Rooftop ルーフトップ

INTERVIEW

トップインタビュー田島ハルコ(Rooftop2017年2月号)

得体の知れないもののポピュラー性に期待をしたい

2017.02.01

 打ち込み系シンガーソングライター・田島ハルコの2ndアルバム『はるこにうむ』発売に際し、インタビューを行った。
 彼女のパーソナリティーや取り巻くノイズを紐解く、あるいは田島ハルコをまだ知らない人に届くきっかけになればなにより意味のあることになるだろう。(interview:田中萌[LOFT9 Shibuya])

理解あるスタッフ?!

ー『はるこにうむ』 聞きました! 前回のアルバム『暴力』に続き、いいアルバムです!

田島:ありがとうございます。

ー早速質問をしていきたいんですけれども…先日発表されたリリース情報はご自分で?

田島:怪しいプレスリリースサイトのやつは自分で書きました。自分で書いてるとしたらすごい気持ち悪い自意識だなっていう、そうゆう感じの文章ですよね。

ー(笑)。第三者がプッシュしているようなていだったので、ご自身で書かれていると知って面白かったですけど…。

田島:気持ち悪い客観性だとは思いますよね。自分のことが大好きな自分がもう一人いるみたいな感じです。自分がやってることを大好きで応援してくれるスタッフがいたらそれでいいんですけど、いないから、スタッフの人格みたいなのが自分の中にできちゃって…。

ー必要にせまられて人格までもが生まれ…?!

田島:そうですね、なんか「やってあげないと!」みたいな…

ーでもそれは一番理解があって強いスタッフですね(笑)。

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『はるこにうむ』というタイトル

ー前回は『暴力』っていう、もとからある言葉だったわけじゃないですか。今回は『はるこにうむ』で作り上げてきたなっていう感じがしたんですけど、どうですか?

田島:曲を何曲か作ってストックしている間にタイトルの候補も出てきたんですけど、前回『暴力』でパワーワードを使ってしまったので…人ってパワーワードが好きじゃないですか、下品というかネガティブな言葉でつけようかと思ったんですけど『暴力』を使った後にまたそういう言葉を使っても「またかよ」って思われるしな、と。『はるこにうむ』は急に思いついて、由来もないんですけど、アルバムのタイトルに自分の名前が入っているのって「大事な作品」っぽいじゃないですか。今は転換期というか、今作が今後を示す一つの重要なものになると思ったので、自分の名前が入っているのはいいかなと。で、コンセプト的なものは後付けなんですけど、作っていくうちにしっくりきた感じですね。

ーなるほど。そのパワーワードや下品さ、みたいなものが好きな幼稚な世の中で、以前田島さんのSNS上で「『田島ハルコ 整形』とかでググるようなやつは勝手にやっとけ」みたいなつぶやきをみて格好いいなと思った覚えがあります。

田島:いないですけどね、そんな人(笑)。実際にはいないですけど、どうでもいいことを掘り下げられるのは嫌だなっていう。今って芸能人でも「嫌なもんは嫌だ!」ってゴシップを拒絶できる時代じゃないですか。こっちが嫌なもんは嫌なのも、向こうが下品なことに興味があるのも仕方がないことだし「やめてくれ~」っていうんじゃなくて、もう本当に遠く彼方に置いて行きたいな、と。そういう人たちからいかに距離をとるか。走って遠くまで行かないと足を引っ張られ続けるから、それは嫌だし、でもいちいち個人的で下世話な発言にやめろなんて言うのもおかしいし。でもやっぱり一方で気になる自分もいて、だからもう、ものすごい速さで遠くに行こうと。

ーものすごい速さで(笑)。それはそうですよね、自衛としても正しいと思います。

田島:作品とかも、『一回この人はこう』みたいな認知が溜まってくると切り離したくなる傾向があって、100%誰も理解できないのは当然で、でも作品を作るのって理解者を探す、じゃないですけど何か人と繋がりたいとかわかってもらいたいからっていう原動力は必ずあって、こう投げたらこう返ってきて「ああそうなんだ」って思って、こうしたらこう返ってきて「なるほど」って思って、じゃあ次のステージに行くことによってまた意見とか周りの見方も変わってくるし、それを一生繰り返していかないといけないのかなって感じます。その経過の中でめちゃくちゃしっくりきて、「あ、これだな」ってことは永遠に無いかもしれないんですけど、それを繰り返していけば、自分の中の落とし所も見つかるかなといった感じです。同じところでネチネチ考えてると、自分が嫌になって自分を肯定できなくなりそうなので、どんどん次へ次への繰り返しですね。

