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INTERVIEW

トップインタビュー谷ぐち順[Less Than TV 主宰 / FUCKER](Rooftop2017年8月号)

天衣無縫のアンダーグラウンド・レーベル「Less Than TV」主宰・谷ぐち順の家族と仲間たちの姿を追ったドキュメンタリー映画『MOTHER FUCKER』、堂々の完成!
はみだし者たちを惹きつける型破りなレーベルとパンクな家族の底知れぬ魅力とは一体何なのか!?

2017.08.01

一本筋の通ったLess Than TVらしさの根源

──出演する大量のバンド、縁の深い人たちが谷ぐちさんやLess Than TVについて語っていますけど、分かったようで分からない部分もいまだにあるんですよね。これまでLess Than TVを実質的に切り盛りしてきたのはタカヒロさんや本間さん(本間則明/nemo、SiNE)だったり、谷ぐちさんは肝心な時にワカサギ釣りに出かけてしまったり(笑)。それでもやっぱりLess Than TVの顔であり象徴は谷ぐちさんなんですよね。主宰の存在感が希薄かと言えば全然そんなことはないし。

谷ぐち:どうなんですかねぇ。そもそもレーベルの顔みたいな感じになるのは本意じゃなかったんですよ。自分の顔をデカデカと載せたポスターを作っといてナンですけど(笑)。Less Than TVは作った当時からみんなでやっていくもので、誰が代表ってわけでもなかったんです。今は俺が代表ってことになってますけど、最初は絶対にイヤだったんですよ。あと、レーベルの基本方針として、所属バンドみたいなものはない。レーベルとバンドが音源を作る上でいいものができると思ったらやる。そのバンドが他のレーベルのほうがいいと思ったらそこでやってもらう。そういうスタンスをみんなで共有していたんです。あくまでみんなでやっていくレーベルだから。実際、俺一人がリリースにOKを出してるわけじゃないし、みんなが「いいっすね!」とOKを出した上でリリースしてるんです。だから俺はLess Than TVの顔じゃないんですよ。顔じゃないんだけど、何なんだろうなぁ…なんで俺、「代表」って名乗ったんだろう? フェイスブックのプロフィール欄に「代表」って項目があったのを何となく選んだのかな?(笑) でも、俺がLess Than TVの代表になったことでいろんな人たちが迷惑したんですよね。

──そうなんですか?

谷ぐち:迷惑してますよ。いつも口だけの無責任なんで(笑)。俺の場合、「レーベルやりませんか?」って誰かに言われたら「いいっすね、やりましょう!」って答えるんですよ。自分に言われても困るけど、とりあえず「いいですよ」って答えとくか、みたいな(笑)。

──でも、谷ぐちさんがそこまで無責任だったからこそ周りの人たちが「これは放っておけないぞ」と手を差し伸べて、Less Than TVがここまで続いたとも言えませんか。仮に谷ぐちさんが引退しても、誰かが二代目主宰を襲名してLess Than TVは続いていくでしょうし。

谷ぐち:二代目襲名もいいなと思うんですよ。そういうレーベルってあまりないじゃないですか。

サブ_2.png──パンク、ハードコアを主軸にしながら、近年ではランキン・タクシーのようなジャパニーズ・レゲエのパイオニアのリリースもあったし、Less Than TVはジャンルを超越した作品を発表し続けていますが、それでもどこかLess Than TVらしさがあると言うか、どの作品にも一本芯の通ったものを感じますよね。

谷ぐち:何かありますよね。それが何なのかはよく分からないけど、リリースに関して言うと、俺は意外とNGを出してるんですよ。そのNGを出す部分がもしかしたらLess Than TVらしさにつながってるのかもしれない。俺は「こういうのはイヤだからこうしたい」っていうのばっかりなんです。ほぼ全部そうなんですよ。「こういうレーベルのやり方もいいとは思うけど、俺は絶対にイヤだな。じゃあこうしよう」みたいな、カウンター的な感じって言うか。それがパンク的なのかは分からないけど、そういう感覚が自分の中にあるんです。

──映画を観ると、VOGOSやMILKといった新進気鋭バンドの存在感が強く印象に残りますね。それはつまり、新しいバンドを見つけ出す谷ぐちさんの嗅覚、アンテナが全く錆びていないことを表しているんじゃないかと思って。

