Rooftop ルーフトップ

INTERVIEW

トップインタビュー酒井充子(『台湾萬歳』監督)×黄インイク(『海の彼方』監督)(Rooftop2017年6月号)

近くて遠い、台湾と日本

2017.06.01

歴史に翻弄されたある台湾移民一家を捉えた『海の彼方』

 

 『海の彼方』は八重山諸島の石垣島に暮らすある一家の姿を追ったドキュメンタリーだ。日本統治時代に沖縄に渡った台湾の人々は戦時中、台湾へ強制送還されたが、戦後の政治事情により再び沖縄に戻って来た。玉木家は三世代に渡り、こうした歴史の波に飲み込まれながら生き抜いて来た家族で、88歳の玉代おばあは、子供たちに連れられ人生最後となる故郷、台湾へと向かう。

 

──黄監督は東京の大学に留学経験があり、現在は沖縄に在住なんですね。

黄:撮影のために沖縄に通っていたんですが、結構大変なので去年引っ越しました(笑)。

──八重山に台湾からの移住者がいることは前から知ってました?

黄:大学では民族学の授業を受けていたんです。その時に沖縄に台湾から移住した人が住んでることを知りました。それで沖縄に行ってみたいなと。あと2012年に『八重山の台湾人』(松田良孝・著)という本が台湾でも出版され、それを読んだのも大きかった。

──今回、八重山で150人の台湾移民の人達に話を聞いたそうですが、その中で玉木家を撮ろうと思ったきっかけは?

黄:玉木玉代さんはいかにも台湾のおばあなんですが、同時に沖縄のおばあみたいな部分もあるんです。台湾と沖縄の両面を持っている。そこがよかった。

──昨年、本作が台湾で上映された時は台湾の若い世代にも受けていたそうですね。

黄:私は玉代さんを撮りながら自分のおばあさんを思い出していたんですが、台湾の若い世代にとってもそうだったようで、なつかしい台湾の姿を感じたんじゃないでしょうか。

──酒井監督は観てみてどうでした?

酒井:すごく面白かった。私が感じる台湾らしい文化が台湾よりもむしろ八重山にあったというのが驚きでした。

黄:八重山の台湾の人達は戦後の台湾の影響を受けていないんです。昔の台湾がそのまま残っている。そこが逆に新鮮ですよね。

──映画は玉代さんを主軸にしながら、三世でバンドマンでもある孫の慎吾さんが自分のルーツを探す物語にもなっていますね。

黄:人気バンド(SEX MACHINEGUNS)のベーシストである慎吾さんはステージでも堂々と自分が台湾三世であるということを言ってますが、八重山に移住した台湾の人達は、自分が台湾出身ということを隠している人の方が多いんです。昔と今では台湾のイメージが違うというのもありますが。

酒井:それは私も観ていて感じました。慎吾さんの親の世代は台湾人ということでいじめられた経験を語ってましたが、当時は日本の方が先に高度経済成長期を迎えたというのもあって台湾を下に見ていた。そういう差別意識があったんじゃないかと思います。

黄:私が八重山で映画を撮り始めた時には既に一世の人は亡くなっている人が多くて、撮るのが遅かったと思ったけど、逆に今だからこそ言えることも多いということがわかった。戦争当時のこととかは、十年前はまだオープンに話せなかった。

酒井:三世の代になってだいぶ意識が変わってきたと思います。

──お二人の映画の共通点として、自分のアイデンティティは何か?が重要なテーマになっています。日本人はふだんあまりそういうことを意識しないから、そこが興味深かった。

酒井:そうですね。日本人の多くは、自分が日本人であることが当たり前のことだと思っている。台湾人の場合、台湾と言っても国名は中華民国だし、国際的に他国と国交が結べなかったり、原住民を含め様々な民族が複合していたりと、その複雑さゆえに行くと毎回新しい発見があるんです。そして、その複雑さの中に日本も痕跡を持っていることを忘れてはいけない。

黄:彼ら(玉木家)のような、歴史の影に隠されながら生きてきた移民が日本の中にいるということを社会的に認識させたかった。多くの日本人は彼らのような存在を知らないし、彼らもまた自分達のことをあまり深く知りたくないのかもしれない。でもそういう歴史を認識することは、彼らにとっても日本人にとっても必要なんじゃないかと。

──沖縄やアイヌ、朝鮮などの歴史を知ってか知らずか、日本は単一民族だと思っている日本人はいまだに多いですから。

酒井:幻想としての単一民族なんですけどね。

──台湾は複雑な歴史を持っているし、いろんなルーツを持った人が一緒に住んでいる。自分は台湾人だって言う人もいれば言わない人もいる。日本もこの先どんどん移民が増えて複雑になっていくと思うし、そういう視点からも、台湾から学ぶべきことは多いですよね。

酒井:台湾は日本よりずっとフレキシブルですよね。多民族国家ということもあって寛容さの尺度がとても大きい。

黄:ただ、その過程にはいろいろな問題を抱えています。特に最近は新住民(1990年代以降に東南アジアなどから移住してきた人)が50万人を越え、少子化もあって、小学校の三分の一は東南アジアの子なんです。それは今の台湾の社会問題でもあります。

酒井:それって近い将来の日本ですよね。15年前に比較的裕福な家に行ったら東南アジアの女性がその家庭に住み込みで介護していたんです。最初はびっくりしましたが、今どんどん増えていますよね。

──あと、2014年の「ひまわり運動」など台湾の大きな社会運動を端から見てると、日本よりも台湾の方が民主主義が進んでいるんじゃないかと思うんですが、どうでしょう?

黄:やってる自分達はあんまりそう思ってなくて、抵抗すべきことがいっぱいあるし、それだけ社会的な偏見が強いってことでもあるんです。でもこれからそういうことを話す場がどんどん広がるといいと思います。それを実践するのは今からだと。

──台湾の未来に希望を見るかどうかはさておき、まずは知ることが大事だなと思いました。

酒井:そうですね。勉強しろってことじゃなくて、隣の国なんだから知っておいた方がいいですよね。映画がその入口になったら嬉しいので、是非たくさんの人に観て欲しいです。

 

酒井+黄2ショット.JPG

LIVE INFOライブ情報

台湾萬歳メイン.jpg
『台湾萬歳』
7月22日(土)よりポレポレ東中野にて公開ほか全国順次
(c)『台湾萬歳』マクザム/太秦
 
海の彼方メイン.jpg
 
『海の彼方』
8月、ポレポレ東中野ほか全国順次ロードショー
(c) 2016 Moolin Films, Ltd.

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