Rooftop ルーフトップ

INTERVIEW

トップインタビュー成宮アイコ×石丸元章(Rooftop2017年10月号)

初書籍『あなたとわたしのドキュメンタリー』を刊行! あなたを人生の当事者にしたい。

2017.10.01

詩に自分自身のことはあまり書いていない

石丸:ライブの場でもそれをメッセ―ジして、お客さんが全員当事者になってました。凄い力でしたよ。ステージ上から強い目線が飛んできて、お客さん一人ひとりと目をあわせて、みんなに「あなたのことだよ」ってずっと突きつけてるんだから。あんな風に、ライブでここまで強く自分を確認をする経験って今までなかったんじゃないかな。

成宮:新潟に住んでいたころのわたしは、行きたいイベントになかなか参加できなかったんです。だから、やっと現場に行けた日は、自分が存在しているっていうことを感じられたんです。だから、来てくれている方にも同じ気持ちの人がいるかもしれないと思っていて。

石丸:うんうん。

成宮:一人ひとりと、「ちゃんとあなたは生きています、だからわたしはあなたが見えます」っていうのを体感しあいたいんですよね。読んでいる詩も、SNSで「死にたい」って検索して、いろんな人の死にたい理由を読んで書き始めたり。自分のことはそんなに書いていないんです。

石丸:本にも書いてあるけど、朗読詩のヒントをSNSに探すっていう――その話は面白かったな。ひとつの創作論ですよね。テーマに対して自分の気持ちだけを書いていくわけじゃなくて、SNSを舞台に、いわゆるマーケティングをしていくわけですよね。その手があったか! と思って、真似しようと思ったもの(笑)。その中で他人と自分が重なるところを模索しながら作っていく。

成宮:SNSのいいところは気軽にみんな呟けるから、「死にたい」という言葉ひとつを検索しても、「明日テストつらたん、死にたい〜」や「次の仕事が決まらない、死にたい」が入り乱れて同列で並んでいるんです。現実もそうですよね。だから以前はネイキッドロフトっていう路面店でライブをしていたんです。あの店舗って、お店の外を歩く人の会話が聞こえたり、救急車がマイクをかき消したりして、そういう雑踏の中でやるのが好きだったんです。言葉が聞き流せちゃう感じがすごくいい。

石丸:ちゃんとそういう空間をライブで作っているのがすごいと思いました。あのスタイルは自分で作り出したの?

成宮:一緒にライブ活動をしてきた葛原りょうという詩人がいるんですけど…詩は天才的なのにワンマンライブの日に強制入院になっちゃったりするような…(苦笑)。

石丸:ワンマンの日に強制入院! それはすごい。

成宮:まあ…ずっと友人なんですけど、彼が黒い紙に自分の詩を書いていて、「アイコちゃんは赤だと思うよ」って突然赤い紙を買ってきて、「これ持って!」って。自分の意図があったわけじゃないんですけど、しっくりきてそれからずっと赤紙を使っています。

石丸:でも朗読中は、紙ではなく客席を見てますよね。きっと、詩はほとんど記憶してるんだろうけど、それでも紙を持って“朗読”というスタイルをとっているのが良いと思いました。「これはフリースタイルではなく、自分を静観して書き落とした言葉です」っていう宣言でもある。そして読み終わった紙を次つぎに放り投げていく。言葉って大事にしたいけど、流れて消えていくものであることを表してますよね。

成宮:会話もそうですし、SNSもそうですもんね。

石丸:「言葉ってこういうものだと思う」ってアイコちゃんの考えが、ライブパフォーマンスにしっかり表れてました。

成宮:わたし、声がキモいと言われてきたから人とあんまり話せなくて。そうすると書くしかないから、5種類くらい日記を書きまくってたんです。そしたら、「書くよりもほんとうは会話がしたいのに!  だけどこの手段しか残されていない!」って、言葉に対する気持ちが愛憎みたいになっちゃって。あとは、来てくれた人が今日その場にいたっていう証を作りたいので、赤紙はライブ後に全部自由に持って帰ってもらっているんです。

石丸:ねぇ。いまアイコちゃんが朗読していた詩が、次の瞬間パッと宙を舞い、お客さんはそれを持って帰れるという。

成宮:来てくれた方がライブ後に「(詩の)この部分を拾いました」って画像をSNSにアップすると、全然知らない人同士が「その続きわたしが持っています」ってアップしていたりして、あれはすごく嬉しいです。あなたもわたしもまだ名前も知らない人も、全部世界は地続きなんだよって大声で言いたいんですよね。

