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酒井充子(『台湾萬歳』監督)×黄インイク(『海の彼方』監督)(Rooftop2017年6月号)

 この夏、台湾と日本の歴史と今を考える上で非常に興味深いドキュメンタリー作品が2本上映される。1つは日本人の酒井充子監督が台湾を訪れ、かつて日本統治下の時代を生きた人達とその子供、孫の暮らしに密着した『台湾萬歳』、もう1つは台湾人の黄インイク監督が八重山諸島・石垣島に暮らす台湾移民の家族を追った『海の彼方』だ。作風は違えども、どちらも普通に生活する人々の日常を捉える中で、アイデンティティとは何か?を考えさせられる非常に興味深い作品だ。酒井監督と黄監督の二人に話を伺った。(TEXT:加藤梅造)

変わらない台湾の姿を撮った『台湾萬歳』

 

 『台湾萬歳』は、台湾を撮り続ける酒井監督によるドキュメンタリー三部作の最終章となる作品だ。前二作『台湾人生』『台湾アイデンティティー』では、日本統治時代に日本人として生き、戦後の国民党独裁時代は二二八事件、白色テロなどに翻弄された「日本語世代」と呼ばれる人達に焦点を当てたが、今作では台湾の激動の歴史の中でずっと海や大地に向き合い、伝統的な生活を守る人々の「変わらない台湾」の姿を描いている。

 

──今作は台湾三部作の最終章ということですが、もともとそういう計画だったのですか?

酒井:最初からではないんですが、『台湾アイデンティティー』を撮った後にもう一本撮らなければと思いました。『台湾人生』で日本語世代の人達に主に日本統治時代の話を聞いたので、彼らが戦後の台湾をどう生きてきたのかをもっと詳しく知りたいと思って『台湾アイデンティティー』を作りました。その二作品は「台湾の人」を撮るという映画でしたが、今回はもう少し広く捉えて「台湾」を撮るということを意識しました。

──「台湾の日々の暮らし、当たり前のことを撮りたかった」ということですが、確かに今作では海に漁に行ったり、山へ狩りに行ったりと、生活を撮っている感じがしました。

酒井:過去、歴史的にいろいろな状況が台湾にはあったんですが、それを乗り越えてきた台湾の人達の強さであったり、しなやかさみたいなものを伝えたかった。それには、台湾の地に足をつけて暮らしている人達の生活を撮るのが一番だなと。

黄:私は映画の舞台である台東出身なので、他の台湾の人よりは原住民のことはわかる方なんですけど、それでも知らないことが多かった。

──ちなみに台湾の人は日本の統治時代のことをどのぐらい知ってるんですか? 日本人は知らない人も多いんですが。

黄:台湾の人は普通に知ってると思います。学校でも勉強するし、じいちゃん、ばあちゃんからも戦争の話を聞いている。ただ、いわゆる日本語世代はかなり少なくなってますね。

──三部作に共通するテーマとして、台湾人の日本に対する複雑な気持ちが今作からも伝わってきます。『台湾人生』の登場人物の一人はそれを「解けない数学」と語っていましたが。

酒井:よく日本では台湾は親日国だと言われますが、親日という二文字ではとても伝えられない複雑な状況がありますよね。台湾は日本の植民地、つまり被統治国だったのだから、恩恵を受けた人もいれば、差別的な扱いを受けた人もいる。冷静に見れば、いいこともあったし悪いこともあったというのが本音だと思います。でも今の日本人は悪い部分は見ないで、いい面ばかりを強調している。映画では、実際はそうじゃないんだよという所も含め、彼らの複雑な気持ちを伝えたかった。

──映画には多くの日本語世代の人が登場しますが、極端に親日な人や反日の人は出てこないですね。

酒井:そういう人よりも、日本を好意的に見ている人が時々チクリと言った方が作品に相応しいと思ったんです。日本兵として日本のために戦ったのに、用が無くなったら切り捨てられた台湾の人とか。そういう人に戒めてもらった方が響くんじゃないかな。私自身がそうだったから。

黄:日本に対する認識は、世代の違いもあって非常に複雑だと思います。簡単には答えられない問題ですね。

──戦後、国民党独裁政権による言論統制と弾圧の時代が長く続いたことも暗い影を落としていますよね。

黄:90年代になってようやく言論の自由が認められた。それまでは自由に意見を言える状況ではなかった。日本語はもちろん、台湾語も原住民の言葉も、中国語以外はすべて禁止されていましたから。

酒井:だから、『人生』と『アイデンティティー』はやっと自由に日本語で話せるようになった日本語世代の人達の声なんです。

──黄監督が物心ついた頃はかなり自由になっていたんですか?

黄:歴史の授業の中に台湾の歴史が入ったのは私が中学校ぐらいでした。だからつい最近のことですね。

──『台湾萬歳』は、日本語世代の元カジキ漁・漁師、張旺仔さんを撮ろうというのがきっかけだったと思いますが、台湾を象徴する部分があったということですか?

酒井:張さん自身には特に激動の時代はなかったと思うんです。逆に時代が変わっていく中で張さんはずっと変わらずに海に出て、畑仕事を続けていた。台湾の地に足を付けて生きてきたというのが、私の中では台湾を象徴する人にみえたんです。つまり台湾の大多数の人はそうだったと思うんです。前二作に出てくる登場人物は歴史に翻弄されてきた人達だったので、今回はそうじゃない人を撮りたかった。

──映画には日本語世代だけでなく、原住民ブヌン族のカトゥさんも登場しますが、彼を撮った理由は?

酒井:彼は、戦後中国からやってきた国民党の老兵の孤独を歌っているのですが、原住民の人が外省人(戦後、中国大陸からやってきて台湾に移住した人達)のことを唄にしていることに興味を持ったんです。前二作では外省人のことはあまり触れてなかったんですが、今回はカトゥさんの視点を通してそういう人達のことも描きたかった。カトゥさんの話で興味深かったのは、彼が子供の頃、外省人に対して「老兵は帰れ」と叫ばれた時代があったそうで、要は「中国人は中国に帰れ」ってことなんですが、ブヌン族である彼にとってみれば、台湾人の大多数である漢民族も元はと言えば原住民より後に来たんじゃないかと。

黄:台湾人にとって原住民の話はとても複雑ですし、その歴史を知らない人も多い。最近になって原住民のことをテーマにした映画、例えば『太陽の子』(2015年)などが作られるようになった。あと音楽ですね。そういうアートを通して原住民が自分達のことを表現する機会がかなり増えてきました。

 

Live info.

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『台湾萬歳』
7月22日(土)よりポレポレ東中野にて公開ほか全国順次
(c)『台湾萬歳』マクザム/太秦
 
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『海の彼方』
8月、ポレポレ東中野ほか全国順次ロードショー
(c) 2016 Moolin Films, Ltd.