ーそれが自分の為だと。

田島:そうですね、自分のためにも。

ー自分を守るというか「自分をよくしていこう」、「世の中もよくしていこう」みたいな気概をよく感じます、よくするための努力は惜しまないというか。

田島:最終的に人間が行き着くところとしてやっぱ性善説を信じているので、結局、人間てほっとけば良くなるんじゃないかと。だからさっき言ってたように嫌な感じで干渉してくる人もほっとけばよきところに向かうのでは、ということなんですよね。でもそうはいかない領域もあるので、そことどうやって戦うかと言ったら、作品なんですよね。それは音楽で戦争がなくなるとか極端なことではなく、わたしの作品に触れてくれた人がなにかひとつでも物の見方が変わったらいいなとか。

ー少しでも世の中の質を向上させたい、みたいな? たとえばフェミニズム的な発言も見受けられるじゃないですか

田島:私はフェミニズムを勉強しているわけではないので、私のそういった発言はただ自分が生きている上で感じる違和感からくるただの罵詈雑言で…社会派ではないし、エモいだけなんですよね。かわいい女の子がいるとみんな喜ぶみたいなことは悪いことではないし、女性がやったほうがいい仕事もあるだろうし、でもそれと同時に、男にしかできないとか女にしかできないってものは無いはずですよね、本当は。あるとしたら身体的な都合から来るものだけなんですよね。今、女の方が良しとされる職業は特に身体的なこととは強く結びついていないし、永遠にそれは固定ではないと思うんですが、今その価値観があるのは社会にフィットしちゃってるから仕方ないところもある。それこそアイドルとか。

ーでもそこからフスiDができて、『こんにちはシルエッツ』ができたわけじゃないですか。

※フスiD…田島ハルコ主催のミスコン。様々な思いを抱えながら生きる現代女性を優しく包み込む魔法の言葉「フス」。 田島ハルコはその言葉の響きからあまねく万象に宿る普遍的な原理を見出し、その女性的な音表象を社会に響き渡らせることで世の中のホルモンバランスを正そうと試み、独断と偏見と優しさで、現代に舞い降りたる女神の化身を探していきます。というコンセプト。

田島:フスiDはミスコンをやろう! と思ってやったわけではなくて、複合的にやりたいことをやろう! という感じですね。イデオロギー的なことを押し出す感じにはあまりならないようにしましたが、既存のミスコンのフォーマットへの違和感は形にできたと思います。そこで、やっぱり私はみんなをノイズで煙に巻きがちだけど、実はわりとちゃんと音楽の人でありたいな、という意識があったので、受賞者に提供するテーマソングをつくろうと思って、それが『こんにちはシルエッツ』という曲です。で、これはいいなということになって、結果、今回のアルバムの軸になっていますね。

ー曲順はなにか意図があるんですか? 『不定愁訴ストリップ』からの『ペルソナちゃんが通る!』は物語を感じますが…

田島:「不定愁訴ストリップ」は前回アルバム『暴力』側の曲で、でももうちょっとキャッチーに…たとえば日曜の7時くらいからやっているアニメの主題歌でもおかしくないような曲調にしようと思って。曲順は、中盤に盛り上げが来るように、『モンゴリアンデスワーム〜』からダダダッといく構成にして最後は幕を閉じる感を出そうと。で、本当はもっときれいに終わった感が出せると思ったんですけど、なんか自分で最後まで聞き返してみてもそんなに終わった感がないんですよね。でも、あっさり終わったけどまだまだ次のステージがあるぞ! って予感させる感じで悪くないかなと。

ーそれは次回作も期待できるというような?

田島:『暴力』と『はるこにうむ』は速さ重視っていうのがあって。細かいところに時間をかけたりはするんですけど、でもそれは自分を納得させるためのものなんで、曲を作る、歌詞を書くというのはその場でパッと出てきたことだけが真実だ!  として作り上げました。まあ、ある意味細かく詰められなかったことへの言い訳なんですけど、これはこれで多分真実です。なので、今後はもっとじっくり作り込んでいこうかと思います。

ー楽曲提供は今後も機会があれば?

田島:是非やっていきたいですが、機会があればの話ですし。正直、機会があっても応えられるかまだわからないですが…。フスiDは完全に自分が一から作った機会なんで、でっちあげというか、自分で開催したミスコンで提供が自分で、審査も自分で、すごい全部うそっぽいし、実際全部うそなんで、本当の楽曲提供は非常にやってみたいですね。本当は自分が歌うことを意識せずに曲を作りたいんです。『こんにちはシルエッツ』は自分を意識しないでつくったからキーがハチャメチャに高いんですよ(笑)。死ぬほどむりやり歌ってて。でも結果、そのキーで歌えるようになりましたし、自分じゃないものを意識すると新しいものが開花する感じはありますね。なので自分のために提供がしたい。おかしな話ですけど、お金払ってでも提供したいかも(笑)。

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SNSなどでの発信と理想の行き先

田島::音楽をやってるんですけど、どうでもいいノイズが多すぎて、ノイズがあってからの本編がでてくるんですよね…。

ーでもそのノイズが信ぴょう性につながるというか。信頼できるじゃないですか、田島さん。

田島:信頼はそうですね。うそはつくけど、受身とかかわしかたを知らない、そういう生き方をしてきたので正面からぶつかっていきますね、それしかできないので。信用はしてもらいたいですね。信頼してもらって大丈夫です。

ー信頼してます。でもこの感じでファンが増えると、宗教っぽくなりません?

