釜ヶ崎という場所の記憶に耳を澄ませる
生きづらさを抱えた若者や釜ヶ崎の住人が自然と集まるココルームでは事件も度々起こったが、それでも問題を起こした人を永久に出入禁止にすることはしなかったという。その一方で、上田は彼らを支援しているわけではないと言い切る。
上田:ココルームは「表現」が社会にどう関われるのかを探りたくて活動しているのであって、釜ヶ崎のためや、労働者のために活動しているのではないんです。困った人から相談されたりしても、自分がそれを聞いてどう思ったかを言うだけ。自分が思ったことだからそれが正しいかどうかもわからないし、その人に期待して何かを言うわけではないので、これは支援じゃない。聞いちゃったらそれに対して応答するという態度ですね。
とはいえ、2度の移転を挟みつつ既に10年以上この地で活動しているココルームは釜ヶ崎の街に徐々に根付いていき、今では貴重な地域交流の場所になっている。
庭は日々進化中。この日は庭石をみんなで敷き詰めた
上田:釜ヶ崎はとにかくおもしろい場所ですね。いろいろな知恵があるし、人間の奥底の何かがあるし、それに触れた時には自然と心が揺り動かされる。ただ、近年の開発や資本の流入でそういうものがどんどん見えなくなっています。釜ヶ崎という場所の記憶が上書きされ、すっかり忘れられたように景色が変わっている。でも、歴史の中で釜ヶ崎が持っているいろいろなものは次の社会を考える上で本当に知恵になるはずだから、そんなに簡単になかったことにされたくないと強く思います。釜ヶ崎という街の声に耳を澄ませ、記憶のバトンを受け取って繋いでいくことをどうやっていけばいいのか、がいまわたしの大きな関心事です。この場所にいる人が自らの経験を表現して、それを別の人が受け取るのがいいと思ってココルームは代弁しない活動してきたんだけど、最近は変化のスピードが速すぎてとても追いつかない。ともかく出会いの場をもっと作って、もっと出会ってもらって、勝手に繋がってもらおうと。荒っぽいと思うけど、焦りや行き詰まりを感じていたので、昨年思い切って、36ベッドのゲストハウスとカフェと広い庭を持つ新しいココルームを作りました。