Rooftop ルーフトップ

INTERVIEW

トップインタビュー平野悠×加藤梅造(Rooftop2017年5月号)

2017年4月、ロフトプロジェクトは新体制で出発!

2017.05.01

ライブハウスは全ての表現の受け皿

平野:そんな経験があって社長になって、率直にどうですか? …ってさぁ、俺、こんなつまんない月並みのインタビューしてて大丈夫かな(笑)。でもね、やっぱりここは聞いておかないとね。

梅造:ロフトっていうのは歴史の重みがあるので、そこは大事にしなくちゃいけない。都会ってすぐに再開発して歴史をなくそうとするじゃないですか、築地市場を移転したり、オリンピックで国立競技場を壊したり。そういうのは、よくないなと。ロフトっていい意味で昔ながらの泥臭い部分が残ってて、そこはちゃんと守らないといけないと思います。自由空間、 コミュニケーション、 出会いの場所、 いまどき正面切ってそんなこと言う人、なかなかいないですから。

平野:確かに暑苦しいよね(笑)。

梅造:悠さんはいつも「お客さんに優しくしろ!」って言ってますよね。ライブハウスって恐くて近寄りづらいイメージがあったんですけど、確かにそうじゃないよなって。むしろライブハウスってセーフティネットであるべきだと最近はよく思います。行き場のない人が来る場所だし。学校に友達がたくさんいるリア充みたいな人は、ひとりでライブハウスなんて来ないですよね(笑)。10代でひとりで来るっていうのはよっぽど変わったやつですよ。だから、確かに面倒な人もたくさん来るけど、友達みたいに受け入れてあげたいっていうか。

平野:クラスでひとりくらいいるタイプね。俺たちの若い頃はみんなポップスにハマってたんだけど、俺はジャズが好きでさ。でもクラスに一人は同じようにジャズが好きなやつがいるんだよ。そいつと「今日ジャズ聴きにいく?」「ジャズ喫茶行く?」みたいな会話をして、優越感に浸るみたいなのはあったよな。

梅造:そういう人たちが来て、解放される場でありたいと思うんですよ。リリー・フランキーさんがプラスワンのことを「文化のドブさらい」と喩えてましたけど、まさにそういうことで。ライブハウスの役割って最底辺で全ての表現の受け皿になることだと思うんですよ。あと僕が悠さんから昔聞いた話ですごく憶えているのは「ライブハウスは社会運動体であるべきなんだよ」っていう言葉ですね。

平野:もう昔のことは言わないで欲しい(笑)。でも、今のロフトはデモを手伝ったりして、社会運動体っぽくなってるじゃん。

梅造:悠さんの教えをちゃんと守ってるんですよ(笑)。でも実際、2011年の3.11以降は市民運動自体がカルチャーの領域に広がってますよ。

平野:3.11以降は激動の時代だよね。

梅造:原発問題なんてまさにそうですが、今まで日本のカルチャーって「ミュージシャンは政治的な発言をするな」とか「芸術は政治と無関係」といった「政治に関わるのはかっこ悪い」みたいな風潮があった。僕は、自分が十代の頃に聴いていたパンクのミュージシャンは普通に政治的な発言をしてたから、なんで日本はそうじゃないんだろうとずっと不思議だったんです。そんな中、劇作家の宮沢章夫さんが「"サブカルチャー"と"サブカル"はちがう。"サブカルチャー"から、政治性、思想性、社会性が抜けると本当につまらない。なぜなら"サブカルチャー"は本来そのような場所からやってきたからだ。」ってツイートしていた言葉がすごく印象的で、そうか、自分が好きなサブカルチャーってそういうものだなってすごく励まされたんです。

平野:その人自身のスタンスを問われる時代だよね。原発賛成か反対かでケンカになっちゃったりして。社会に問題を投げかけることはロフトの強みと弱みでもあるけど、ライブハウスは時代をひっぱっていくんだっていうことも含めて。でも一番の弱みってなんだろう。

