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『標的の島 風かたか』三上智恵監督(Rooftop2017年3月号)

あと数年後に兵士Aが生まれるかもしれない

 
 今作では、宮古、石垣に続いて、高江、辺野古もまた映画の舞台になってしまった。
 
三上:この映画を作ろうと決めたのは一昨年(2015年)の暮れぐらいで、これから宮古・石垣で起きることを撮らなきゃと思って始めたんです。それで、辺野古、高江はどうしようかと考えたのですが、その頃は高江がいつどうなるか全く予想がつかなかった。
 
 2015年2月に2ヵ所のヘリパッドを作って以降止まっていた高江の工事だが、2016年7月に突然残りのヘリパッド工事が再開された。しかも、7月10日の参議院選挙で基地反対派の伊波洋一が開票と同時に当選し、沖縄の衆参すべての議員が基地反対になったにも拘わらず、その勝利からわずか9時間後、狙いすましたように大量の工事車両が高江にやって来た。そして7月22日の工事再開に向けて全国から機動隊員が続々と集まってきたのだ。
 
三上:選挙の数時間後にその選挙結果を踏みにじる。このパターンは毎回のことで、沖縄県民の民意なんて聞いてないですからって言ってるようなもんですよね。君たちに選挙権なんかないんだよって。
 
 そして工事強行日の前日、高江に1600人の有志が集まった。
 
三上:1600人は記録です。今までは最大でも500人ぐらいだったから。たくさん来ると言われてましたが、その光景には本当に感動しましたね。
 
 しかし宿泊施設もトイレもない高江に翌日まで残れたのは100人ほどだった。最後の抵抗ともいえる非暴力の座り込みを続けるが、機動隊に数人がかりで抱えられ次々と排除されてしまう。負傷者もたくさん出た。1000人規模の機動隊を前に為す術をなくした山城ヒロジさんが「まだ憲法が生きている」と呟くシーンが印象に残る。
 
三上:警察権力だけでは排除できないぞって意味で言ったと思いますが、あの状況だと悲しいセリフですよね。
 
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 機動隊には完敗したが、この強制排除以降、高江の様子は一変した。それ以降、高江が「民主主義の砦」となって全国から多くの人達が集まることになったのだ。
 
三上:テレビではたいして報道されてなかったんですが、SNSやツイキャスで知った人がたくさん集まってきたんです。夏休みということもあって若い学生も多かった。多くの若者達に囲まれて七尾旅人さんが歌っている場面がありますが、その時はすごい熱気でしたね。
 
 この時、七尾旅人が歌った「兵士Aくんの歌」は、やがて始まるかも知れない日本の戦争で何十年かぶりの戦死者となる一人目の兵士Aくんについて歌った曲だ。
 
三上:私はこの映画で機動隊を悪く描くつもりは全くなくて、なぜなら彼らはみんな兵士Aくんの候補者なんです。自分で決める権限もなく上官の命令通りに動くしかない。もしいま自分のやっている任務に疑問を感じたとしても「沖縄の人達が嫌がっていることをやるべきではない」って上官に言える人が何人いるのか? その苦しさから目をそらすためには「だってあいつら土人なんだろ」って笑って、冷たい差別主義者になってしまわないと、心が潰れてしまうと思うんです。でもこの顔のない準軍隊のような人達の命を守るのは誰なのか? 沖縄戦を戦った第32軍は沖縄の人達にひどいことをいっぱいしたんだけど、食料の補給も兵員の補給もなにもなく、彼らこそ国から見捨てられた軍隊だった。中国戦線でもガダルカナルでもどこでも兵士はみんな見殺しにされた。今がまさに戦前で、あと数年後に兵士Aが生まれるかもしれない。じゃあ誰が兵士Aになるのか? それを想像できない日本人に対して旅人さんはあの歌を作って歌っている。私はそれを映像で見せることができると思った。機動隊は悪いと言いたいんじゃなくて、国はあなたたちの心を潰すようなことを命令する。尊厳や思考も奪う。命までもてあそばれてはならない、そういうことを伝えたい。
 

 