石丸:地続き、ほんとにそうね。

成宮:あなたが生きてきたことって超すごいぞって言いたいから。でも証って見えないものだと嫌なんですよ。見えないものこそ大事っていう理論もわかるんですけど、わたし自身がメンタル問題で自分が存在している感覚がすぐ抜け落ちちゃうので、手にとれる・目にみえるものじゃないとだめっていう気持ちが強くて。

石丸:自分もそうだし、多くの人はそうだと思うな。あと、せっかくライブに来たんだから、記憶だけじゃなくて、何か持って帰りたいもの。言葉をモノとして持って帰れたらうれしいよね。

成宮:定番でやっている「あなたの言葉を叫びます」っていう企画にいたっては、人の投稿を読んでいるだけですし。詩も自分が言われたい言葉を言っているだけだったり、エピソードを募集をして書き換えて詩にしたものもあるし…いろんな現実をまるめてお団子を作っている感じです。

石丸:アイコちゃんなしには作れないお団子だと思いますよ。初めてライブを見たときほんとうにびっくりしたんだから。
 

みちしるべ.jpg

活動は波乱万丈…

石丸:最近はもう、テレビも新聞も取材に来て、ずいぶんメディアでも取り上げられてますよね。

成宮:うーん…最初の頃、ジャニーズの嵐の番組で櫻井さんが取材に来てくださったんですけど、当時はわたし自身やっと生きている状態だったので、世の中の事情が全然わからなかったんです。浦島太郎状態。だから、「はじめまして、櫻井です」って言われても「嵐さんは来なくなったんですか?」って悪い意味で周りがザワっとなったりして、今となってはめちゃくちゃ惜しいです。ちゃんと顔を見ておけばよかった…。

石丸:もったいない!(笑) 地方のライブもずいぶんやってますよね。そうしたことの積み重ねは大きいよね。

成宮:学生さんや当事者の方が呼んでくださることもあって有難いです。メンタルに問題があると、「〜したい」って思う気持ちってほんとうに重要だから、できる限りどこにでも行きたいんです。

石丸:YouTubeの活動も重要ですね。

成宮:本も買ってもらえたら一番嬉しいですけど、お金がない! っていう人には貸してもらえたら嬉しいし、図書館で無料で読んでもらえたら嬉しいし。同じようにYouTubeで無料で見て、いつか現場に行きたいって思ってもらえたら、「〜したい」っていうきっかけになるかもしれないし。

石丸:YouTube…ねぇ、消された事件があるとかって聞いたけど(笑)。

成宮:ああ…。…なんか、自分のアカウントにアクセスしたら、なくて。…不健全コンテンツのためアカウント停止っていうメールが来ていて。

石丸:不健全?! ライブが?

成宮:死なないでほしいっていうことや、死なないために、「死にたい」って小出しにすることの何が不健全なんだろうって思って、ライブで各地に行くたびにMCでYouTubeの文句を言ってたんですよ。そしたらお客さんがiPhoneで撮影してアップしてくださったり、ダウンロードして保管してたから使ってくださいって動画を送ってくださったりして。結果、最初より増えたからいいんですけど。いいんですけど…いや、全然よくないですけど…!! 

石丸:まあ…アイコちゃんのステージは、けっこうちゃんと毒舌ですからね、ははは。でもそういう出来事も良いですよね。

成宮:良くないですっ(笑)。

 

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出版社:書肆侃侃房

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巻末に雨宮処凛との対談収録

LIVE INFOライブ情報

『釜ヶ崎ソニック2017』
10月8日(日)釜ヶ崎三角公園(大阪西成区)
編成:成宮アイコ 朗読3ピース
 
『おんがくのじかん8周年記念ライブ』
10月14日(土)おんがくのじかん(東京都三鷹市)
編成:成宮アイコ(朗読)+青山祐己(pf, vo)
 
「あなたとわたしのドキュメンタリー」刊行記念トーク&ライブ
10月21日(土)新潟北書店
編成:成宮アイコ(朗読)+いかし(ふともも自殺)
 
こわれ者の祭典15周年+NAMARA20周年記念イベント
11月5日(日)新潟福祉会館ホール
 
ThreeQuestions‏・成宮アイコ朗読バンド 2マンライブ
11月18日(土)下北沢ろくでもない夜
編成:成宮アイコ(朗読)+青山祐己(pf, vo)+Mr.tsubaking (Dr)
 
こわれ者の祭典15周年記念
12月2日(土)ロフトプラスワン
 
※イベント詳細は全てこちらのサイトでご確認ください
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