梅造:ロフトというより音楽シーン全体の問題として、若い人の間で、音楽が昔ほど力を持たなくなってることかもしれないですね。

平野:音楽が一番じゃないんだよね。俺たちの時代なんて、音楽とプロ野球がなかったら他に娯楽が一切なかったけどなぁ。

梅造:音楽で育った者としては、音楽そのものが若い人を訴求していく存在であって欲しいんですけどね。

 

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ロフトが守ってきた「自由な空間」

平野:じゃあ強みは? ロフトはなんで今まで潰れなかったんだろう?(笑)

梅造:よく言えば「雑食性」、悪く言えば「節操が無い」ことだと思います。これも"平野イズム"だと思いますが、80年代初頭に、ロフトはパンクやニューウェーブといった最前線の音楽をやっていたのに、その一方でハードロックやヘビメタもやってたんですよね。

平野:パンクと並べて森田童子もフォークもやってた(笑)。

梅造:他のライブハウスはジャンル毎に出るバンドの傾向があったと思うんですが、なんでも出ちゃうロフトの多様性が逆に良かったと思うんですよ。最先端のものって長続きしないですし。悠さんのこだわりのなさ、面白ければ何でもいいじゃんっていうのが強みだった気がします。

平野:俺は本当はジャズが好きだから、それがなかなか捨てきれなくて、荻窪ロフト時代も月に3回くらいジャズをやってたんだけど、客が入らなすぎて諦めたんだよ。だから「もう自分の好みでやっていてもだめだ!」とロックにシフトしていったんだよね。

梅造:悠さんは「客と演者と店の三位一体! 店はみんなで作るものだ!」ってよく言ってますよね。

平野:店なんてどこもそうでしょ?

梅造:もちろん商売の基本だ思いますけど、普通そこまで暑苦しいこと言わないでしょう。

平野:あと課題は人材育成だよね。

梅造:昔のライブハウスは「音楽が好きだから貧乏でもやるんだ!」っていう根性論で成り立ってた所があったけど、今はそういう時代じゃないし、若者がちゃんと生活をして将来の夢を持てる仕事にしたいですよね。

平野:確かに次の時代にシフトする時期に来ていると思うよ。

梅造:ロフトの本質的な部分である「多様性」と「包摂力」は変わっていないと思うんです。むしろ、これからはより大事で。今って社会が窮屈じゃないですか。教育勅語を復活しようとか、共謀罪を作ろうとか……。社会が画一的で全体主義的な方向に向かっている中で、ロフトが守ってきた「自由な空間」というのはとても重要なんです。

平野:今後のロフトはどうなる? ずばり一言で。

梅造:ダイバーシティ&インクルージョン。「多様性」と「包摂力」はロフトの財産です。そこさえちゃんと守っていけば、新しいアイディアは若い人の中から自然に生まれてくると思うんですよ。自由に表現できる場所を作るのがライブハウス本来の役割ですから。

平野:じゃあ最終的に社長がやりたいことを具体的に言うと?

梅造:これは前社長も同じ考えだと思うんですけど、都内にゲストハウスを作りたいです。今は地方からも演者が来たりするので、泊まる場所があったら便利というのもありますけど、より深く人と人が交流できる場所があったらいいなと。ライブハウスはやっぱりイベントが中心なので、もっと生活に密着した空間を作りたいんですよね。LOFT9は、平日昼間はカフェをやっていますけど、そこで知り合いに偶然会って話しているうちにイベントに発展したり情報交換をしたりするので、空間って大事だなと思います。

平野:俺もゲストハウス構想はずっと目指しているんだよな。やっぱりね、この新体制をきっかけにロフトには活力を取り戻してもらいたいんだよ。

梅造:客・演者・店の三位一体で頑張りましょう!

平野:やっぱり暑苦しいな(笑)。

 

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