みずほとはもう何年も一緒にやっているような感覚
──いままでの成田さんは自分の思い描くイメージを他のメンバーにはっきりと伝えることが少なかったんですか。
茉里:成田さんって自分の頭の中がいっぱいいっぱいだし(笑)、楽曲や唄っている時以外で思ってることをあまり外に出さないんですよね。だから私も成田さんの考えてることが分からない部分も多かったんだけど、いざレコーディングやライブをやる時の成田さんの爆発力はすごいし、そこで出てくる言葉の数がすごくいっぱいあるんです。そういう成田さんが考えてることを読み取る力を魔物に入って1、2年くらいで培ったので、成田さんから言われたちょっとした言葉から何かを感じ取れるようになったんですよ。それはきっと他のメンバーもみんなそうで、そのおかげで私自身も表現力が広がったと思うんです。
成田:THE 夏の魔物を結成してからは自分たちが自然体であること、チャンならチャンっぽさを出すことを大切にしてるんです。いまのこの6人のメンバーじゃなきゃダメなんだ、っていう気持ちも強いし、信頼できるバンド・メンバーじゃなければ一緒に音楽を作れないし、その思いが今回のEPを通じて伝わっていけばいいなと思ってるんです。
──加入してまだ5カ月のみずほさんとも強い絆で結ばれていると。
成田:もう何年も一緒にやってるような感覚ですからね。
茉里:みずほよりも私のほうがちょっとデビューは早いんですけど、対バンの数は誰にも負けないくらい何度もやってきたんです。私たちが魔物になる前から関係性が長いんですよ。みんなそれぞれみずほとは接点があったので、「まだ5カ月しかいないんだ!?」みたいな感覚なんです。自然にフッとそこにいるって言うか、古い関係性がそのまま続いてるような感じですね。
成田:みずほちゃんとはTHE 夏の魔物として一緒の時間を過ごしてるのも違和感がないし、全部必然の流れでここまで来てるんです。
──先ほど泉さんがヒャダインさんから直接アドバイスを受けたと話していましたが、具体的にどんなことを言われたんですか。
茉里:ヒャダインさんが私たちのレコーディングに参加するのは初めてだったんですけど、すごくいろんな情報を頭に入れてから駆けつけてくれたのか、「あなたならもうちょっとこんなこともできるんじゃない?」みたいな感じで自分の持ち味をうまく引き出してくださったんですよ。一つひとつの言葉に合わせた感情の込め方、その伝え方がヒャダインさんはお上手で、私もレコーディングをすごく楽しめたんです。
成田:ヒャダインさんの歌録りは、俺にはそんな発想はないなと思うことばかりだったし、メンバーみんなの良さ、みんならしさをより引き出す力がすごかったし、その場で唄ってみてもっと良くなるならメロディを変えたり、6人が輝く最善のディレクションをしてくれましたね。
──るびいさんがスクリームの作詞を担当した「マモノ・アラウンド・ザ・ワールド」はライブ映えする軽快な曲調のロックンロールですが、ピストルズやストーンズ、RCサクセションやブルーハーツに至るまで古今東西のロック・バンドの曲名が歌詞に散りばめられているのがユニークですね。
成田:今回はガールズに特化したEPにしたいと思っていたので、浅野尚志さんと話し合ってるびいとみずほちゃんをフィーチャーした曲にしてみたんです。二人をメインにした曲を書いたこともなかったので。魔物史上一番早く出来上がった曲で、詞もメロディも瞬殺でした。
男女混合ボーカルの強みと各人の際立った個性
──るびいさんのスクリームの作詞も仕上がりは早かったんですか。
成田:いや、彼女はレコーディング当日まで悩んだんじゃないですかね。ブースに入るまでどんなスクリームを入れるかは分からなかったけど、ライブでもよくスクリームをやってるので心配することはなかったです。本人もキングブラザーズとかが大好きなので、だったらできるだろうと思って(笑)。るびいとみずほちゃんは勢いがあってワン・テイク目が良かったりするし、「マモノ・アラウンド・ザ・ワールド」の録りもサクサクっと行きましたね。チャンの歌にはもうちょっと時間をかけるんですけど。
茉里:私の場合、譜割りだけしっかり覚えておいて、あとはその場でどういうふうに唄えばいいのかを言われたほうが伸びるタイプなんです。だから歌入れの前はあまりイメージをしないようにしてますね。自分が納得するよりも周りに納得してもらいたい気持ちがあるので、いろんな人の話を聞いた上で唄うことにしています。
──先入観に固まりすぎないように気をつけていると。
