THE 夏の魔物の最新作『シン・マモノボンバイエ EP』は、誰にも真似のできない極上のエンターテインメントを追求する彼らの高らかなロック宣言と言えるだろう。絶え間ないトライ&エラーとメンバーとの邂逅によって彼らはついに魔物らしいロックを体得するに至った。それ即ち、ロックとはかく在るべきという窮屈なカテゴライズを蹴散らし、ペンライトを振れるロック・バンドがいたっていいじゃないかという何ものにもとらわれない自由奔放なスタンスである。つまり彼らは聴き手のロックの概念を測る踏み絵なのだ。さて、あなたはTHE 夏の魔物から届いた刺激的な挑戦状をどう受け止めるだろうか。(interview:椎名宗之)
ただ演奏するためだけに集められたバンドではない
──今回、メジャーの舞台で活動するのを選んだのはどんな理由からですか。
成田大致:今年の1月に「MAMONO RECORDS」を立ち上げて、THE 夏の魔物のファースト・シングル(『僕と君のロックンロール』)とチャン(茉里)のソロデビュー・シングル(『UTANINARE!! / わたし』)をリリースしたんですけど、もっとリリースの規模を大きくしていきたいと思っていたんです。そのちょうどいいタイミングでバップから声をかけてもらったんですよ。
──いまの布陣で自主レーベルを立ち上げるというのは何か象徴的な出来事のようにも思えますけど。
成田:THE 夏の魔物を結成した直後は、新しい作品をどこから出すかが決まってなかったし、それで活動が止まるくらいなら自分たちでレーベルを立ち上げようと思っただけなんです。
──『僕と君のロックンロール』は引き算の美学でシンプルな作りに徹した作品で、今回の『シン・マモノボンバイエ EP』はそれを踏まえた上でカラフルな色づけを施した印象を受けましたが、どんな作品作りを目指したんですか。
成田:THE 夏の魔物を結成してからバンド・スタイルでのライブも増やしだしたんですよ。自主企画ごとバンドの皆さんとライブをやってるし、日常的にスタジオにも入ってるし、バンド・メンバーの西さん(越川和磨)やハジメさん(ハジメタル)と「どうやったらもっとバンド・サウンドになるのか」についての会話が増えてきたんですよ。そういういまのTHE 夏の魔物に触れられるような作品にしたかったですね。
──生バンドとのライブとオケでのライブを並行してやっているのがユニークですが、皆さんの中ではごく自然なことなんですよね。
成田:キャニオン期と何が一番違うのかと言えば、やっぱりバンド・スタイルでのライブを定期的にやってることなんです。だけど、ただ演奏するためだけに集められたバンドではないんですよ。
曲を聴けば「夏の魔物」との違いが分かる
──今回のEPのリード・チューンである「シン・魔物BOM-BA-YE 〜魂ノ共鳴編〜」は、去年の9月に発表された夏の魔物のファースト・アルバム(『夏の魔物』)に収録されていた「魔物、BOM-BA-YE 〜魂ノ覚醒編〜」の続編という位置づけなんですか。
成田:そうですね。「魔物、BOM-BA-YE」はキャニオン期の代表的なナンバーだし、俺たちは『魔物、BOM-BA-YE』というキーワードでここまで来てるところもあるので、このバンドの皆さんと巡り合えた最高のタイミングでその続編を作ることにしたんです。
──以前のバンドの楽曲の続編を作るというのはどんな意図があってのことなんですか。
成田:「魔物、BOM-BA-YE」はヒャダインさん(前山田健一)と初めてタッグを組むナンバーということで、ヒャダインさんの色と俺たちの色をミックスしたものを作りたかったんです。そうやって出来上がった楽曲自体は素晴らしかったんですけど、今度の「シン・魔物BOM-BA-YE」はいまの6人+バンド・メンバーの4人の姿が見える曲にしたかったんです。「魔物、BOM-BA-YE」ではヒャダインさんの必殺技を全部いただいたんですけど、「シン・魔物BOM-BA-YE」は俺たちありきと言うか。これを聴けば夏の魔物とTHE 夏の魔物の違いだったり、なぜTHE 夏の魔物を結成したのかが分かってもらえると思います。
──THE 夏の魔物の6人の決意表明とも言える歌詞ですしね。作詞は只野菜摘さんとヒャダインさんが手がけていますが、成田さんの意向や歌詞の世界観はどれくらい入っているんですか。
成田:作家さんとはかなり細かく打ち合わせをします。「ここはこうで」「もっとこんな感じで」と具体的にやり取りをしますね。映画の世界にたとえるなら「魔物組」と言うか、みんなで作り上げる分業システムなんです。
──バンドのアティテュードを明確にする曲の歌詞なら成田さん単独の作詞でもいいんじゃないかと思うのですが。