田島:そうなんですよね、そっちへストレートにいけば、信者増やせそうではあるんですが、やっぱり不健康なことはやりたくないので回避しています。誰でもなんでも言える状況にしたいんですよね。いろんな人の意見が欲しいからこそ、たくさんの人に知ってもらいたい。宗教になると正解が一つしかない状況になるので。宗教が悪いとかではないんですけど、自分の活動はそうしたくはないです。作品自体は一方的な発信でいいけど、漠然と全肯定はされたくないし、コミュニケイトがしたい。で、それが自分のいまの規模ならできると思います。でも私が面倒くさい奴なので、ライブ終わりとかに「すごい良かったです」とか言われても「ありがとうございます」くらいしか返せないからアレですね、「今日のライブよかったです! でも◯曲目はクソでした!」みたいな感じだったらコミュニケーションがやりやすいかもですね…。

ー田島さんのいいところは「わかるひとはわかればいい」みたいな突っ撥ね方はしてなくて「みんなでわかっていこう・いけたらいいよね~」みたいな余白を残しているところだと思うのですが

田島:そうですね、最終的に届くべき人に届けばいいんですけど、ターゲットは絞ってないですね。今自分がマーケットにできる対象は多くないので、がっつり絞ってそこでまわるだけになったらすごくもったいないから。具体的に今目指すところとかもないし、作ってはみんなの反応を見て、これやったけど「どうだどうだ」みたいな…そういうのってずっとこれからも続くと思うんですよね。それをやり続ける意味は、やっぱり現状でポピュラリティーが獲得されていないものの、得体の知れないもののポピュラー性に期待したいからなんです。私に限らず、よくわかんないし抽象的だけどこれ実はポップだろうな、って思われるものが数字を取れる世の中になればいいなと思っています。

ーもしインタビューでなんで『モンゴリアンデスワーム』なの? って聞かれたら「ニッキーミナージのアナコンダに対抗して、もっと強そうなやつと思い『モンゴリアンデスワーム』にしました。」って答えるつもりだけど、普通に嘘です。って答えよう、みたいなつぶやきを見たんですけど、聞いてもいいですか?(笑)

田島:『モンゴリアンデスワーム』がツイッターの本当に局地的なところで流行っていて。そういう感じでツイッターでささやかに面白いことを発信し続けている人たちからの影響は非常に受けていますね。私はミュージシャンらしい交友関係とかはいまだ全然なくて、でも音楽を始める前からツイッターはやってて、じゃあツイッターで自分が影響力があるかといったら別に無いんですけど…。でも、この感じをなんて説明したらいいかわからなかったので、アナコンダのオマージュっていう、嘘をつこうと思ってました。モンゴリアンデスワームってすごくないですか? でっち上げなのに強度が異常に強いというか、あらゆるニュアンスで強い要素含みすぎ。そんなデスワームがいい奴だったらいいな、という願望であの歌詞の物語を作りました。

ーツイッターがインプットとしてもアウトプットとしても大きい?

田島:そうですね。ツイッターからのインプットの影響は大きいです。もちろんアウトプットもたくさんしていますが。ツイッターでは人の何気ない生活が垣間見えるのがすごくよくて。信頼できるセンスの人があげた動画を見て知らない音楽に触れたり、自分が掘り下げて見つけるのとはまた違う、自然と流れ込んでくる情報っていうのもまたちょうどいい。漠然と何に影響受けているか聞かれたらたぶんツイッターですね。主体的に見つけられる時代なんですけど、YouTubeとかわざわざ検索するのすらしんどいし、世の中と繋がりたくなくてもツイッターだと誰かの生活が、自分の布団のなかにまでインプットできていいですね。

ーみんながみんな、誰にあてるでもなく発信しているからストレスがないですよね

田島:そうですね。人と会わなくても文字情報でインプットができる。元気じゃなくても情報は追えるし。勝手に流れ込んでくるものを摂取して文化的な地盤ができていく、みたいなことがこれから増えてくるのかな、と思います。自分以外にもでてくるといいな、と。そういうぬるい人が増えていくのも面白いと思います。
 

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田島ハルコ『はるこにうむ』

発売:2017年2月22日(水)
価格:税抜1,800円
レーベル:Suezan Studio(スエザン・スタジオ)

amazonで購入

収録曲:
01. 砂漠のジュ~ス
02. こんにちはシルエッツ
03. 人体山脈
04. モンゴリアンデスワーム・ワルツ
05. 不定愁訴ストリップ
06. ペルソナちゃんが通る!
07. Void to Void
08. NEWSHIT踊ってミロ
09. 不快の速度
10. シュよ人の望みの喜びよ
11. バイオスフィアから愛を込めて
12. 桃の時代
13. こんにちはシルエッツ(For Fusu ID)

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