茉里:そうですね。いろんな唄い方ができるのが自分の強みだと思っていて、そこを引き出してほしいんですよ。THE 夏の魔物として男女混合ボーカルになってから表現の難しさを感じたりもしますけど、女性らしさもありつつ男女混合の強さも打ち出せたらいいなと思うんです。
──6人の声にちゃんと記名性があって、どの場面でも個性が埋もれないのがいまのTHE 夏の魔物の大きな強みですよね。
成田:それぞれのボーカルに味があるんですよね。特に女子3人は全然タイプの違う魅力があるんです。3人とも3人それぞれにしかできないものがある。絶対に替えのきかない、その人じゃないといけない歌やパフォーマンスなんです。それがTHE 夏の魔物の唯一無二なところなんですよ。
──バンドの振れ幅の大きさを見せつける「ハジメまして」はみずほさんがしっとりと唄い上げる一服の清涼剤のような曲ですが、最初からシンプルに歌とピアノだけでいこうと決めていたんですか。
成田:考えてみればハジメさんと一緒に曲作りをしたことがないなと思って、ハジメさんに作曲をお願いしたんですよ。俺はもともとハジメさんの作るピアノ主体の曲が好きで、そういうのをTHE 夏の魔物でもやってみたかったんです。そしたらハジメさんから「こんな感じでどう?」と上がってきたデモの第一稿がまさにそんな感じのピアノの弾き語りで、一発で「これでいきましょう!」ってことになったんです。これはホントに名曲だと思いますね。
──「ハジメまして」の歌もファースト・テイクが一番良かったんですか。
成田:あまりテイクは重ねなかったですね。チャンは魔物と別にソロ・ワークスもあったし、るびいは「マモノ・アラウンド・ザ・ワールド」でのスクリームがあり、みずほちゃんにはこの「ハジメまして」があり、女子メンバーそれぞれの今年に入ってからの背景を出せればいいなと思ったんです。
茉里:みずほって一緒にいても不思議なところがあって、私でもまだ掴み取れない部分が何百個もあるんですよ(笑)。そんなみずほがこうして歌詞にして自分の思いを綴るのを見たのは初めてで、「ああ、こんなことを考えてるんだな」と思いましたね。ブログやツイッターではもっとポカーンとしてますから(笑)。でもこれだけ言葉の詰まった歌詞を読むと、みずほは普段ポカーンとはしてるけど、実は周りがよく見えてるし勘もいいし、しっかり者なんだなと改めて感じましたね。ただの不思議ちゃんじゃないって言うか、フワッと見えるだけでホントは誰よりもしっかりしてる。「ハジメまして」はそれがよく出た曲だと思います。ハジメさんのピアノがみずほの歌声とよく合ってるし、彼女の良さを感じられる曲じゃないですかね。
──曲のタイトルはハジメタルさんを意識したんですかね?
成田:そうですね。みずほちゃんがつけました(笑)。
THE 夏の魔物の名刺代わりになる一枚
──ボーナストラックの「恋しちゃいなびびっど」は、成田さんが以前所属していたDPG時代の「恋シチャイナRPG」のアップデート・バージョンといった趣ですが、あえてこの曲を取り上げたのはなぜですか。
成田:ライブのテッパン曲だし、当時の自分が未熟だったのもあって、もっといいものにビルドアップしたかったんです。高野政所さんともまたこうして作品作りをできたこと が本当に嬉しかったですね。
──こうして全5曲を見てみると、短期間で制作に打ち込んだ割には非常にクオリティの高い作品が完成したのを実感しますね。
成田:手応えは自分でもかなり感じてます。ホントにいいものができたと思うし、それはやっぱりバンドを含むメンバー、チーム全体でよく話し合ったからこそですね。ライブを視野に入れた作品作りの最終的な形をみんなで共有できてたし、「魔物、BOM-BA-YE」を「シン・魔物BOM-BA-YE」としていまこのタイミングで新たに発表する意味も含めて、いまの自分たちがよく見えるものを作り上げるのが必然だったんです。確かに短期間で集中して作りましたけど、それが苦にならないくらいバンドのいまの状態がいいんです。それが作品に表れないとダメだと思ったし、絶対に表れると思ったし、THE 夏の魔物の名刺代わりになる一枚にしたかった。普段から一緒にライブをやっているバンド・メンバーの皆さんと作った作品は今回が初めてだし、それがいままでとは決定的に違いますね。
──「シン・魔物BOM-BA-YE」ではバンドの分厚い音の塊に歌が埋もれず、見事に拮抗してますからね。
茉里:そこはいま一番意識してるんです。バンド・サウンドを重要視してるのに声が負けてるって悔しいじゃないですか。ロックをやってる以上は自分なりの声をしっかり出したいし、ここ何年か試行錯誤してきた結果が今回のEPでは出せてると思います。