾長との頂上対決も決定!!

 【出演】深笛義也(作家・ネットナンパ師)

 【ゲスト】宮台真司(社会学者)、見沢知廉(作家)、高須基仁(毛の商人)、雨宮処凛(作家)、草加大介(ナンパ塾塾長)、熊篠慶彦(バリアフリー男優)

 

 12月に入ると、ロフトプラスワンと馴染み深い出演者たちから続々と出演承諾の返信をいただいた。その後、加藤から伝えられたさまざまなアドバイスをしっかりと頭に叩き込み、深笛と綿密な打ち合わせを続けた結果、趣の異なる3部構成でトークライブを進行することが決定した。

 第1部のテーマは「ナンパの成功実例集」。ゲストに宮台真司と深笛を迎えて、ざっくばらんにナンパにまつわる実例トークを展開しようと考え、進行は私が担当することに決まった。

 続く第2部は「深笛義也の知られざる横顔」と題して、元新左翼活動家である深笛の過去に詳しい見沢知廉と雨宮処凛をゲストに迎えたクロストークで、進行は深笛自身が担当することになった。

 そして締めとなる第3部は、打ち合わせの際に思わず私が口走ってしまった「ロフトプラスワン年末ナンパ王座決定戦」が採用されてしまい、さらにはプロレス的な発想から深笛の対抗馬を登壇させようということになっていった。

 そこで数々の有名女優を口説き落とし、次々とヘアヌード写真集を出版してきた悪役プロデューサーの高須基仁と、店の常連客を引き連れて歌舞伎町で路上ナンパを試みる人気イベントの主催者、ナンパ塾塾長の草加大介をヒール役として登場させ、私がレフリー的な立場で進行を担当しつつ、最終的には深笛をナンパ王へと誘導してDVDのセールスに結びつけようという流れに落ち着いた。

 ところが、第3部の流れを何度かイメージしてみたものの、DVDのリリースに直結するようなキーワードが一向に思い浮かばずに、事務所のデスクで日々頭を抱えていた。

 

 女優やタレントとの派手な交遊やゴシップ、路上ナンパの必須テクニックや武勇伝をテーマにしたトークバトルの渦中で、ネットナンパの意義や必要性が薄れてしまうのではないかといった懸念が日を追うごとに強くなり、そこをしっかりと補強する出演者の人選を迫られるようになっていった。

 そんな時、なぜか熊篠の顔が頭の片隅に浮かんだ。当時、熊篠の周囲では複数の女性たちが細やかな介助をしており、そんな女性たちの生き生きとした表情に触れるたびに、心癒されたものだった。

 すぐにデスクの電話から熊篠に連絡を取ると、受話器越しにそんな女性たちとの連絡方法を確認した。

 「いや、携帯電話の通話料は高いしさ、早々に外出もできない体なんで、こまめにメールでやり取りしてるよ。店に連れてくる女友達なんかは、みんなボランティアで介助を手伝ってくれるし、プライベートでもよく遊んでくれるんだよね。しかし、本当に便利な時代になってきたよね。僕はさ、時間だけは自由に使えるんでメールの返信なんかもすぐにできるんだよ」

 これだ! と直感して、その場で出演交渉を進めて第3部の追加出演者に熊篠慶彦の名を記したのだった。

 

 ワゴン車の中で目を覚ました熊篠が、現在地を尋ねてきた。

 

 ──もう少しで東京湾アクアラインだよ。今いろいろと過去の記憶を辿ってたんだけど、『年末ナンパ王座決定戦』のことは覚えてるかな?

 「ああ、もちろん覚えてる。宮台さんや草加さん、高須さんも出てたよね、懐かしいな。なんかの間違いで僕が優勝しちゃって、とてもバツが悪かったんだよね」

 ──嘘でしょ、勘違いしてえらく舞い上がってたんじゃないのか。でもやっぱり、宮台さんの実例は男女の機微を上手く言い表していて納得させられたよ。あと、見沢さんの発想や切れ味は独特で、ありゃモテるよね。でも、拍手の数で白黒つけようって話になったら、熊篠の拍手がいちばん多かったよね。

 「あの時は高須さんが面白かったよね。『熊篠くんに決まったおかげで、引きこもりの人やさまざまな障害を苦にして家から出られないような人でも、このDVDを買ったらナンパができるんじゃないかってことを、しっかりとアピールしたよな』って」

 ──購買層を拡張するといった意味では実に正しいよね。高須さんはその昔、玩具メーカーのセールスマンだったから。

 「最後にはさ、『ここはあえて熊篠くんに王座を譲ってあげようじゃないか』って言われたもんね」

 

 このトークライブは出演者の知名度も手伝って大評判となり、熊篠にとっても絶好の自己アピールの場となった。私はイラク訪問団への参加を断念させて以来、どこかで熊篠の確固たる主張を取り上げるチャンスはないものかと機会を窺っていたのだ。

 それだけに、深笛や草加が打ち出すパターン通りのナンパ師像とは真逆の、畑違いで口下手なキャラクターに徹した熊篠に好奇の目が注がれたのではないのかと感じた。そして、高須がアグレッシブな芸能界での女性遍歴を喧伝すればするほど、女性側からのアプローチに受け身でしか応えられなかった熊篠の控え目な発言が、一人一人の参加者にシビアな共感を与えて満場の拍手をもって受け入れられたのではないかと推測する。

 

