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クマシノとロフトプラスワン(Rooftop2017年10月号)

イラク訪問団への参加を表明したものの……

 2000年代前半のロフトプラスワンでは、リリー・フランキーが一日店長を担当する『スナック・リリー』が爆発的な人気を呼び、シリーズ当初の予想をはるかにしのぐ動員を記録していた。そんなリリー・フランキーの活動にメディアも注目し、それと同時にロフトプラスワンの知名度も上昇して、サブカル的な展開も話題となっていった。

 70年代のロック文化を席巻した新宿ロフト時代から、バンドマンに対して何かと辛辣な意見の多かった平野でさえ、リリー・フランキーのトークセンスには舌を巻き、マスコミ的なブレイクを早くから予感していた。

 私がロフトプロジェクトの映像部門で働くようになって間もない頃、『スナック・リリー』の終演時間を見計らって、楽屋へと挨拶に向かったことがある。ところが、深夜四時近くになっても壇上のトークはまったりと続いていて、終わる気配がない。しばらくすると、リリー・フランキーが壇上を降り、客席へとなだれ込んだところに何とか割り込んで挨拶はしたものの、熱心な女性ファンから睨まれて即座に退散となってしまった。

 そんな刺激的なトークライブが当時のロフトプラスワンでは目白押しだった。ロフトプロジェクトに所属するプロデューサーや、店側と共存する外部プロデューサーが15名以上は存在して、各自が世の中の動きと連動する企画を考えては早々に実行に移していった。

 『スナック・リリー』の場合も常連客や仕事仲間からたびたび評判を聞いていたので、少しでも自らの企画につなげられないものかと考えつつ、何度となく通った。

 だが、良くも悪くも一日店長と担当プロデューサーの関係性は強固であり、そのつながりに横車を押してまで、他のプロデューサーが直接担当する人気者を自らの企画へとひっぱり込むような交渉は難しかった。

 それゆえに、新宿区富久町でのオープン当初から平野自らが担当し、加藤へと引き継がれていった数々の現場を慎重に補佐しつつ、加藤との協力関係を最大限に活かせるテーマを企画していった。

 当初は困難だと思われた交渉やブッキングが、平野という先達の知己を得て次々と実現していった。若松孝二、鈴木邦男、宮崎学、宮台真司、塩見孝也、高須基仁、そして石井一昌まで、プロデューサー修業時代にトークライブを担当させていただいた方々からは、その生き様や思想、揺るぎない行動原理に至るまで多くのことを学ばせていただいたのだが、これらすべては平野によるお膳立てがあってこその企画なのだという事実を、ここに改めて記しておきたい。

 

 そんな目まぐるしい日常の中で、休日や祝日になれば必ずと言っていいほど反戦デモの撮影に出かけていった。前年に、店の常連客と連れ立って参加した牧歌的なピースパレードの頃とは大きく様変わりし、切実な時代背景が反映された巨大な反戦デモに変容していく過程をつぶさに目撃した。膨張するデモの形態、切迫する関係者のアジテーション、さらには警官隊と参加者の小競り合いに飛び込んでいく取材スタイルが、ライフワークのようになっていった。

 2002年の秋以降は、開戦を煽るかのような過剰なマスコミ報道が影響し、ロフトプラスワンでも反戦を訴える内容のトークライブが、危機感を募らせた加藤によって随時企画されるようになっていった。

 

 吠えるサンコー

 「米イラク攻撃は是か非か?」

 イラクは悪の枢軸/ならず者国家か? こうなったらイラク人に直接聞いてみよう。

 【出演】木村三浩(一水会代表)、アブドル・ワッハーブ 他、イラク人パネラー

 

 11月11日に開催された新右翼・一水会代表である木村三浩のトークライブは、店の常連客や活動家の友人たちも数多く来店する人気イベントだった。

 正直、その日の参加は仕事が立て込んでいたこともあって、どうしようかと迷いはしたものの、民族派の過激なトークライブを幾度か担当していたこともあって、百人町にあるロフトプロジェクトの事務所を出たその足で、歌舞伎町のホテル街を突っ切ってロフトプラスワンへと急いだ。