心が動けば自分の問題になる

 
 高江に集まった多くの若者達の姿を三上監督は捉えている。ある女性は、なぜ高江に来たのかと訊かれ「知ってしまったら他人事ではなくなった」と答える。
 
三上:『標的の村』を作る前の話ですが、ある時、祝島で上関原発の建設反対運動をしている若い男の子が高江に応援に来てくれたんです。見た目はチャラチャラしているんだけど、ハンストとかすごく頑張る子で。それで「なんでそんなにがんばるれるの?」って訊いたら「祝島で漁師の人の話を聞いてすごくカッコいいと思った。その時に心が動いたから」って言ったんです。なんてシンプルな動機なんだろうって。私は沖縄の問題を知ってもらうためには、沖縄戦のことも占領時代のこともいろいろ説明しないといけないんじゃないかと毎日手を替え品を替え十数年やってきた。でも、心が動いたから自分の問題になったと言われて、ああ、そういう感性で動く人はいっぱいいるんだなと。だから「知ってしまったら他人事ではない」という女の子も彼と同じ動機で高江に来たんだと思う。沖縄の問題に関心があっても、辺野古や高江の事情をよく知らないで自分が現場に行くのが果たしていいのかどうか悩んでいる人は結構いますが、「ひどいと思った」「カッコいいと思った」という自分の感性で動ける人は政府のやる分断工作には乗らないと思うんです。
 
 辺野古の場面で、私が最も印象に残ったのは、若い女性と若い機動隊員が無言で対峙するシーンだ。
 
三上:私は希望だと思ったんです。もちろん観る人の解釈でいいんですが、彼は彼女の視線に耐えきれないんじゃないかと。耐えきれずに目を伏せる。どちらが見ているものが強いのか分かるし、彼も自分がやっていることが本当に正しいのかどうか悩んでいるように見える。だからこの若い二人の姿こそ希望だと思うんです。
 
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 三上監督が『標的の村』を撮った頃と比べると、翁長知事の誕生などもあり、沖縄の基地問題の報道はかなり増えたように見える。しかし、その一方で沖縄についての不正確な情報も増えている。つい先日問題になったTOKYO MXの「ニュース女子」という番組では、基地反対派は金で雇われているといったデマを平然と放送した。
 
三上:ああいったヘイト番組ってもともと関西で始まったんですが、今回問題になった「ニュース女子」の番組を作ったのはその関西の番組と同じプロダクションなんですよね。あれはいわゆる「持ち込み番組」というやつで、テレビ局側は制作に何も関わってない。DHCという意識の低いスポンサーと関西のヘイト番組プロダクションが作ったパッケージ番組を楽に収入が得られるから、と無批判にテレビ局が買ったという図式です。とはいえ民放テレビは収入重視で何でも流していいっていうことではないはずなんです。でも質を問わず番組持ち込みを受け入れてしまう例は少なくない。それは弱小テレビ局の弱点ですよね。その一方に、ああいうデマを信じたくて仕方がない人達もたくさんいるんです。基地反対派は中国共産党なんだとか、日当をもらってるだとか、過激派なんだとか、沖縄の人達はああいうものだと笑ったり差別したりすることで、自分の罪悪感を慰撫する。そういう構図ですよね。
 
 ろくに取材もせず、ネットの嘘情報を垂れ流すテレビ番組と、現場に密着して膨大な記録から現場で何が起こっているのかに迫る三上監督の映画を比べるのも失礼な話だが、時として人は、考えさせられる複雑な事実よりも、何も考える必要のない単純な嘘に流されてしまう。
 
三上:「ニュース女子」みたいに反対派にモザイクをかけて機動隊と揉めているシーンばかりを編集して見せたら、あれはとんでもない過激派がやってるんだと簡単に印象操作できます。でもこの映画を観れば彼らがどれだけ人間的で魅力ある人なのかというのが一目瞭然にわかると思うんです。沖縄の問題なんか知らないし、見たくもないんだっていう気持ちを少し我慢して映画を2時間観てくれたら、ああ、普通の人達がやってるんだなってわかりますよね。私はその壁を越えて欲しいと思って映画を作っているんです。あんなに泣いて笑って歌って踊ってるヒロジさんの姿を見たら、誰だって彼のことを嫌いにはなれないと思うんです。
 
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Live info.

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標的の島 風(かじ)かたか
 
3月11日(土)より沖縄・桜坂劇場
3月25日(土)より東京・ポレポレ東中野 他全国順次公開
 
監督・ナレーション:三上智恵
プロデューサー:橋本 佳子、木下繁貴
配給:東風
 
(C)『標的の島 風かたか』製作委員会