成田:只野さんとはずっと一緒に作品作りをしてきた中で俺たちのことをよく理解してくれてるし、言葉足らずの俺が自発的に書くよりもTHE 夏の魔物らしい、みんならしい歌詞を書いてもらえるんです。「僕と君のロックンロール」の歌詞も只野さんで、今回の「シン・魔物BOM-BA-YE」も含めてTHE 夏の魔物のいまの姿が見える曲になってますね。キャニオン期の歌詞は世の中の代弁をするようなメッセージ性がありましたけど、いまはオアシスじゃないけど「もっと自分らしくあるべきだ」みたいなことを唄うようになりました。THE 夏の魔物を結成してからはそういう作風の変化がありますね。
泉 茉里:「シン・魔物BOM-BA-YE」に限らず、成田さんが思い描いているものを代弁した歌詞は私も素直に共感できるし、自然と入り込めるんですよ。メンバーそれぞれの思いや考えてることを特に話し合わなくても、成田さんがその部分をすくい上げてくれるんです。長い間一緒に作品作りをしていると気づけることや信頼関係があるんでしょうね。それでいて聴いてるお客さんにもどこかしら自分を当てはめることができる歌詞だと思うし、自分が書くことはなくても安心してお任せできるんです。
ヒャダインさんのアドバイスで表現力が広がった
──他の収録曲についても伺いたいのですが、まず「RNRッッッ!!!」。これは頭のピアノに乗せた歌の素っ頓狂ぶりにいきなり持っていかれますね(笑)。
成田:あえてスレスレな感じでみずほちゃんに唄ってもらいました(笑)。
──中盤のラップも小気味良いアクセントになっていますね。
成田:あそこのラップはDOTAMAさんにお願いしたんですけど、最初の予定よりもメンバーとの絡みが増えたんです。レコーディングスタジオでDOTAMAさんにどんどんおかわりして一緒に構築したと言うか、魔物ガールズとのコラボ感がグッと増した奇跡のようなラップです。
──「ロックじゃないとかうるさいな/ほんとは自由なものだよね」という終盤の歌詞はTHE 夏の魔物なりのロックの概念を言い表しているように感じますね。
成田:ガールズで作る初めての曲なので、只野さんと「こういう魔物ガールズらしいコンセプトで作りたいです」と伝えて作ったんですよ。
──ボーカル・パートの割り振りもかなり練っているんですか。
成田:いまはライブありきで考えてますね。それがかつてと違うところで、以前はボーカルの振り分けを事前に細かく考えていなかったんです。ギターのフレーズやリズムの雰囲気もそんな感じで、「この部分で西さんが出てくる」とかあらかじめ明確に考えることができなかった。バンド・スタイルでのライブが増えてきて、そういう細かいパートまで意識するようになったんです。
──いまはバンド・メンバーの各パートまでちゃんとした設計図が成田さんの中にあるわけですね。
成田:デモの段階で俺がフレーズを含めて考えてますね。俺たちはちょっと特殊な作り方をしていて、普通のバンドはリーダーがこうしよう、ああしようと言いながら他のメンバーと一緒に設計図を作り上げていくじゃないですか。俺は楽器ができないのでボイスメモで「このフレーズはこんな感じで」と作家さんに事細かく伝えて曲の設計図を練り上げて、それをバンド・メンバーと一緒にライブやスタジオのリハで積み上げていったりするスタイルなんです。以前はそういった作業ができなかったんですけど、いまはみんなで一個ずつ形にしていくことができているんです。
──映画で言えば、監督が主演を務めるような。
成田:そうかもしれない。『ロッキー』のシルヴェスター・スタローンみたいな感じなのかな(笑)。
──THE 夏の魔物の曲は勢い重視みたいなところがあるので、そこまで緻密な作り方をしていたとは意外ですね。
茉里:今回のレコーディングに入るまでにメンバー間でいろいろと話し合えたのが良かったと思います。いままでよりも長い期間、それぞれの曲に対するイメージをみんなで一緒に考えることができたので。以前、「魔物、BOM-BA-YE」を録った時の自分はほとんど思うように唄えなかったんですよ。自分の表現力がまだ全然足りなかったのもあるんですけど、それ以上に成田さんの描いてる世界にどう近づけばいいか悩んでいた時期でもあって。それが解消されたから今回の「シン・魔物BOM-BA-YE」は自分でも納得のいく出来になったんだと思います。あと、今回はヒャダインさんがスタジオへ来られて、ヒャダインさんのアドバイスを聞きながらレコーディングできたんです。それもあってかなり表現力が広がったし、自分の思い描いていた以上のものが録れた気がしますね。