 PAブースの近くにいる加藤に挨拶をすると、それまでの論調を分かりやすく伝えてくれた。

 政権の中枢を担うバース党と密接なパイプを築いた木村は、さまざまな情報網からもたらされる最新情報や、独自に分析したイラク政府の内情、バクダッド市民の持つ反米感情を興味深く解説していった。そんな木村から突如指名されて、ステージに登壇するよう手招きされてしまった。

 

 「最近、新左翼がやってる反戦デモのドキュメンタリーを撮ってるんだって?」

 ──ええ、平野さんや梅造さん、店の常連客たちと毎週どこかの反戦デモに出かけては撮影しています。

 「ならば一度、私と一緒にイラクに渡って、バクダッド市内を撮影してみませんか? 新左翼のデモばかりじゃなく、もっとスケールの大きなテーマに挑戦しないと」

 ──それは面白そうですね。ぜひ行ってみたいんですけど、ロフトの機材を使っての撮影となると、会社に確認を取らなければなりません。一度相談してからすぐにお返事します。

 「もちろん、私も平野さんに会って早々にお話しするつもりでいます」

 

 客席の一水会関係者や右翼活動家から一斉に、「行けよっ増田、男だろ!」といった野次が飛び交って場内が騒然となったので、「わかった。すごいのを撮ってくるんで、みなさんお楽しみに」と告げて壇上を降りた。

 平野は即座に渡航を表明。そして、ロフト側で有志を募ってイラク訪問団を結成するといった話にまで膨らんでいった。

 ロフトプロジェクトが管理運営するインターネット掲示板、平野悠BBS『おじさんとの語らい』に、私が事の成り行きを明らかにした経過説明を掲載した途端、各方面からの参加表明が続々と投稿され、イラク訪問団の話題で連日持ちきりとなっていった。

 そんなある日、予期せぬ出来事が起こった。

 『おじさんとの語らい』を閲覧していた熊篠から、イラク訪問団への参加を表明する内容が投稿され、事情を知る一部の関係者が困惑してしまったのだ。

 そんな渦中の11月26日、熊篠は自ら出演したアダルトビデオを題材としたトークライブに出演し、それらのメッセージを客席へと散りばめていった。

 

 日本映像史上初の快挙!

 「障害者の性(SEX)〜性のバリアフリー〜」

 障害者にも性欲があるということを訴えてきた熊篠慶彦がプロデュース・出演したアダルトビデオが発売された。障害者とセックスについて、オープンに語り合おう!

【出演】熊篠慶彦、宮台真司、酒井あゆみ、JINN THE M.C. 他

 

 影響力の強い人物や集団から直接的な刺激を受け、自ら行動するといったパターンは往々にしてある。

 熊篠は2001年の夏から連続してロフトプラスワンへの出演を果たし、数多くの観客を前に自らの主張を述べるようになっていった過程でさらに空気が入ってしまい、以前にも増して社会参画への思いが強くなっていった。

 しかし、熊篠は四肢の痙性麻痺を抱える身体障害者であり、電動車椅子がなければ歩行できない体なのだ。

 年明けには、イラク訪問団の記者会見がロフトプラスワンで予定され、木村三浩、鈴木邦男、雨宮処凛、塩見孝也、PANTAら訪問団参加者の言動がマスコミを賑やかしているタイミングだった。

 私は熊篠が来店する際に、事の真意を問い質そうと店で待ち構えていた。

 

 「言いたいことはわかってるよ。でも、決めたことだから何を言っても無駄だよ」

 ──向こうは先進国のバリアフリー状況とは比べ物にならないほど不便だと聞いている。往復の飛行機代だって必要だ。それに、こっちが撮影しているあいだは介助できないだろ。

 「お金だったら用意するよ。増田さんが忙しいんなら、別の誰かと一緒に行動するから」

 ──とにかく人の言うことを聞け。こっちは仕事で行くんだよ、今回ばかりは遊びじゃないぞ。

 「僕だって遊びのつもりじゃないよ。世界平和のために、命懸けで戦争を阻止しようとしてるんだ」

 

 後日、私からの厳しい言葉をきっかけに考えを改めたという熊篠は、どこか吹っ切れたような笑顔を浮かべながら、意気消沈した様子を決して周囲に見せようとはしなかった。

 

