ザ・モッズのカバーをやっても違和感がない理由
──ジャグバンド・スタイルの軽快なアコースティック・ブルース「Mr.Bastard!」やカントリーのニュアンスもある「Boys From The County Jail」を始め、収録曲はどれも粒揃いなんですが、チャンプスを彷彿とさせるインストゥルメンタル「Pistolero」からいきなりグッと引き込まれますね。これだよこれ! これが僕らの大好きなコルツだ! という感じで。
KOZZY:あのインストはみんなそう言ってくれるね。「これですよ、これ!」「待ってました!」みたいなさ。
──ジャングル・ビートとダーティな雰囲気が印象的な「Diablo」は岩川さんのソロ作の延長線上にあるような曲だし、ここ数年のコルツ以外の活動が如実に反映されていますね。
KOZZY:そうだね。ちゃんと還元されていると思う。
──ムーディーな「King Of Comedy」のセルフカバーは冒頭に岩川さんの笑い声が入っていて、リラックスしたムードや包容力に四半世紀の年輪が窺えます。
KOZZY:たしかに、ちょっと余裕を持った感じはあるよね。
TOMMY:岩川がなんで笑ってるかと言うと、僕がウッドベースを使ってたからなんだよね。
KOZZY:神田がウッドベースを持ってるのを見て、え? ウッド? って思ってさ(笑)。「King Of Comedy」はいつもライブでやってるけど、いまや入手困難なインディーズの1枚目にしか入ってないし、今回のアルバムの世界観を引き締めるために入れてみた。ほんのテストみたいなノリでやった一発録りなんだけど、それが意外と良くてね。
──「King Of Comedy」や「トリックスターのテーマ」といったセルフカバーはファンサービスの意味合いが強いんですか。
KOZZY:それもあるし、自分たちにとっても思い入れのある曲なんだよ。音決めとかで昔の曲をやったりもするしね。まぁ、「トリックスターのテーマ」は何を言いたい曲なのか自分でもさっぱり分からないんだけどさ。「なんで『草競馬』(スティーブン・フォスターが作曲した歌曲)なの?」とか思うし、ピッツバーグへ行けば何が待ってるのか全然分からない(笑)。でも演奏すると俄然盛り上がっちゃう。
TOMMY:そう、メンバーはすごく盛り上がる。
KOZZY:盛り上がるんだけど、何を言いたいのかは分からない(笑)。セルフカバーは良し悪しがあって、当時のオリジナル・バージョンのほうがいいって意見も分かるんだけど、こうして新たに手に取ってくれた人にも聴いてもらえる利点があるんだよ。オリジナルはとっくに廃盤だしね。
──「ブルースに溢れて」は、マックショウの「PLEASE DON'T LET ME DOWN」に続くモッズのカバーですね。
KOZZY:モッズとのツアーで販売する『SCARFACE A GO GO』っていうスプリットCDでも「CRACKER」をカバーしてるんだけど、「ブルースに溢れて」は純粋に曲もいいし、ノリもいいからね。ちなみに『SCARFACE A GO GO』のレコーディングは全編通じて僕がエンジニアとプロデュースと録音をやったんだよ。「浩二に全部任せるから」って森山さんが言ってくれたのは嬉しかったし、光栄だった。
──モッズのカバーが入ってもアルバム全体の流れを損なうことがないし、コルツの世界観にも溶け込んでいるのが見事ですね。
KOZZY:そう、僕の曲みたいだよね。いっそ自分の曲だったらいいのに(笑)。僕のソロ・アルバム(『MIDNITE MELODIES』)で森山さんが一緒に唄ってくれた「ワンパイントの夢」も違和感が全然なくて、森山さんも自分の曲だったらいいのにって言ってたからね(笑)。
──そう考えると、ここ数年で森山さんがまた改めて岩川さんのキーパーソンになっているのを感じますね。
KOZZY:もともと僕はモッズのファンだったし、コルツというバンド名も森山さんが付けてくれたものだしね。コルツもマックショウもモッズとは世界観が全然違うけど、その影響下にあるのは間違いないしさ。最初はモッズに憧れてコピーするところから始まったけど、それがだんだんと自分の血となり肉となっていったんだと思う。やがてモッズのルーツ・ミュージックまで掘り下げたし、だからこそ違和感のない演奏ができるんじゃないかな。
──岩川さんと神田さんがコルツの前にやっていたローリーはデビュー当時にモッズの野音で前座をやったこともあるし、付き合いは本当に長いですよね。
KOZZY:もう30年くらいになるね。ローリーが東京で初めてやったライブも森山さんは見に来てくれたし。
TOMMY:渋谷のエッグマンね。
偉大なる先人の背中にやっと追いつけた
──幾度となくモッズのカバーをやったり、ツアーで共演を重ねたりするのは、森山さんへの恩返しみたいなところもあるんですか。
KOZZY:もちろんあるし、ようやく森山さんの背中に追いつけたっていうのもあるかな。そう言うとちょっとおこがましいけどね。でも、やっと並んで何か一緒にできるところまでは来れたと思う。それもあって「ワンパイントの夢」を一緒に唄ってもらったし、あの人があんなふうにゲストで参加して唄うのは他のバンドで初めてだったしね。今回のスカーフェイスのツアーにしても、いまだからこそ一対一でできるんだよ。昔のスカーフェイスはピラミッドの頂点にモッズがいて、僕らは下っ端だったわけだけど。もちろんいまだって横並びではないけど、一対一でやっても遜色がないくらいにはなれた。
──モッズと遜色のないレベルになるまで25年かかったと?