紆余曲折を経て『パーフェクト・レボリューション』が完成

 これら、ロフトプラスワンへの出演を契機に、ある種の自己実現を確立させていくようになった熊篠は、自ら非営利活動法人を立ち上げて理事長職に就いた。2004年には自身がプロデュースを担当するトークライブ『熊篠福祉専門学校』の企画書を作成し、ロフトプロジェクトに所属する各プロデューサーたちへと持参するようになった。

 平野の発想力と、明晰な企画力によってトークライブというジャンルを見事に確立させていったロフトプラスワンが絶頂期を迎える中、2004年12月には初の系列店となるネイキッドロフトがオープン。この店では、ことあるごとに平野を囲んで加藤や熊篠と深夜まで語り合い、議論が白熱して終電を逃した際には熊篠の運転するワゴン車に同乗し、帰路となる甲州街道沿いのアパート近辺で落としてもらうパターンが幾度も続いた。時を同じくして、私と熊篠の関係性も、新たなパートナーとしての展望を徐々に模索するような時期に差し掛かかろうとしていた。

 

 そして2005年、私はロフトプロジェクトの映像部門から独立した。

 新たに所属することになった芸能プロダクションの担当マネージャーは熊篠の才能を高く評価し、『熊篠福祉専門学校』の活動を献身的にサポート。そんな聡明なマネージャーと制作事業に乗り出し、2007年以降は自身が企画に携わった商業映画が、アップリンクやユーロスペースといったミニシアターで劇場公開されるようになっていった。

 2012年には業界大手のシネマコンプレックスチェーン運営会社で配給業務に携わる松本准平からの依頼を受けて、シネコンでの全国劇場公開を視野に入れた作品の企画開発から配給宣伝まで、依頼案件に応じた営業に粉骨砕身していた。そんな最中、東銀座のオフィスを訪ねてきた熊篠を、企画開発担当の松本に引き合わせたことがきっかけとなって、『パーフェクト・レボリューション』の企画が動き出すことになった。

 その日を境にして、志を同じくする松本と熊篠の執念によって映画化へと突き進んでいった経緯を、お世話になった多くの方々に知らせなくてはとの思いがクランクインを前にして日増しに大きくなっていった。

 

 スマートフォンに表示された時刻を確認すると、すでに22時を過ぎていた。海中トンネルを抜けて川崎の工場地帯を走行するワゴンの車内では、決して活字にできないような熊篠のプライベートな告白に及んでいた。

 それはまさに、『パーフェクト・レボリューション』の脚本に描かれたストーリーと重なる時期の出来事だった。私は同行取材の終了を東京湾アクアラインの入口で告げて、同時にICレコーダーの電源を落とした。

 海中トンネルに浮かび上がるカクテル灯や、車窓に流れる工場地帯の美しい電飾を眺めながらの切迫した告白は、そこはかとない無情感を呼び覚ましていった。私は武蔵小杉駅で降車した後も、そのような感覚を拭い去ることができなかった。現実は映画のストーリーとは違って少しばかり残酷なのだ。

 

 2017年6月15日、『パーフェクト・レボリューション』の関係者が参集して初号試写が開催された。

 満席となった試写会場には原案者の熊篠慶彦、松本准平監督を始めとするオールスタッフ、リリー・フランキーを主演に据えた主要キャストとともに、本書の制作に尽力されたロフトプロジェクトの加藤梅造社長、ロフトブックスの椎名宗之編集長、そしてロフトプロジェクトのオーナーである平野悠の姿があった。

 

 本書ならびにさまざまなメディアを通じて熊篠慶彦の実存が人々の心に残ることを願いつつ、いつもながらの距離感で今後の彼の活動を見届けたいと思う。

 

『パーフェクト・レボリューション』企画協力/東海林二郎役 増田俊樹

たった5センチのハードル 1969-2017

熊篠慶彦 著
四六判 / 並製 / 248ページ
本体1,600円+税
2017年10月13日(金)発売
発行・販売 ロフトブックス

身体に障害があってもセックスや恋愛を楽しみたい!!
脳性麻痺を抱えながら身体障害者の「性」と「生」への支援活動を続け、リリー・フランキー主演映画『パーフェクト・レボリューション』の企画原案もつとめた熊篠慶彦の常識を覆すライフストーリーが新章を加えて堂々の復刊!

映画『パーフェクト・レボリューション』

出演:リリー・フランキー 清野菜名 小池栄子 岡山天音 / 余 貴美子 ほか
監督・脚本:松本准平 企画・原案:熊篠慶彦
TOHOシネマズ新宿ほか全国劇場にて絶賛公開中
©2017「パーフェクト・レボリューション」製作委員会

自身も脳性マヒを抱え、障がい者の性への理解を訴え続ける活動家・熊篠慶彦の実話に基づく物語を、リリー・フランキー主演で映画化。
幼少期に脳性マヒを患い、重度の身体障がいがあるクマ。自身もセックスが大好きなクマは、障がい者にとっての性への理解を訴えるための活動を、車椅子生活を送りながら続けていた。
そんなある日、クマは人格障がいを抱えた風俗嬢のミツと出会う。恋に落ちた2人は、幸せになるために究極の愛に挑んでいく。
主人公のクマ役をリリー、ミツ役を『TOKYO TRIBE』の清野菜名が演じ、小池栄子、岡山天音、余貴美子らが脇を固める。
監督は柳楽優弥主演の『最後の命』などを手がけた松本准平。