多彩な異文化音楽をミクスチャーしたハイブリッド・サウンドの先駆者、ザ・コルツが実に11年ぶりとなるオリジナル・アルバム『BASTARD!』を結成25周年記念盤として発表した。囚人服姿のジャケットが示す通り、コルツと言えば誰しもが思い浮かべるあの底抜けに楽しいパーティ・サウンドが本作の基調。リズム&ブルース、ディキシー、ジャグ、ブルーグラスといった伝承音楽をドグマティックに追求するのではなく、ドラマティックかつドラスティックなロックンロールの色づけとしている。陽気な音の遊園地に知識や理屈なんて要らない。ひとたび身を委ねれば多幸感に包まれる音と旋律は極上の嗜好品だ。長く待ち望まれたアルバムの制作秘話、敬愛するザ・モッズとのコラボレーションについて、バンドの顔役であるKOZZY IWAKAWAこと岩川浩二、TOMMY KANDAこと神田朝行に語ってもらった。(interview:椎名宗之)
2017年のいまコルツが提示するべき音とは?
──今回の『BASTARD!』ですが、オリジナル作品としては20周年記念の5曲入りEP『BEAUTIFUL DAYS EP』以来6年ぶり、一般流通は『BEST OF THE COLTS 1997-1999 “HATS IN WONDERLAND”』『BEST OF THE COLTS 2000-2008 “IN HATFUL OF HELL”』以来8年ぶり、オリジナル・アルバムとしては『ROCKA ROMANTICO』以来11年ぶりになるんですね。
KOZZY IWAKAWA:そんなに空けてるつもりはなかったんだけど、マックショウが忙しかったからね。せっかくコルツをやるならちゃんとやりたいのもあったしさ。ライブは年一のペースでやっていたけど、メンバーもみんな忙しいからレコーディングをやるまでにはなかなか至らなかった。それが去年くらいかな、新曲のアイディアも出てきて打ち出す方向が僕のなかではっきりしてきて、一般的に出回ってないEPの曲もまとめたアルバムを作ろうと思い立ったわけ。ちょうどそんな頃にモッズからスプリット・ツアー(『THE MODS×THE COLTS “LITTLE SCARFACE FESTA 2017”』)をやらないかという話をもらったんだよね。
──『BASTARD!』とモッズとのスプリット・ツアーは別個の話だったんですね。
KOZZY:コルツは去年が25周年だったんだけど、モッズは35周年だったんだよね。それでモッズとマックショウが2daysで野音のライブをやったり、僕もいろんなプロジェクトに参加させてもらってモッズの35周年に集中した形になった。そんなさなかに森山(達也)さんから「コルツはいまどうなってるの?」って聞かれてね。モッズが35周年の後にどういう活動をしていくかの話のなかで、スカーフェイス(モッズが1991年に設立したレーベルで、コルツも所属していた)というキーワードが浮上してきたみたいでさ。最初は周りのスタッフも僕も「いまスカーフェイスですか?」と思ったんだけど(笑)。
──JACK KNIFEもTHE 100-Sも風来坊ももはや存在していませんしね。
KOZZY:コルツもスカーフェイス時代に世話になったのは僕しかいないし。
TOMMY KANDA:僕が入る前の話だからね。
KOZZY:で、「モッズとコルツでスプリット・ツアーを回るのは規模的にもいいじゃないか?」と森山さんに言われて、せっかくいただいた話なので「やります」と返事したわけ。それとほぼ同じタイミングで、コルツのアルバムの制作をこのまま突き進めようと思った。実を言うと、コルツのレコーディングはここ何年か何回もやってたんだよ。今回のアルバムの曲も半年以上前から取り組んでいて、「ちょっと違うかな」とかいろいろと試行錯誤してたんだよね。「Mr.Bastard!」なんて、2、3回レコーディングしてたしね。コルツとしての方向性と言うか、これだけ多岐にわたる音楽的要素があるから、そのなかでいまどういう部分をチョイスして音源にするべきかが課題だった。2017年のいま、コルツの音を出すとしたらどんなものにするべきかを定めるのに時間がかかったね。
──オールラウンダーだけにやれることが多々ありますしね。
KOZZY:うん。だったら一番コルツらしい部分を25周年に合わせて出せばいいんだと思った。そしたら急にラクになってね。
──それがこの『BASTARD!』として実を結んだと。鎖に繋がれた囚人服姿のジャケットが象徴的ですよね。コルツのパブリック・イメージはやはり囚人服の衣装だし、サウンドも全体的にフライハイト時代の3枚(『LIFE IS A CIRCUS』、『IT'S ONLY ENTERTAINMENT』、『CHEAPSKATES』)の雰囲気が蘇った気がします。つまり、誰もがコルツと言えば頭に浮かべるイメージが『BASTARD!』には集約されている。
