Rooftop ルーフトップ

INTERVIEW

トップインタビュー牧村憲一(音楽プロデューサー)×平野 悠(ロフト創始者)(Rooftop2017年2月号)

老いては益々壮んなるべし!?
古希を超えた日本のフォーク・ロックの功労者たちが語る、自身の経験やノウハウを後世に語り継ぐことの意義とは──

2017.02.01

 数々の大物ミュージシャンの音楽プロデュースを手掛け、40年以上業界の最前線で活動を続けてきた伝説の仕掛人、音楽プロデューサー牧村憲一。ライブハウス「ロフト」グループ創始者の平野悠。互いの過去から現在を振り返っているうちに、次第に話題は今後の展望へ。激動の時代を歩んできたふたりが語る言葉は意外にも明るかった。
 「そんなに絶望する必要はないよ」「腐らず行こうよ」酸いも甘いも噛み分けた人生の先輩たちによる熱い対談とメッセージ!

出口のない時代に消極的に選んだ音楽の道

平野:ここ数年の牧村さんは、執筆、講演、ラジオ出演と精力的に活動してるよね。自分が音楽の世界で得た経験や思いを次の世代へ残したいという気持ちが文章の行間からも伝わるんだけど、何がそこまで牧村さんを突き動かしているんだろう?

牧村:2009年に心筋梗塞で手術入院したことが大きいですね。おかげさまで手術は成功したんでここにいますが、今はいただいた第2の人生だなと思っています。

平野:リセットできて、もう怖いものはないぞと。

牧村:怖いですよ。新年早々、暗い話をしたいわけじゃないんだけど、ここ数年、なぜか12月になると訃報が届きますよね。

平野:大瀧詠一さんも4年前の12月に亡くなってしまったしね。

牧村:そうですね。昨年末も僕にレーベルのあり方、音楽プロデュースとは何かを教えてくれたピエール・バルーが亡くなられ、ポリスターレコード時代に手がけたL⇔Rの黒沢健一くんも亡くなってしまって、まだ48歳ですよ。自分より年上の人ばかりではなく、黒沢くんのように僕よりもずっと若い人まで失ってしまう。だからこそ自分のやるべきことをやらなくちゃいけない、彼らが生きた軌跡も残さなくちゃいけないと思って。それがいまの自分の原動力ですね。

平野:牧村さんが音楽の道を志したのはどんな理由だったの?

牧村:決して肯定的に選んだわけじゃなかったんですよ。20代の頃にあった大学紛争と呼ばれた運動で体制に徹底的に打ち負かされ、加えて学生もさっさと趣旨替え。それで、どうやって生きていこうか悩んだ末、音楽に逃げ込んだんです。音楽で世の中を変えようなんて立派な志はなくて、消去法で考えていくと、少なくても自分に嘘をつかなくていい音楽の世界しか残っていなかったんです。目の前にあったのは、フォークやロックというまだ生まれて間もないもので、大手のプロダクションやレコード会社への就職はありえない。最初に入れてもらったのは舞台照明の会社で労音の企画もやっていて、一般的な給料の半分くらいの保証しかありませんでした。

平野:時代は政治の季節、新宿西口の地下広場でベ平連がフォークゲリラの集会をやってた頃だ。僕はその頃はもうギンギンの新左翼だったね(笑)。労働運動に従事して党員までやってたから、音楽で革命なんてできるか! と思ってた。

牧村:それはその通りですよ。僕には音楽しか出口がなくて、でもそのドアを開けると野っ原で、何でも自分たちで始めるしかない状況だったんです。でも思った以上に速いスピードで時代は変わりました。フォーク・グループの小室等と六文銭を誘った、1970年中津川であった全日本フォーク・ジャンボリーが大きかったんです。行ったら信じられないことに観観客だけで8,000人もいて。今ではびっくりしないでしょうが。そのあと、小室さんからの「マネージャーにならないか?」という一言で自分の居場所が固まりましたね。それでいろいろあって、早稲田の2年後輩だった後藤由多加さんに誘われてユイ音楽工房の設立に参加するわけです。拓郎、陽水の人気が上がるに従ってフォークはメジャー化して、ニューミュージックと呼ばれるようになって世の中に浸透していくわけです。それも時代と巡り合ってしまったがゆえですね。

平野:面白いね。消極的に選んだはずの音楽の道がどんどん開かれていくわけだ。

【平野・使用】hiranoU_06.jpg

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