KOZZY:そうなのかな。まぁ、スカーフェイス所属のバンドマンが何人か残っていれば良かったんだけど、振り向いたら僕だけだったっていうのもあるんじゃない?(笑)
──『SCARFACE A GO GO』でコルツがスカーフェイス時代の「HEY! DILLINGER」をセルフカバーしているのが義理堅いなと思ったんですが、「King Of Comedy」にせよ「トリックスターのテーマ」にせよ、過去のレパートリーを取り上げることに抵抗はあまりないものなんですか。
KOZZY:当時から大人びたことをやってたから、いまやっても違和感がないのもあるんだろうね。「HEY! DILLINGER」に関して言うと、モッズの「HEY!! TRAVIS」が『タクシードライバー』でロバート・デ・ニーロが演じた主人公・トラヴィスのことを唄ってたから、こっちはジョン・デリンジャー(FBIに「社会の敵ナンバーワン」と目されたギャング)のことを歌にしてみようと思って作った。コルツを結成してから何曲目かに作った曲だね。
──最初にできたのは「銀行強盗」とかですか。
KOZZY:そうだね。「銀行強盗」、「HEY! DILLINGER」、「独房502号室」辺り。
TOMMY:「IT'S ONLY ENTERTAINMENT」は?
KOZZY:あれは最初、オリジナルじゃなかった。「Mack The Knife」をやってたらオリジナルになったんだよね。
──ところで、モッズはなぜいまスカーフェイスに着眼したんでしょう?
KOZZY:いつかまたスカーフェイスをやりたいと森山さんは昔からずっと言ってたんだよね。モッズも僕らも去年の野音を終えてひとつの山を越えて、その後に普通にレコーディングをしてツアーをやるのではなく、ちょっと変わったことがやりたかった。そこでせっかく僕と絡んでるわけだから、森山さんのなかで心残りだったスカーフェイスにもう一度目を向けたかったのかもしれない。スカーフェイスは3年あまりで終わってしまったから、リベンジ的な意味でね。ただ、僕らもせっかくスカーフェイスの名前でモッズと一緒にライブをやるなら接待ゴルフみたいな感じになっちゃいけないと思ったし(笑)、スプリットCDもツアーもエッジの効いたものにしたかった。
TOMMY:モッズは大先輩だけど、コラボレーションは意外とうまくいくもんだなと思ったね。まぁ、世界観がそれほど大きく変わらないのもあるんだろうけど。
KOZZY:神田はもっぱらテープマシーンの操作で手が震えてたけどね(笑)。
TOMMY:そこは一生懸命やったね(笑)。でも、一緒にやってて何の違和感もなかったかな。モッズの誰かがコルツで弾いても違和感がないくらいに。
KOZZY:やっぱり、音楽に対してすごく真面目な人たちだなと改めて思ったよね。今回は仰々しいレコーディングはしたくないってことだったので、ウチのスタジオ(ROCKSVILLE STUDIO ONE)で必要最低限のことをやってもらったんだけど、与えられた状況のなかでベストを尽くす姿はさすがプロだなと思ったね。
TOMMY:そう、集中力がすごかったね。
KOZZY:苣木(寛之)さんもクレバーな人だから、「あそこでちょっとベースがヨレた」とか判断が的確でね。最初から完成形に近いデモを持ってくるしさ。あと、モッズの専属エンジニアの方が来てテープの編集をやってくれたんだけど、パンチインするのも男らしく切るなぁ…と思った(笑)。