Rooftop ルーフトップ

INTERVIEW

トップインタビュー上田假奈代(こえとことばとこころの部屋ココルーム)(Rooftop2017年5月号)

釜ヶ崎で表現の場をつくるゲストハウスとカフェと庭、ココルーム

2017.05.01

 日本最大のドヤ街・釜ヶ崎にココルームという場所があるのをご存知だろうか? 正式名称は「NPO法人こえとことばとこころの部屋(ココルーム)」、形態は「ゲストハウスとカフェと庭」であり、毎週様々なイベントやワークショップが行われたり 、若者の就労支援や釜ヶ崎の夜回りをしたり、日雇い労働者が自由に参加できる大学を開校したりと、いつ行ってもなにかしらの出来事が起こっている謎のスペースだ。私も何度か宿泊しているが、ある時は庭の歩道に石を敷き詰める作業を手伝ったり、またある時はウオンさんという音楽家の一周忌で、たまたまいた宿泊者みんなで楽器を演奏しながら庭に散骨するセレモニーをしたりと、突然予想もしない出来事に出くわしてしまう。お昼と夕方には「みんなで食べるまかないごはん」があって、ゲストルームのスタッフやその日の宿泊者、近所のおっちゃんと一緒にごはんを食べるのも楽しい。もちろんそこに参加するもしないも自由だし、緑の多い広い庭でゆっくりコーヒーを飲んだり、小さな図書室で本を読んだりと、それぞれが思い思いの過ごし方をすることができる。東京でも(おそらく世界中でも)なかなか体験できないこの不思議な空間にすっかり魅せられた私は、ココルームのリニューアル1周年の日に急遽大阪を訪れ、ここを切り盛りする詩人の上田假奈代にココルームの歴史についてお話をうかがった。多様性に満ちたココルームの魅力を活字で伝えるのはなかなか難しいのだが、少しでも興味を持ったら是非一度この場所を訪れてみて欲しいと思う。そしてその日何があったのかを私にも教えて欲しい。(TEXT:加藤梅造)

民主的に開かれていて、誰も排除しない

 

 ココルームを作った上田假奈代は母親が詩人だったこともあり、幼い頃から詩に親しんできた。二十代になるとコピーライターの仕事をしながら、詩人として朗読会やワークショップなどイベントを精力的に企画するようになる。そこで1つの事件が起こった。あるライブの終了後、顔見知りの大学生から「僕、詩を仕事にしたいんです」と相談されたが、詩は仕事にできないと考えていた上田は何も答えられなかった。そして1週間後にその大学生は自殺してしまう。その時、なぜ「しんどいけど、がんばりや」と言えなかったのか。それ以来、上田は詩を仕事にすることを真剣に考えるようになった。

 

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地下鉄「動物園前駅」から飛田に向かう飛田本通り商店街の中にココルームはある

 

上田:私も思春期の頃からずっと生きづらさを抱えていたんですが、当時、自分の周りで自殺する人が何人か続いたんです。そういうことがあって、この世からいなくなることと、今生きていることは何が違うのかを考えた。それは何かしらの可能性、それも不可能性を秘めた可能性なんだけど、わからなさと生きるってことが生きることなんだろうって思った。それで生き残ったものとしてどう生きていこうかと考えるようになりました。

 

 そして「その人が自分のなかにある光に気づくよう、傍らで待つことが詩人の仕事」だと思った上田は、これまでの仕事をすべて辞めて「詩業家宣言」をした。

 

上田:実際に自分が言葉で救われているのかと言えば、そういう時もあったけど、同時に言葉にならないものがすごく大事だということにも気づいたんです。「態度を持つ」ということが生き延びるのに必要なんだなと。言葉と言葉にならないものを行き来する、そういうことが大事だと思うようになったのがその頃ですね。言葉にならないからどう言えばいいかわからないけど、ちょっとした仕草やまなざしに感じたり、考え方を持つことがとにかく大事なんだと。

 

 詩を仕事にしようという思いは、早くも翌年には具体的な形になる。当時、新世界にあった娯楽施設フェスティバルゲートの空き物件に大阪市が現代美術拠点形成事業を立ち上げ、上田にも声がかかったのだ。そこでカフェと舞台を運営することを思いついた上田はさっそく仲間を集めスペース作りに取りかかった。そして2003年4月に「ココルーム」が誕生した。

 

 

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開放的なキッチン。昼と夕にある「みんなで食べるまかないご飯」(700円)は安くて美味しいのでおすすめ

 

上田:ココルームの家賃と光熱費は行政が負担するという条件だったんです。それで、税金をあずかっちゃった、と途端にビビってしまって考え込んだんです。公益性や公共性を果たすにはどうしたらいいんだろう。それで、いろんな人がこの場に来てもらえるようにしよう。壁にかかっている絵やリハーサルしていて漏れてくる音に興味を持ってもらえたら、現代芸術の振興に資するでしょう、と。やがて、喫茶店という場で見知らぬ同士がおしゃべりを始めたり、悩みごとを語るというのも、表現の場として、とても重要な意味を持つことに気づいていく。公共というのは、民主的に開かれていて、誰も排除しないということだと思ったんですよね。実際にはとても難しいことなんだけど。

 

 公共性を担保するとは言え、すべてを受け入れることが非常に困難なのは容易に想像できる。新世界は西成区、通称・釜ヶ崎に隣接しているということもあり、ココルームには釜ヶ崎で活動する人達も訪れるようになった。

 

上田:いろいろな問題が起こりますが、それでもほぼほぼ受入れちゃうんですね(笑)。でも嫌なことは嫌と言わないとやっていけないし、特に暴力沙汰や、人を傷つける人、過剰に依存してくる人などにどう対処すればいいのか。それはもう何度も試行錯誤し、失敗し、言葉を失いながらやってきました。人と関わるということはきれい事だけじゃないですから。

 

 

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入口からは想像もできないような広い庭が中に広がる

 

釜ヶ崎で表現の場をつくる喫茶店、ココルーム
上田假奈代=著(フィルムアート社)

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