谷ぐち:それは若い人たちにレーベルを手伝ってもらってるからですよ。感性は絶対に錆びます。もう錆びてます(笑)。昔ほど新しい音楽をチェックできなくなってるし、子どもを中心にした生活になってるし、音楽に割く時間や行動範囲が凄い狭まってるから、それを補うためにどんどん若い人たちと友達になって新しいことをやってるんです。いまLess Than TVを一緒にやってるDEATHROとも俺はまた世代が違うから、「今度は黒川くん(黒川幸祐/VOGOS)も『METEO NIGHT』のバンド・セレクトに入れたほうがいい」っていうアイディアを彼が出してくれて、「そうだよね」ってことになるんだけど、そういうことをしていかないと絶対に回っていきませんよね。若い世代とは聴いてきた音楽とかパンクに対する美学が違うから、正直、「ああ、こういう感覚は俺にはないなぁ…」ってことだらけなんですよ。それって要するに錆びてるってことだと思いません?

 

音楽は一生やめないと思う

──だけど、谷ぐちさんには見ず知らずの若いバンドや異ジャンルの輪の中に果敢に飛び込んでいく行動力があるじゃないですか。いつの間にか自分のペースに巻き込む力技と言うか(笑)。

谷ぐち:錆びてはいるけどチャレンジしていく行動力はあるんでしょうね。たとえばリミエキとスプリットを出したことのあるハバナイ(Have a Nice Day!)にしても、彼らのオーディエンスにアピールしたい気持ちは全くないんです。ただそういうヤツらと一緒に音楽を作る作業をしてみれば刺激になるんじゃないか、ってだけなんですよ。ハバナイの曲を聴いて、自分のセンスだったらこういうアレンジにするかなとか思えたから「スプリットを作りませんか?」って誘ってみたんです。

──一緒に何か面白いことができるんじゃないかという好奇心が尽きないんでしょうね。

谷ぐち:好奇心はあるっすね。錆びたくないとも思ってるんですけど。そしたらこないだ、真二(増子真二/DMBQ、BOREDOMS)に投げかけられたんですよね。「老害と若作りはどっちが恥ずかしい?」って。[註:OTOTOYに掲載された、谷ぐち×増子×吉田肇(PANICSMILE)によるアラフィフ対談] 俺は老害になるのを絶対に避けるために錆びないようにやってきたけど、自分のやってきたことは若作りだったのかな? とか思って。そこは凄く難しいところで、若い人たちの話に入ろうと思っても笑いのセンスとかも違うから、自分がちょっと浮いた感じになったりするんですよ。

──映画を観ていると谷ぐちさんの前歯があったりなかったりするのが気になるんですが、前歯を入れているのは谷ぐちさんなりの若作りなんですか?(笑)

谷ぐち:あれは取れたり入れたりしてるんですよ。映画のポスターの写真も歯がないですよね。今も入れてないんですけど、それは映画の宣伝を兼ねてるんです。映画をアピールするために歯医者にもプロモーションしようと思って(笑)。まぁそれはともかく、若い世代から若作りとか老害とか思われたくはないけど、間違いなく刺激はもらえてますよね。

サブ_3.png──若い世代にとっても谷ぐちさんなりLess Than TVは刺激となる存在じゃないですかね。四半世紀にわたって型破りなことをやり続けている上の世代がいるというのは励みになるでしょうし。

谷ぐち:逆ですよ。「なんだよ! Less Than TVなんて別に大したことねぇじゃねぇかよ!」くらいの勢いで来る人ばっかりだから、そんな連中の前で「ちきしょう! こいつらには絶対に負けられねぇぞ!」ってこっちのモチベーションが上がるのがいいんです。

──なるほど。ただ、子ども中心の生活でも音楽活動を決して疎かにしない谷ぐちさんとYUKARIさんのライフスタイルから下の世代が学べることはたくさんあると思うんですよね。