 その後、イラク訪問団は2月13日に記者会見を行ない、15日に成田を出発した。アムステルダムを経由してアンマンにて一泊、広大なシリア砂漠を15時間ほど走破してイラク国境を越え、バグダッド市街へと到着した。

 翌日の早朝から、木村と一水会顧問である鈴木邦男の両名に同行してバグダッド市内での反戦デモを撮影し、その後も大学、病院、美術館などを巡り、バース党による「イラクへの戦争と侵略に反対する国際会議」が行なわれた広大な会議場内を撮影。公式行事の合間を縫って、タクシーでバグダッド市街のマーケットや建築現場を訪れては、市井の人々とのさまざまな交流を記録。ところが、精力的に活動していた平野が突如腹痛の症状を訴えて数日間寝込んでしまったり、相棒の写真家がイラク軍の施設近辺を取材中、軍関係者に拘束されてしまうといった不測の事態を招き、常にハプニングが絶えなかった。

 1週間ほど滞在した後、訪問団全員が無事帰国。そして、3月4日にロフトプラスワンで開催される『イラクの現在、最新報告!』でのドキュメンタリー上映に合わせるよう、私は編集作業へと没入していった。

 

 「武井さんや監督から前列に出されちゃってさ。リリーさんが真ん中にいてちょっと恥ずかしかったな」

 ──いやいや、本当に今日はお疲れさまでした。だけどさ、熊篠は馬面だから俳優部より目立っちゃったんじゃないのかな。そうそう、ついでに僕まで集合写真に入れてもらっちゃったよ。

 「そりゃ当然でしょう、この映画のキャストなんだからさ」

 ──そうなんだよ。さっきワゴンに乗り込もうとしたら、監督が飛んできたんで何かと思ったら、12日は出番なんで頑張ってくださいねって。

 「さすがは松本監督。そういったところは気が利くんだよね」

 

 集合写真の撮影を終えて送りのワゴン車に乗り込んだ私たちは、撮影現場の緊張からようやく解放された安心感から饒舌になっていた。

 真冬の厳しい撮影も、残すところ残り3日間で無事クランクアップを迎えることになっていた。私は12日の静岡県小山町のロケ撮影に俳優部として参加し、熊篠は13日の川口リリアパークのロケ撮影に駆けつけて、監督やリリー・フランキーとともにクランクアップの瞬間に立ち会いたいと考えていた。

 疲れた表情の熊篠が少しばかり目を閉じた様子が窺えたので、私はイラク渡航以降の記憶を探ることにした。

 

たった5センチのハードル 1969-2017

熊篠慶彦 著
四六判 / 並製 / 248ページ
本体1,600円+税
2017年10月13日(金)発売
発行・販売 ロフトブックス

身体に障害があってもセックスや恋愛を楽しみたい!!
脳性麻痺を抱えながら身体障害者の「性」と「生」への支援活動を続け、リリー・フランキー主演映画『パーフェクト・レボリューション』の企画原案もつとめた熊篠慶彦の常識を覆すライフストーリーが新章を加えて堂々の復刊!

映画『パーフェクト・レボリューション』

出演:リリー・フランキー 清野菜名 小池栄子 岡山天音 / 余 貴美子 ほか
監督・脚本:松本准平 企画・原案:熊篠慶彦
TOHOシネマズ新宿ほか全国劇場にて絶賛公開中
©2017「パーフェクト・レボリューション」製作委員会

自身も脳性マヒを抱え、障がい者の性への理解を訴え続ける活動家・熊篠慶彦の実話に基づく物語を、リリー・フランキー主演で映画化。
幼少期に脳性マヒを患い、重度の身体障がいがあるクマ。自身もセックスが大好きなクマは、障がい者にとっての性への理解を訴えるための活動を、車椅子生活を送りながら続けていた。
そんなある日、クマは人格障がいを抱えた風俗嬢のミツと出会う。恋に落ちた2人は、幸せになるために究極の愛に挑んでいく。
主人公のクマ役をリリー、ミツ役を『TOKYO TRIBE』の清野菜名が演じ、小池栄子、岡山天音、余貴美子らが脇を固める。
監督は柳楽優弥主演の『最後の命』などを手がけた松本准平。