KOZZY:そうだね。コルツの音楽性はどの時代も好きだけど、「コルツと言えばこんな感じ」みたいなところが自分たちも一番出しやすかった。それがメジャー・デビューする前のインディーズ時代の頃で、当時は暗中模索って言うか、何も手本のないところでいろんなルーツ・ミュージックを取り入れてたんだよね。スウィング・ジャズ、リズム&ブルース、ジャイヴ、ジャンプ、スカ、カントリー、ディキシー、ジャグ、アイリッシュ……ありとあらゆる音楽をね。ただ、何かひとつに特化したほうが自分たちもやりやすいし、お客さんも分かりやすいだろうってことで、囚人服を着なくなった頃からロック色を強めたんだけどね。
目指すのは注釈や説明の要らない音楽
──いまほどルーツ・ミュージックやワールド・ミュージックが注目されていなかった時代に、それらを貪欲に呑み込んで咀嚼したコルツの音楽性は早かったですよね。
KOZZY:早すぎたくらいだね。ジャズでもロカビリーでもスカでもない、もうホントにグチャグチャな音楽をやってたマノ・ネグラみたいなバンドですら当時はちゃんと理解されてなかったんだから。僕は92年にマノ・ネグラのライブを見て、次の週には彼らと同じようなことをやろうと思って動き出したんだよ。本人たちや周辺の人たちにどういう音楽なのか教えてくれって聞き回ったり、ワールド・ミュージックに詳しいヴァージン・メガストアの店員にどんなCDを聴けばいいのか聞いたりね。ディキシーランド・ジャズやカントリーを聴くためだけにラジカセを持ってディズニーランドに行ったりもしたし(笑)。ただ当時は見よう見まねだったから、初期のコルツはルーツ・ミュージックを全然形にできていなかった。ブルースもジャズもジャイヴも詳しく知らないからメチャクチャでね。でも、それがまた良かったんだけどさ。
──マックショウは第2期以降、広島“風”お好み焼きではなく純然たる広島のお好み焼きを作るように真正面からロックンロールをやり切るようになりましたけど、コルツは今作でも変わらず“風”ならではの良さがありますよね。いい意味でのイカサマ感やフェイクの楽しさが健在で。
KOZZY:コルツはあくまでも“風”なんだよね。だって、いまだにちゃんと演奏できないんだから(笑)。もちろん通好みのルーツ・ミュージックも一通り聴いてきたけど、できない。できないと言うか、やろうとしてない。僕らがやってるのはロックンロールだから。
TOMMY:「こんな感じ」くらいがちょうどいいんだよね。
KOZZY:自ずとそうなっちゃうんだよ。結局は雰囲気モノでしかないし、その意味ではサーカスや見世物小屋で鳴ってるBGMと同じ。いまやiTunesでレアなルーツ・ミュージックも聴けるし、真面目に研究することもできるけど、それじゃ身も蓋もないって言うかさ。それならオリジナルを聴いてたほうがいいし、ルーツ・ミュージックは僕が作る曲や詞の世界を彩る要素に過ぎない。
──『BASTARD!』というタイトルからしていかにもコルツらしいし、収録されているのも「これぞコルツ!」といった陽気で楽しい曲ばかりで、往年のファンにはたまらないものがあるんじゃないでしょうか。
KOZZY:往年のファンだけじゃなく、コルツを全然知らない若い人たちにも聴いて欲しいね。「こういう音楽もあるんだ」みたいな新鮮さもあると思うし、ジャズやブルースをちゃんと演奏できるバンドも若い人たちは知ってるはずだから。まぁ、そんなバンドに比べたらすごく違和感があるだろうけど(笑)。
──でも、決して求道的にならない軽さがコルツの持ち味としてありますよね。
KOZZY:常に楽しいほうが勝るって言うのかな。音楽を難しく考えることが全くできないんだよ。
──まさに「パーティやろうぜ」という曲のタイトルがそんな在り方を象徴していますね。
KOZZY:そうそう。パーティでロックンロールを聴いて楽しく踊ってる人に、「この曲は1937年にシカゴで録音されたんだよ」なんて言っても何の意味もないからね。そういう注釈とかライナーノーツの説明が要らない音楽を目指してるしさ。
──ただ、チャック・ベリーの「Almost Grown」を知っていれば「パーティやろうぜ」という曲の面白さがより際立つというのはありますよね。
TOMMY:うん、そういうのはあるけどね。
──『BEAUTIFUL DAYS EP』に入っていた「No Way Out」、「Wrong Way」、「Beautiful Days」を改めて収録したのはどんな理由からですか。
KOZZY:単純に出来が良かったから。完全な新曲を12曲くらい作ることもできたけど、あのEPは一般流通しなかったしね。ここで入れておかないと今度はいつ聴かせるの? みたいな感じもあってさ。
──コンピレーション・アルバム『Rock, Everybody, Rock -Rocksville Studio One In Tokyo-』のなかの1曲だった「パーティやろうぜ」を入れたのも同じ理由ですか。
KOZZY:うん。ここ数年で出したコルツの曲は出し惜しみすることなく全部入れちゃえ! と思ってね。だからコルツのいまある曲を全部出し切った感じ。