谷ぐち:そうだったらいいですね。ワカサギ釣りから帰ってきた時の自分は、まず第一に家族との生活をちゃんと大切にしようと思ったんです。そうしないとすぐ大切にしなくなるタイプなので(笑)。でも、今の生活のペースで音楽をやり続けていられるのは、YUKARIがもの凄くしっかりしてるからじゃないですかね。俺は嫁さんに怒られないと創作に関するスケジュールが回せないんです。いつもギリギリのスケジュールまで手をつけないタイプなんだけど、夜中にYUKARIがベースを猛練習しているのを見ると、ちょっと気まずくてギターを持ったりするんですよ(笑)。そういうプレッシャーみたいなものがないと曲はできませんね。

──そうやって尻を叩かれることがあってもずっと音楽を続けているのは、やはり飽きがこないから、やめる理由がないからなのでは?

谷ぐち:そうですね。音楽は一生やめないと思ってます。まぁ、俺がそんなことを言っても何の説得力もないから意気込んでるようには見えないでしょうけど、たぶん音楽はやめないと思うんですよ。

──これまで一度もやめようと考えたことはなかったですか。

谷ぐち:ライブをやめようと思ったことはありますね。っていうのも、共鳴がチックを疑われるような仕草をするようになったことがあるんです。それも2回、ツアーの最中に起こったんですね。いろいろ調べてみて、ライブに同行させることで目に見えないストレスみたいなものが原因なんじゃないかと思った時に、ライブはもう全部やめようと思ったですね。それでも音楽をやめるつもりはないから、これからは宅録でいこうかなって。フォークだったら宅録でもいけるし、俺がFUCKERとして自宅録音で定期的にリリースするっていうスタイルに変えればいいと思ったんですよ。幸いなことにチックの兆候も消えたのでライブを続けられてますけど、何か支障があれば何らかの違う形でやれることをやるだけの話なんですよね。共鳴のことももちろん心配だったけど、FUCKERのライブを一切やらない宅録スタイルも超格好いいじゃん! とか思ったし(笑)。

 

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映画『MOTHER FUCKER』

出演:谷ぐち順、YUKARI、谷口共鳴 他、バンド大量
監督・撮影・編集:大石規湖
企画:大石規湖、谷ぐち順、飯田仁一郎
制作:大石規湖+Less Than TV
製作:キングレコード+日本出版販売
プロデューサー:長谷川英行、近藤順也
1.78:1/カラー/ステレオ/98分/2017年/日本
配給:日本出版販売
© 2017 MFP All Rights Reserved.
8月26日(土)〜9月8日(金):渋谷HUMAXシネマ
9月9日(土)〜9月15日(金):シネマート心斎橋
9月16日(土)〜9月22日(金):シネマート新宿
9月23日(土)〜9月29日(金):名古屋シネマテーク
9月30日(土)〜10月6日(金):広島・横川シネマ
10月21日(土)〜10月27日(金):仙台・桜井薬局セントラルホール
10月28日(土)〜11月3日(金):京都みなみ会館
にてそれぞれレイトショー公開

Less Than TV 25周年記念写真集
I ACCEPT ALL

仕様:B5変型(170mm×230mm)/328頁/ハードカバー(予定)
価格:本体3,500円(予定)
ISBN:978-4-908749-03-2
版元:TANG DENG
書店発売日:2017年8月14日(月)
*『METEO NIGHT 2017』および写真展『I ACCEPT ALL』にて先行販売

“Less Than TV×Dickies”コラボアイテム

Dickiesの定番である874ワークパンツ、極太のダブルニーワークパンツ、極太ショーツ、Tシャツの4種類。すべてLess Than TVのロゴがプリントされたDickies社による正規コラボ商品。

■874 WORK PANT(874 ワークパンツ):6,500円 / BLACK・KHAKI / 30・32・34・36インチ
■85283 DOUBLE KNEE WORK PANT(85283 ダブルニーワークパンツ):7,000円 / BLACK・KHAKI / 30・32・34・36インチ
■42283 13’ MULTI-POCKET WORK SHORT(42283 13インチマルチポケットワークショーツ):6,000円 / BLACK・KHAKI / 30・32・34・36インチ
■TV T-SHIRT:3,000 円 / BLACK・WHITE / S・M・L・XL
*価格はいずれも税込み。『METEO NIGHT 2017』の会場で販売。

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